第25話 ボーンミーツガール


 光と共に現れた、魔法陣に立つ少女。


 雪のように真っ白な髪を腰の辺りまで伸ばし、全身もそれに負けず劣らずな純白のローブに包んでいる。

 透き通った銀色の眼だが、ジトリと瞼を垂らしており、どうにも眠たそうだ。


 片手には、先に真紅の珠がついた杖のようなものを握っており、服装も相まって魔法使いのよう。

 もう片方の脇に分厚い本を挟んでいるのが、余計にそう思わせる。



 ……というか、実際にそうなのではないか。


 

 この地下空間には、怪しい小道具やら液体やらがどこかしこにもあり、魔法使いの存在を匂わせていた。

 あっつい革の本も各所に納められていたし、やはり魔法使いの私有地みたいなものでは、という結論に至っていた。


 そして、今目の前にいる少女。


 ローブに杖という、いかにも「私は魔法使いです」とでも言いたげな様相。

 挟んでいる本も、先ほど散々見かけた革のものと瓜二つだ。


 なにより彼女は、あの魔法陣から現れている。


 魔法使い以外も使えるのかもしれないが、それでもここから登場してくるあたり、

 この空間を利用するためにやってきた=部屋の主or関係者≒魔法使い

 と推測するのが妥当だ。


 (……いや、でも、う〜ん?)


 しかしその結論には違和感……というか疑問が存在している。


 それは、この少女の姿がのでは、ということだ。


 背丈がかなり低い……ぱっと見では140cmギリギリあるか程度である。

 大人でも低身長な人はいるが、それでも顔つきがあどけなさすぎるというか…。


 推測ではあるが、年齢的には小学生くらいだと思われる。


 なんでそんな子供が、こんな鬱蒼とした墓場の地下にやって来るのかは甚だ疑問であるが…。




 ─────視線がかち合う。合い続ける。



 お互い、対面時から一歩も動いていない。

 ただ視線をぶつけ合っていた。


 登場してから、少女は1ミリも微動だにしていない。

 まばたきひとつせず、ただこちらを見つめるのみ。


 もしかして、突っ立ったまま死んでしまったのではないか、という変な考えにも至りそうになるほどだ。


 そんな彼女に異様な雰囲気を感じて、なぜか俺の方も迂闊に動けないでいる。



 しかし、その停滞もわずかに崩れ始める。



 彼女の視線が、若干右下に逸れた。

 方向的には、座り込んでいる今の俺の肩くらい。


 なんだなんだと俺も彼女の視線の先を見てみるが、別に何があるわけでもない。

 

 また少女の方を見てみると、彼女の視線は左から右へ……そしてまた左から右にと、何かを読むような挙動をしていた。


 しかし当然その視線の先は虚空、強いて言えば俺の体であり、読むものなどはいっさいない。


 (なんだ?いったい何があるんだ…?)


 そんな様子に困惑せずにいられない。


 もっとこう、怖がられるとか攻撃してくるとか、明確なアクションがあるのなら納得できるが、全くの無反応だとこっちもどうすればいいのかわからない。


 前者なら説得というか弁解というか…まぁ行動が起きるし、後者でも応戦したり防御したりと状況が停滞することはない。


 しかし、こうも梨の礫だとこちらも困惑するというものだ。


 (と、とりあえずここは、一度お暇しておこうか…)


 居心地が悪いというか……、万が一彼女が何らかの連絡手段を持っていて、応援に戦闘兵みたいのがやってきたら面倒だ。


 ここには地上への階段的なものはないし、魔法陣は気になるが調べて何かがわかるわけでもない。


 ならばひとまず、退散といこう。



 そーっと立ち上がり、少女の方を見つめたまま後退り。

 そして、閉じていた扉の握りを取る。


 ようやく彼女から視線を剥がした────その刹那。






 

 ─────バキャッという粉砕音。

 ─────脇腹あたりから全身に広がる衝撃。





 体が強烈な力に押され、扉に叩きつけられる。

 引き戸だから開かない……はずなのに、扉に隙間ができる。

 ぐにゃりと歪んでしまっているのだ。

 

 衝撃のかかった部分へ視線を向ける。


 右脇腹あたりの肋骨。

 それらが


 (いったい、何が、いったい何が起きた…??)


 呆然と少女の方へ視線をズラす。

 

 左手に、床と水平に握られた杖の先端の宝石が、ぼんやりと光っているのが見えた。


 

〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『ハイ・ヒューマン:上弐位』に遭遇エンカウントしました。

▼ユーザーに192のダメージ。

▼右脇腹に破損。右腕の一部動作にマイナス補正。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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