第22話◯安堵の矢先




 ゴーレムの頭を破砕すると同時に、一撃を放った俺の右腕も粉々に砕け散る。

 頭を失ったゴーレムは魂がなくなったかのように脱力し、ふらりと地面に倒れ伏さんとする。


 岩石でできた巨体が倒れるなんて、それはもう一種の災害みたいなもんだ。


 急激に生命力が減ったがオート機能がまだ発動中であったため、岩の体を蹴って巻き込まれないようにする。


 一方、下で彷徨うゾンビ達は避けようとする知能も、避けられる素早さもない。


 そのまま岩石に押し潰された。

 びちゃりと緑の鮮血……いや腐血が辺りに撒かれる。


 ゴーレムがほとんど片付けていたようで、ゾンビの影はもう無くなっていた。

 いや、外周にまだ蔓延っているのかもしれないけれど。


 

 倒壊した壁の外から、ひび割れた足でふらふらと砦の中へ。

 ドスンと勢いよく座り込んだ。

 拍子にピシッと不穏な音が聞こえた気がしたが、今はもう無視しておこう。


 『存在値が一定値に達しました。2段階の位階の上昇が可能です』


 機械的で平坦で無難なアナウンス。

 しかし、今は勝利のファンファーレかのように聞こえてくる。


 勝利した。

 針穴に糸を通すような賭けに。

 明らかな格上の相手に。


 (ステータス…)


==============================

[能力]

生命力:18/708

魔力 :9/163

攻撃力:109

防御力:99

抵抗力:152

敏捷力:71


存在値:7661

==============================


 生命力も魔力も本当にギリギリ。

 ゴーレムの暴動の余波に少しでも巻き込まれていたら、遠距離攻撃を掠れでもしていたら……、あそこで砕け散っていたのは俺の方だった。

 

 カタカタと音が鳴る。

 ゾクリと俺の体が震えている。



 しかしそれは恐怖ではなく、歓喜ゆえ。

 確かな力の実感であった。


 ───存在値が急激に増加している。


 5000くらい増えたのか……?

 2倍以上にも膨れている。

 自分でもどれほど成長できたのか体感できるほどに。


 それに伴ってステータスも確かな伸びを見せており、攻撃力などといった能力も100の大台を超えた。

 

 能力がこれほど伸びているなら、スキルや称号はどうなったのか。

 明らかな格上相手とやりあったのだ、それなりに増えている…はず。



==============================

[称号]

【ドクロ砕き】【トリックスター】


[スキル]

【META】【投石】【呪いのまじない】【必殺拳】【足枷の呪い】

【牙抜きの呪い】【呪詛の外套】【メッタ打ち】【会心撃】【棒術】

【砕岩空拳】【徒手空拳】【不滅】【鎧化】【剥奪の呪い】【呪いの呼び声】

==============================


 (おぉ…!やっぱり…!)


 強敵だったからなのか、それとも何かしらの行動をとっていたからなのか……。

 わからないけれど、思った通りスキルを大量に獲得できている。


 称号の方も増えている……というか変化している?


 【覆す者】が、おそらく【トリックスター】とやらになっているようだ。

 上位互換的な何かだろうか。


 その調子だと、新しいスキルの中にも進化系があるのかも…。

 ぱっと見ではわからないが…。


 とりあえずいつも通り、確認して─────。




 「───────」



 

 ビーッというブザーのような音が、繰り返して鳴り響く。

 どこからか赤い閃光が明滅し、まるでそれは警告するかのように……。


 「*******」


 突如として意味のわからぬ言葉が聞こえてくる。

 しかしその声質……というか音質には覚えがある。

 というか、先ほどまで恐れていたものだ。


 壁の向こうにある、ゴーレムの残骸へ視線を向ける。


 ────赤く明滅している。

 

 光の出所も音の正体も、全てはアレだ。

 土色だった岩石は、サイレンのように四方八方へ赤い閃光を放ち、警告するようにブザーを響かせている。


 (……なんだ、なにが起こっている?)


 たしかに、俺はゴーレムを倒したはずだ。

 そうでなければ、これほどの存在値を獲得できていない。


 なら、なんだ?


 奴はまだ奥の手のようなものを隠していたのか?

 いわば、死んでなお発動するようなスキル。

 もしくは、死ぬ前に発動していたスキル。


 点滅する紅い光、不安と危険を煽るような音。



 ─────自爆?



 一番最悪な予想が脳を掠め、すぐに【META】を発動。

 ただひたすら、外壁の向こうにある残骸から離れるために。


 頑丈なこの砦の奥ならば、助かるのでは。

 そう思ったのも束の間。



 地が唸り、あまりに熱と輝きが世界を取り巻く。

 すぐに、間に合わないと悟った。


 【呪詛の外套】

 

 咄嗟にスキルを発動。

 黒い狭霧が体から吹き出し、それはやがて防護の服へと───…。




 ならない。

 腕を覆ったところで、モヤはあっさりと立ち消える。

 

(魔力が足りない……!)


 ほとんど底を突いていたことを思い出す。

 これでは、ほとんど防御手段が使えない。


 (何かできないか……!!この威力をなんとか抑えるために───)

 

 そんなことを思案する間もなく。



 世界すら破壊してしまいそうなほどの爆裂が、俺を飲み込んだ。


 〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼ユーザーに98261のダメージ。

▼ユーザーの全ての権限を停止しました。

▼ユーザーの全てのデータを消去します───…


……………




……………




……………




……………





……………





……………






……………





……………



▼───…失敗。

第三者ゲストの介入を確認。

▼ユーザーの権限を回復、ゲストへ移譲します。

▼スキル【META-REVERT】を発動。

▼生命力を18回復しました。

……………

▼権限がユーザーに返還されました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 

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