第24話◯魔法陣


 水底から吸い上げられるような感覚に陥って、俺は覚醒した。

 

 どうやら、なんとか無事に位階上昇が完了したらしい。

 いろいろ危険視していたことはあったけど、幸い、杞憂であったようだ。



 ほぐす筋肉もないけれど、寝起きの伸びをしてみる。

 簡単なストレッチなんかもやってみるが、さして異常なんかはみられない。


 うん、ちゃんと回復しているようだ。

 失っていた右腕も生えて、ひび割れていた体も「なんということでしょう」と言いたいくらい綺麗になっている。

 

 これで完全復活。

 HPもMPも全快し、ようやくこれで山場を乗り切ったと言えるだろう。


 さぁ、その峠を越えたことで、どれほど成長できたのだろうか。

 最終確認してみよう。

 


==============================

個体名:ーーー

種族名:カース・スケルトン

位階:劣壱位レッサー・ワン

存在値:7661

[能力]

生命力:1328/1328

魔力 :339/339

攻撃力:184

防御力:171

抵抗力:257

敏捷力:122

==============================



 おぉ…!!

 おおぉ…!!


 かなり成長しているのではなかろうか。

 全ての能力が三桁台を超え、生命力に至っては1000にも昇り始めている。


 未だ位階が【劣】ゆえに、この世界基準では下なのかもしれないが、それでも貧弱過ぎたあの頃より大きく見違えたと思う。


 まぁ、このノビの理由の大半はゴーレムのおかげではあるんだけどね。

 やっぱり大きな試練を乗り越えた先には、それなりの恩恵があるもんだな



 

 そういえばどうでもいいけど「レッサー・フィフス」「レッサー・サード」と来ておいて、トリの一番目が「レッサー・ワン」なのが変な感じだな。


 ふつう「レッサー・ファースト」みたいなんかじゃないかと思うが……まぁ、それを気にするのは野暮というのかもしれない。

 

 



---




────ズゴォォオオン!!!



 部屋中に、猛烈な破壊音が轟く。

 扉が吹っ飛ばされ、その向こうにあった瓦礫共々粉砕される音だ。


 (いや〜…、やばいなこれ…)


 腕が復活したので先ほど開かなかった扉を開けようとしてみたが、やっぱり無理だった。

 そもそも瓦礫が引っかかって、開かないようになっていたようだ。


 無理矢理押し開くのも無理だと悟り、扉共々飛ばしちゃおう!という結論に至ってのこれである。


 十中八九、スキルのおかげだろう。


 【徒手空拳】と【砕岩空拳】といったか。


 どちらも素手のときに発動するスキルだが、その影響はだいぶ大きいらしい。

 こんなカリンチョリンな体でも、あの頑丈そうな扉を瓦礫諸共、一撃で飛ばしてしまうのだから。


 今後戦闘する際、このスキルには頭が上がらなくなるだろう。

 


 そんなわけで、扉の向こうを進んでみる。

 長い廊下になっているようだが、上から落ちてきた砦の残骸で大変なことになっていた。

 

 家主に同情と若干な罪悪感を持ったところで、また新しい部屋の扉があった。

 今度はすんなりと開き、5畳程度の空間が現れる。


 こちらにも、またたくさんの本が敷き詰められた本棚が。 

 しかし先ほどのような研究場所という感じではなく、どちらかというと書斎のような雰囲気だ。


 暖炉があったり、ユラユラ揺れることのできる椅子ロッキングチェアがあったりと、こちらは落ち着ける空間となっている。


 

 特に注目すべきなことはなかったので、次を進むことにする。

 案外この地下室は広いようで、廊下が長かったり枝分かれていたりと、散策するのもだいぶ大変そうだ。


 とりあえず、特筆した部屋だけを探索してみよう。

 というか、出口を早く見つけたいところだ。



---



 そんなこんな言っていたら、とうとう最後の部屋に辿り着く。


 虱潰しに全部屋を確認して周ったが、やはりこの地下空間には頻繁に人が出入りしていそうである。


 まだ新しい紙の本があったり、消えてしまって久しくない蝋燭なんかも置いてあった。

 蜘蛛の巣が張っていたり埃が舞っていたりしているわけでもない。

 人の形跡は探せばいくらでもある。


 もしかしたら、このまま待機していれば部屋主に遭遇してしまえるかもしれない。


 別に、会ってどうするのかと言われれば何も言えないが……。

 まぁ、ほとんどは興味本位だ。


 この世界の人間がどういうものなのか、少し興味がある。


 ろくに言葉は通じないし、そもそも俺は喋れないが、それでも何か見えてくるのではなかろうか。


 ……こんな見た目だから、危害が飛んでくる可能性がだいぶ高いけど。


 

 まぁ、それは会った時に考えよう。

 この先に部屋に地上への階段があれば、もうここからはおさらばなわけだし。



 (ということで、いざ入室)



 ドアノブに手をかけて、扉を開いた。

 

 そこは、明かりのない真っ暗な空間であった。

 ……いや、真っ暗というほど、光がないというわけではない。


 厳密に言えば、床がぼんやりと光を放っていた。


 緑、赤、青、黄…。

 とにかく、いろんな色の光が模様を描いていた。


 その模様をぱっと見の印象で説明すれば、


 意味のわからぬ記号が円を描くように書き連ねられており、それが怪しげな光を放っていた。


 (なんだ…ここ…)


 その魔法陣が何個も何個も床に描かれていて、雰囲気は本当に奇怪なものだ。

 

 しゃがみ込んで、間近で見てみる。

 近くで見てみれば、本当に緻密に記号が記されている。


 いったい何が目的でこんなこと─────





 模様の描かれた床に手を突いた、その刹那。

 その手が、強烈な閃光を伴って地面に沈み込みように


 (うわぁああ!?)


 いきなりの出来事で、思わず反射的に手を引っ込めた。


 消えたと思っていた手は、ちゃんと腕にくっついている。

 引っ込めたら猛烈な光も止み、また真っ暗な空間に立ち戻る。


 (……なんなんだ、これ…!?)


 今度は、そっと模様に触れてみる。


 しかし今度は反応しない。

 そういえば、触れた魔法陣からの光が薄まっている。


 効果切れ……ということだろうか。

 いったいどんな効果が発生したのか、そもそも意味があったのかもわからないけれど…。

 

 この周りにある魔法陣、全て同じようなモノなのだろうか。


 手を入れたら沈み込んだ………ありがちに考えれば場所と場所を繋ぐ…とか。


 だとすると、いったいどこに繋がっているのだろうか。

 そもそも、なんでこんなところから繋ぐ必要があるのか…?

 

 もしかしたらこの部屋の主は、この転移魔法陣をくぐってやって来たり…するのだろうか……?


 

 いろいろな考えを巡らせる───そしてその一刻。



 

 ─────再度、強烈な閃光がこの部屋を包み込んだ。



 (……!?また!?何か踏んじゃったのか!?)


 

 咄嗟に視界を塞ぎ、何が起きてもいいよう身構える。

 いきなり猛獣が襲ってきやしないか、いきなり谷底まで突き落とされはしないか…。


 変な考えが思考を右往左往してる間に、光は止む。


 どうやら閃光を放っていたのは、中央にある最も大きな魔法陣であった。






 視界が落ち着きを戻し、再度暗闇がこの空間に舞い戻った頃。













 その魔法陣の上には、白のローブに身を包む少女が立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る