第23話 秘密の地下室


 (う、ぉおおお!!!)


 心の中で雄叫びを上げながら、おそらく瓦礫の中から手を出す。

 右腕は失われているので、左手のみでなんとか体を脱出させる。


 

 頭上の瓦礫を振り飛ばし、ようやく視界にまともな情報が入ってくると、最初に目についたのは無数に積み上がったであった。


 どれもが付くほど厚く、相当なボリュームだと窺える。

 上等そうな革で装丁されており、持つのも憚られそうだ。


 次に目を向けた先には、なにやら精密そうな小道具や意味のわからぬ記号が書き殴られた紙面が占領する長机。

 そして、何かが入ったビンが大量に納められている収納棚。


 床にもいろんなものが散乱しており、ズボラな天才研究者みたいのが住んでいるといっても疑わないような有様だ。



…。



 (なんだ…ここ?)



 頭上を見上げる。

 真紫の終末みたいな色をした空が見える。


 しかしそれは、巨大な円によって切り取られていた。


 瓦礫なのか破片なのか、そういう類のものがそこからパラパラと落ちてきて、ときたま俺の頭にコツンとぶつかる。

 

 まぁつまり、俺は地下に堕ちてしまっていたのだ。


 あの破壊的な爆発によってか地面が大幅に抉られ、どうやら俺は真っ逆さまということらしい。

 俺が今踏みしめている大量の瓦礫や土塊が、それの何よりの証左だろう。


 

 (なんで…生きてんだ…?)


 完全に終わったと思った。

 というか、終わった感覚があった。


 なんだか妙だし説明も難しいが、何かから解放されてものすごい眠気と喪失感に襲われたのだ。

 あれが成仏する気分だ、と言われれば納得する自信がある。


 しかし今、ちゃんと五体満足……ではないが、爆発前となんら変わらない姿でこの地に立っている。


 あの爆発で、無傷でいられるはずがないのに。



==============

生命力:18/708

魔力 :0/163

==============


 

 HPとMPを確認。


 魔力は爆発前に魔法を使って切れてしまったのは覚えている。

 生命力の方は細かく覚えてないけど、本当にギリギリだったのは記憶にあるので、たぶん変動はしていないだろう。


 だとすると、いよいよ本当に無傷だったことになる。

 そんな奇跡……ありえるのだろうか…?


 (あぁ、新しく手に入った者の中に何かあったのかもしれない)


 そういえば、かなりの量のスキルや目新しい称号を獲得していた。

 あるいはその中に、起死回生の効果があった可能性がある。


 ならば確認してみよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜詳細〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・【砕岩空拳】

一定以上の防御力をもつ対象への素手による攻撃に、大きな威力と速度プラス補正。

・【徒手空拳】

素手による攻撃の速度や威力に中程度のプラス補正。

・【不滅】

【窮地脱却】の上位にあたる。

窮地に陥っている時、全能力に中程度のプラス補正。

・【鎧化】

【硬質化】と【密化】の複合。

体の一部、もしくは全体を鎧のようにする。

・【剥奪の呪い】

魔法スキル。

対象に『呪い』をかけ、対象の一部の能力やスキルを一時的に剥奪する。

剥奪したものは一時的に使用者が行使できる。

・【呪いの呼び声】

魔法スキル。

『呪い』を伴う音を発する。音を捉えた者に魔法ダメージと感覚弱化を与える。


称号

【トリックスター】

どんな盤石な状況をもひっくり返す者の称号。

覆す意志を抱いたとき、あらゆる行動とスキルの効果にプラス補正。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 う〜ん。

 なかなか強力な効果ばかり。

 きっとこれから重宝するようなものが勢揃いだ。


 ……だが、これらによって生き延びたというのは素直に頷けない。


 【不滅】や称号の【トリックスター】は中でもあり得そうだが、果たして、それがあの爆裂をも耐えられるほどの効果が得られるのかは疑問である。

 

 いや、まだ効果の検証をしてないから未知数ではあるのだが……。




 …。


 (……いや、まぁいいだろう)


 結局、助かったのならそれでオーライである。

 もし何かしらの要因があったとしても、それはきっと俺の理解や想定を超えているに違いない。


 そんなことを思案するより先に、今の状況を把握することが大事だろう。


 

 首を巡らして、周りを確認。


 さっきのぱっと見の感想ではあるけど、どうやらここは誰かの部屋であるっぽい。


 雑貨や道具、紙類などが揃い、明らかに人の手が恒常的に加わっている空間だろう。

 その道具や紙に書かれているものがかなり奇天烈なので、どんな人が使用しているのかは分かりかねるが。


 

 しかしそうなると、この状況はいささかマズい…。

 いや、俺じゃなくて使用者が大変なことになっているんじゃなかろうか。


 なんてたって天井が大幅に崩れて、部屋が壊滅状態にあるのだ。

 こんなことが発覚したら、俺なら涙を禁じ得ない。



 少しだけ、部屋の中を歩いてみる。

 なんてことはない、普通の部屋だ。


 いやまぁ、一般の人間が使うような部屋ではないだろうが。

 明らかに揃ってる道具が普通のソレではない。

 この世界で考えるのなら……使なんてものが使用しているのかもしれないな。


 

 瓦礫を少しだけ払うと、ドアが現れた。

 

 金箔がガビガビに剥がれ落ちてしまっているドアノブを押して、部屋の外に出てみようとする……が、何かが詰まってまともに開かない。


 少しだけ開いた隙間から覗けば、やはりと言うべきか瓦礫が散乱していた。

 あの強烈な爆発は思ったよりも、この地下室の主に甚大な被害をもたらしていたようだ。


 主が出てくる前に、早いところ失礼したい。

 …が、今の片腕の状態じゃあ、無理矢理こじ開けるのは無理だろう。


 腕を生やすにも魔力がいるし、その魔力を溜めるには時間が要る。

 どうしたもんかな────。




 (あ、そういえば位階上昇!)


 

 そういえば、で思い出すべきことではないだろうが、あの一戦で大量の存在値を獲得していた。

 そのときに位階上昇できるという、アナウンスも入っていた気がする。


 なんともお得なことに、位階を上げれば完全回復することができた。

 満身創痍な現状にとっては、うってつけな手段だろう。


 (問題は時間だが────)

 


 [推定893.19秒]



 俺の出番と言わんばかりに、ナイスタイミングでウィンドウが展開。

 それによれば、所要時間はだいたい…15分程度?


 前と比べればだいぶ長くなっているが、たぶん上昇することになっているからだろう。


 今思い出したが、アナウンスでそんなこと言っていた覚えがあるし。


 (う〜ん、そうだな…)


 短いようで長い、長いようで短い微妙なラインだ。

 運悪くその間に部屋主が入ってきたら、無防備で終了…というわけだし。

 ただこのボロボロな状態で出くわしたとしても、それはそれで終わる可能性が大。


 不安は拭えんが、まぁここはいったん目を逸らしておこう。


 位階上昇、いってみよ───



 『位階の上昇を開始します』



 パソコンをいきなりシャットダウンするみたいに、俺の意識も暗闇に堕ちた。



〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼ユーザーの意思を確認しました。

▼【位階】の上昇を開始します。

……………

▼【位階】の上昇が完了しました。

 【劣参位】から【劣壱位】に昇格しました。

▼スキル【不浄の加護】を獲得しました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜








 

 



 

 

 

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