第35話 小洒落なスケルトン


 右、左、直進、右、右、左。


 無造作に入り組んだ道を駆け抜けていく。

 それでも到底、あいつらから撒ける気配はない。


 どこに行っても、目の前にあのアンデッドが現れるのだ。


 もしゲームだったら「しかし回り込まれた!」というウィンドウで埋め尽くされそうなくらいには、バッタリ遭遇し続ける。


 攻撃してこないわけもないし、処理に手間をかけさせられて非常に面倒だ。

 まぁ、それでもかなり効率化されてはいるが。


 (…!)


 またも、前方に敵発見。

 あれは……ゾンビだな。


 あの集団には、スケルトンとかゾンビといった代表的なものはさることながら、俺のようなマミーや、青白いだけの人間みたいなやつも紛れていた。


 たぶん、アンデッドだよ全員集合状態なのだろう。

 しかもバニラのアンデッドだけではなく、カース・スケルトンのような派生種もいるので、本当に勢揃いしている感じだ。


 まぁ、今現れたのはたぶんノーマルのゾンビだけども。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 俺に気づいた途端、ゾンビは一心不乱ににこちらに走ってくる。

 戦略もクソもない、愚直な突進だ。


 (【剥奪の呪い】【呪斬】)


 俺の左手から黒いモヤが噴出され、粘着質にゾンビに絡みつく。

 すると、呪いを放った手の先から、力が湧き出てくるような感覚が走った。


 そこですかさず右手を伸ばし、呪いの刃を飛ばす。


 円弧型を成して飛んでいく、黒々とした斬撃。

 まるで意に介さないように、スパッと、ゾンビを透けて通って行った。


 一瞬だけゾンビの動きが止まると、刹那、ずるりと上半身が斜めに傾く。


 そしてそのまま上半身は、ぐちゃりと水っぽい音を立てて地面に伏した。


 (よし掃除完了!)


 これが俺が編み出したコンボ。

 名付けて、「人の力で繰り出す魔法つえー」作戦!!


 【剥奪の呪い】で相手の魔力を奪い取り、次に魔法である【呪斬】を使うという二段回の攻撃だ。


 これを使うことで弱体化を撒けると共に、ほぼノーコストの攻撃を行うことができるので、今のような連戦ならばかなり強い。


 格上相手にはあまり通用しなさそうだけれど、一応今はそれなりに成功している。


 (そろそろ、どこかで撒いときたいが……)

 

 肉体的には疲れ知らずだが、精神的には連戦継戦は割としんどい。

 機会を見て休憩したいが……後方からの足音は当分止みそうにない。


 いったいどれくらい居るのやら────。




 【!!!!】


 電撃のような危機感を覚え、体を横へ投げ出す。


 すると、元いた場所に弾丸のようなナニカが通過した。

 ヒュンッという風を切る音が聞こえたため、かなりのスピードだろう。


 今の物理耐久で受けたら、ひとたまりもなかったはずだ。


 

 弾かれるように後方を見ると、そこには一体の骸骨。

 …しかし、見るからにスケルトンではない。


 (あれは…服…?)


 服のような布を纏っていた。


 ケープのように胸や背中にかけて、ボロボロの布きれが覆っている。

 頭には金物っぽい輪っかがかかっているし、明らかに自然生成のものではない。


 たぶん、したら、あんな風になるだろう。

 

 もしかしたら俺のように、死んでスケルトンになった……という感じなのだろうか。

 しかし俺とは違い、そこには人としての意識は失われてそうだが。



 (さっき放ったのはたぶん魔法だ。服装からすると、あのスケルトンは魔法系か…?)


 奴の真っ白な骨の右手には、腐った木片のようなものが握られている。

 もし生前が魔法使いだったなら、多分あれはかつては魔法の杖だったのだろう。

 

 まぁそれはそれとして、あのスケルトンが魔法型なのはわかった。

 問題はどう対処するか。


 先ほどのを見た感じ、かなり強そうな気配がする。

 俺と同じくらいか、それよりも上。

 少なくとも、さっきまで戦っていたアンデッドどもよりは強いはずだ。


 (とりあえずは出方を窺おう)


 【呪詛の外套】や【鎧化】はまだ継続している。

 なので今は、牽制目的のスキルを使おう。


(【剥奪の呪い】【呪縛】【呪斬】)


 全身から漆黒が放たれ、目の前のスケルトンへと伸びていく。


 それを見ても奴は棒立ち。

 何かする気配はない……わけない。


 

 左手に握られていた木片が、トンっと地面をつく。

 すると────。


 (うぉっ!?)


 たちまち世界が、

 パキパキと床や壁が凍り、俺は放った呪いは空中で霧散する。


 気づけば俺の足すらも、凍りつき始めていて──。



 (…!まずっ…!)


 先ほどと同じように、弾丸のような速度のナニカがこちらに放たれた。


 間近で見てわかったが、これは小さなだ。

 ものすごい速度で氷塊を放つという、単純明快で脅威になりうる魔法スキル。


 直進的な動きだが、今の俺は足が動きにくくなっている。

 避けるにはあまりにも遅すぎる。


 (くっ…、【呪爪】)


 指先から呪いで形成された大爪が現れる。

 ちょうど、俺を隠せるくらいのサイズ。


 それを盾がわりに、俺は氷の一撃を迎え撃った。


 ガキィンッという、まるで金属同士がぶつかりあった音が響く。

 呪いの爪は引き剥がされるも、氷の弾丸も同時に砕け散った。


 しかし、状況は好転したわけではない。


 足は未だ凍りつき…というかより一層固まってしまっている気がする。

 対してあのスケルトンは、まるで自由に動き回れそうである。


 先ほどまで走り回っていたのに、いきなりのを強いられてしまった。

 

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