第28話 骨と生首


 ふよふよと浮いた頭は、察知したのか、真横にぐいんと逸れる。


 思ったよりも的が小さかったこともあって、俺の先制攻撃は空振り。

 勢い余って、地面に転がった。


 ガッシャガッシャと音を立てるが、デングリ返ししてなんとか勢いを殺し、体制を立て直す。


 すぐ後ろを振り返ると、やっぱり緑の炎のようなものを揺らめかせる人の生首が、ぼんやり漂っていた。


 顎をパクパクさせながら、こっちを見つめている。


 (うわぁ、なんだアレ)


 肌は異様に青白く、目を黄ばんだように濁っているが、多分あれは人の首だろう。

 まぁ、緑色の火を纏う首だけの存在はもう「人」と呼ぶことはできないが。


 

 生首がぬらりと動き出す。

 そして、黒ずんだ歯を剥き出しにして、こちらに突っ込んできた。


 (うわ気持ち悪ッ……! ……じゃなくて)


 その気迫に若干引いてしまうが、とりあえず構えをとっておく。

 安直な直線上の突撃だ、カウンターはしやすい。


 迫る顔面に向かって、鋼のような拳によるストレートを放つ。

 

 スキルの補正も乗った強力な一撃。

 これには生首もなす術なくやられ────なんてことはなく。


 (おわぁ!?拳に噛みついた!?)


 繰り出した拳は、生首の牙によってガッチリと咥えられていた。

 喉まで貫通したわけではない、たしかに歯で挟んでいる。


 どれだけの頑丈な歯……というか反射速度だ。

 あの高速の一撃を察知して、受けきったというのなら相当なことだが……。


 

 グッと腕を引っ張っても抜けない。

 固定でもされたかのように、拳が歯に挟まって動けない。

 すごい頑丈顎だな……、硬質化した拳でもミシミシ言うくらい────



 (って、まずいまずいまずい!!)


 妙な音が手から聞こえてきて、慌てて生首を振り回す。

 しかし、離れるどころか余計に力が増している気がする。


 ミシミシと拳が震える。

 ものすごい力によって挟まれているからである。

 あわや噛み砕かれんという勢いだ。


 (なんなんだまったく…!?【牙抜きの呪い】【剥奪の呪い】【呪いのまじない】)


 少しだけ力が弱まったが、それでもやはり離れない。

 狂気な形相で、未だ拳を咥え続けている。

 

 (えぇい!!このっ、このッ!!)


 力任せに腕を振るう。

 壁、床、柱。あらゆる場所に噛み付いている頭をぶつける。


 それでも外れないというのだから、驚異的な咬合力だ。

 手の先の感覚がだんだん鈍くなっていき、手の甲にピシッと亀裂が走る。


 いよいよまずい雰囲気だ。


 (あああもう!!さっと抜けやがれこのヤロウ!!)


 ダンっと勢いよく頭を壁に押し付ける。

 そして、硬質化したもう一方の拳を振りかぶる。


 外れないというのなら大元をやるしかない。

 なんども打ちつけた感じ、本体もかなり頑丈そうなのだが……。


 このままだと埒もあきそうにないので一撃に全力を込める。


 【必殺拳】


 振りかぶった拳から強烈な光が発せられ、辺りが鮮明になる。

 閃光を纏った一撃を、そのまま気色悪い生首へ。


 ズゴォォオオン!!!という炸裂音と共に、世界が目まぐるしく揺れ動く。


 目のチカチカも相まって、視界はほとんど機能しない。



 やがてようやく落ち着きを取り戻したところで、再度生首を見ると、もう捉えることはできない。


 ただ壁に打ちつけた、ひび割れた俺の拳があるだけだった。



 (勝った……か、スッポンでももう少し易しいぞ……)

 

 前世に体験した薄らとした記憶を思い起こし、内心苦笑した。


 


〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『ボディレス・グール:上伍位』に遭遇しました。

……………

▼ユーザーに200のダメージ。

……………

▼ユーザーに459のダメージ。

▼『ボディレス・グール』を撃破しました。

▼789の存在値を獲得しました。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 


 

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