第20話 巨人の怒髪天
何があった、何が起きた。
全く状況が読み込めない。
気づけば、俺は吹っ飛ばされていた。
木箱やら樽やらに身体を埋めながら、仰向けに倒れていた。
木片を振り払いながら、体を起こす。
肩から手にかけて、左腕が消失している。
視界の端の方に、先ほどまで共にあった左腕が転がっていた。
バランスを崩しながら、再度起き上がる。
「**************」
甲高い警報音みたいな声を出しながら、目の前の存在が歩み寄ってくる。
異質な人形のような感じだ。
岩を繋ぎ合わせたような見た目して、肩や腕の太さに比べて、胴が異様に細い。
伸びている脚も上半身に比べて貧弱そうに見えるが、しかし通路をいっぱいに塞ぐ巨体を悠々と支えているあたり、見た目通りではないのだろう。
頭と思われる部分には、紅く煌めく石が埋め込まれており、まるで目のように光を放っている。
もしあえて呼ぶというなら、ゴーレムというのが最適かもしれない。
(アイツは……ヤバい)
肌でそう感じた。
トレントのときも大概おっかなかったけど、今、眼前に立つ存在はそれ以上だ。
俺を吹き飛ばし、左腕を欠損させたのは十中八九アイツだ。
どこからともなく現れて、強烈な攻撃を見舞ってきた。
【呪詛の外套】なんて軽々と粉砕し、【牙抜きの呪い】もあっさり吹き散らしていた。
生半可な抵抗は、一切許さないかのように。
(……。【META】【呪詛の外套】)
精一杯の体勢を整える。
出口は近くにない。
外へ脱出するには、元来た扉まで戻らなければならない。
となるとゴーレムを潜り抜けなければならず、その際に接触は避けられないだろう。
アイツとまともに殴り合えば、120%俺が粉々になって負ける。
だからここは戦略的に撤退だ。
傍に落ちている棒を拾った。
よく加工されており、持ちやすい。
あたりに散乱しているので、俺を受け止めた木箱か何かに入っていたのだろう。
俺の体は、まるで剣士のような構えをとって、相手を見据えた。
「*******************、****」
また、ヤツの顔に埋め込まれた紅い石が輝く。
それと同時に、岩石の巨体はのしりのしりと地を揺らしながら近づいてきた。
(…っ、マジかよ…!)
建物をやや半壊させながら、ゴーレムはこちらへ身を投げ出した。
まるで巨大な隕石でも落ちてくるように、影が俺を飲み込む。
オート機能は全力で俺の体を動かし、辛うじてヤツの陰から抜け出す。
しかし、ゴーレムの着地による衝撃を、もろに食らった。
(クッ……!!すげぇ地響きだ!!)
唸る地をなんとか走り抜け、ついにはヤツの背後に回る。
このまま扉へ一直線!!…いきたいとろだが、もちろんそう簡単に上手くいくわけもない。
「******」
ゴーレムはまた何か言いながら、倒れ伏したまま右腕を振る。
これほどの巨体にもなれば、それだけの行為でも十分脅威になるらしい。
破壊兵器と化したゴーレムの右腕は、壁ごと破壊しながら俺のところへ迫った。
(どんだけパワー系なんだ!?………っく、なんとか受けろッ俺の体!)
迫る巨襲に、握った棒きれを。
刹那、鉄球でもぶつかってきたかのような衝撃を腕…、そして伝わって全身に走った。
意外にも、木の棒は耐えられている。
流すようにそれに棒を合わせ、衝撃を殺しているようだ。
しかし、それで受け切れるわけもなく。
(グァッ)
バキャッと棒は粉砕され、俺の体はゴロゴロと床を転がった。
精一杯の抵抗として【呪いのまじない】をかけてみるも、効果があったのかはわからなかった。
(……まずいな、くそっ)
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生命力:131/475
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ステータスを開いてみれば、生命力がかなり削られている。
それは体にも現れていて、全身に亀裂が走っていた。
幸か不幸か、吹き飛ばされたおかげで扉までの距離は縮まった。
ゴーレムとの距離も、10m程度取ることができている。
しかし所詮その程度で、あの巨体をもってすれば、あっという間に距離は埋められるだろう。
それまでに扉に間に合うかと言われれば、答えはNoだ。
なら、どうする。
どうすればいい……。
崩れ去った瓦礫を見やる。
ヤツの強行により、内壁がもれなく粉砕されている。
外壁を見る。
小さい窓…というか穴が開いており、そこから外が見える。
その向こうには、まだゾンビの姿があった。
うろうろと、この建物の周りを彷徨っている。
ゴーレムを見る。
(……アイツはいったい、何者だ?)
突然現れては強襲してきた。
姿が全く見えなかったので、そういう能力があるか、それとも本当に急に現れたかのどちらか。
建物に入ってきたら現れたともいえるので、そう考えると奴はこの砦の兵士みたいな感じだろうか。
それにしては内部を破壊し過ぎな気もするが…。
……しかし、それはある意味好都合なのかもしれない。
(……再生だ)
左腕のあった部分へ、イメージを描く。
アンデッドの再生能力…、それを今発揮する。
肩からぼんやりとした黒いモヤが発生し、徐々にそれは細長く伸びていく。
やがてある程度まで達するとそのモヤは徐々に消え、パキッパキッという新品のサイリウムを割ったかのような音を立て始める。
同時、暗雲が晴れた場所に、かつての漆黒の骨が生成されていた。
バキバキと関節の音を鳴らしながら、その骨は再生されていき、ついには元通りにまで回復する。
(準備は万端……ならば)
ここからは……、覚悟を決めろ。
のるかそるかの大勝負だ。
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