第32話間話 白き少女の言行録



 オルレアンス王国王城、その一室。

 2人の人物が机を挟んで対峙する。


 一方は大柄でかなりゴツい体躯。

 鎧で隠されてはいるが、盛大に隆起した筋肉を携えているとわかる。

 しかしもう一方は、白いローブを纏う小柄な女性。

 顔立ちや身長からすれば、もはや少女といっても差し支えないだろう。


 あまりにも正反対な両者。


 彼らの立場や関係がどのようなものなのか。

 それは、部屋を取り巻く緊張が暗に物語っていた。



 「当番の兵士が行方不明?」

 「は、はい。先日の当番以降、誰も彼を見ていないようで……。記録書の記載もありませんでしたので、任務中に失踪したのかと…」

 

 緊張した声色で報告をすると、心底面倒くさそうな顔をしながら舌打ちをした。


 鎧を纏う巨漢が身震いするのは目もくれず、彼女は重い口を開く。


 「任せたのは上層部の見回り管理だけだよね?なんですぐ死んじゃうのさ、劣等種君たちは」

 「は、はい……」


 少女の鋭く冷ややかな言葉に、兵士は何も言うことができない。

 それがまた事実であると同時に、彼女のがどれほど上位にあるのかを理解しているから。


 「ま、おおかたゾンビにでも食べられたってところかな。ああいう系のではよくあることだしね、君たちにとってはさ」

 「……」


 少女はくるくると椅子を回転させ、ヒョイと飛び降りる。

 そして誰もいない方向に一瞥を送ると、蒼の宝石が先端につけられた杖が彼女の手へ飛んできた。


 「じゃあ、書類とか諸々の処理よろしく。僕は死体だけ探してくるよ」

 「承知致しました…」


 ひらひらと手を振って、部屋の扉へと歩いていく。

 兵士はそれを振り返ることもできず、ただ直立不動するのみ。


 「あ、そうだ」


 ドアノブに手をかけたところで、思い至ったように声をあげる。

 

 刹那、殺気じみた何かが部屋を取り巻き、空気が凍る。

 いや実際に、部屋の温度が急激に低下していた。

 

 寒さと恐怖で兵士が身震いする。


 「人事管理には、もう当番雇わなくて良いって言っといて。もうそういうのを代行できる機能を作ったから」

 「………。…!?えっ、それって……」


 寒さで一瞬反応が鈍るが、それを理解すると兵士は慌てたように振り返る。

 そこに映ったのは、まるで虫ケラでも見るかのような、少女の眼差し。


 「あぁ、今いる奴もクビ。だから君もクビってこと。それじゃ」

 「は、なぁ!?」


 兵士は、届きはしない、無駄だとわかってるが少女の方へ手を伸ばす。

 だがその時にはもう、彼女は自分の背丈からすると高いドアノブをひいて、この部屋から立ち去っていた。


 ひとり、鎧の男が残される。

 腕の部分が凍てつき始め、吐く息が白くなっている。

 

 どうすればいいのか、そんなにも無情なのか。

 困惑が居座り続けて、その場で固まってしまう。


 ガシャリ、と床に膝をついた頃にようやく……いや改めて理解したことは、上位生物少女下等生物一般人の間にある、隔絶した壁だけであった。



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