第19話◯ポツンと一軒砦


 (なんだってんだこれはぁあああああ!!!)


 物理的に声にならない絶叫をあげながら、俺は全力疾走している。



 辺りは血みどろ地獄絵図。

 それでも終わりはまるで見えず。


 見事に囲まれた俺は、あれからゾンビの頭を叩き潰し続けていた。

 幸い、1体1体は脆いから手間はかからない。


 もうここまで来たらグロいの怖いのなんて言ってもいらず、流れ作業のように処理をし続けていたが……。

 

 (数が多すぎだろ!!)


 ただただ数が多い。

 今までどこに潜んでいたんだ、というくらいおびただしい群勢が向かってきていた。


 袋小路にならぬよう、討伐と並行して移動してはいたのだが、一向にゾンビが途絶えることがない。


 もうキリがないと見切りをつけて逃走に振り切ったのだが、いかんせんアイツらも微妙にすばしっこい。

 大量なのも相まって、ず〜っと俺の周りにはゾンビが構えている。


 (どこか身を隠せる場所……いや、この多さでは隠れることもできんな…)


 建物のひとつでもあればいいが、今までそんなものを見たことは一度もない。

 あったとしても、掘立て小屋みたいなものでは到底あの群勢を防ぐことなんてできまい。


 

 ……しかし案外、そういうことをボヤいた時に限って、目的のモノは見つかってしまうのである。



 (……!!なんだ、アレ?)


 視界の奥に、今までに見たことのないシルエットが浮かび上がった。

 明らかにサイズが大きい。その辺の枯れ木なんかではない。

 それに、明らかに四角形を形作っており、人工物であることがわかる。


 (おいおい、もしかして本当に建物が、しかも丈夫そうなのが…!?)


 飛びつくように推定建物に向かって走る、走る。

 

 本当にポツンとあるものだから、罠だったりロクでもないモノだったりするんじゃないかと、一抹の不安は過るが、そうも言っていられない状況だ。

 迷いはなく突き進む。


 (……あった、本当にあったぞ!!)


 シルエットはやがて鮮明になった。


 どっしりと構える石造の建物。

 歩廊を携えた壁が、それをぐるりと囲んでいる。


 見た目からして、砦…といったところだ。

 ぱっと見でも、かなり頑強そうである。

 

 1m、2m……、確実に距離は近づいていく。


 見たところ、入り口といえるようなものはない。

 窓のような壁の穴はあるが、とても入れた大きさではない。


 あの砦に避難するには、背の低い胸壁を登るしかないだろう。


 骨という非力な状態で、あそこまで届くだろうか……。

 目一杯ジャンプして、ようやく手がかかるくらいの高さだが……。



 (あ、いや……、こういうときに…じゃないか?)


 【META】

 

 こういうときのオートではないか。

 体の使い方はまだ、俺よりもこの機能の方が優れている。


 緊急事態以外は控えようといった矢先だが、まぁこれも十分緊急事態といえるだろう。


 意識を俯瞰させ、体の主導権を預ける。

 

 (【【足枷の呪い】】)


 体が自由に動いてる間に、意識はスキルの使用へ。

 今にも掴みかかってきそうなゾンビ達を足止めする。

 地味だが、これくらいしかやることはない。


 甲斐あってか、少しだけ距離を取ることに成功。

 そのまま砦へ一直線。


 トレントの棒を握る手に、力が入る。



 そして、ちょうどいい距離のところで………棒高跳びのような大跳躍。

 

 

 動きづらい骨の体を器用に扱い、外壁を見事飛び越える。

 そこで体の主導権が戻ってきて、滑稽にも俺は歩廊にゴロゴロと転がった。


 (うぉ……、マジか…)


 流石に無い舌を巻きたくなる。

 本当にやってのけるとは……、しかも道具を最大限利用して…。


 やはりオート機能は今後も主力になるだろうか。

 俺がある程度動けるようになるまでは…。



 起き上がって、下の方を覗いてみる。

 案の定というべきか、ゾンビが群がってこちらを見上げていた。

 しかしさすがに登ってはこれない様子。

 

 仲間を踏み台にして登ってきそうだが、まぁしばらくは時間を稼げそうだ。

 もしかしたらけるまで籠城できるかもしれない。


 ひとまずは様子を見よう。



---




 外にいるのもアレだったので、砦の中を探索をしてみた。

 入れるかわからなかったが、なにやら鍵のかかっていない扉があったのでそこから入り込んだ。


 まぁ、特筆して言及すべきことはなかった。

 ただ本当に、敵から防衛戦をするようためのような場所だった。

 

 強いて言えば、なぜこんな寂れた霊園に建てたのか…、そして誰が建てたのかだが……。

 そんなこと、見回ってるだけでわかるはずもなく。


 することもないので、壁に寄りかかって休憩することにした。


 そういえば、骨になってからまともに休憩したのは初かもしれない。

 ずっと歩きっぱなしだったし…、そもそも疲労を感じなかったし…。


 そういう意味では、この体も便利である。

 無限に働けてしまうというのは、社畜としては喜ばしいんだか悲劇的なんだかわからないけど。


 

 (あ、ステータス見ておくか……)


 ここまでめちゃくちゃゾンビを倒してきた。

 それ相応の成長も流石にある……と信じたい。



==============================

個体名:ーーー

種族名:カース・スケルトン

位階:劣参位レッサー・サード

存在値:2161

[能力]

生命力:475/475

魔力 :64/112

攻撃力:74

防御力:73

抵抗力:102

敏捷力:30

[称号]

【覆す者】【ドクロ砕き】


[スキル]

【META】【密化】【投石】【呪いのまじない】【窮地脱却】【必殺拳】

【足枷の呪い】【牙抜きの呪い】【呪詛の外套】【メッタ打ち】【会心撃】【棒術】


[特性]

【骨の身体】【アンデッド】【憤怒の紋様】

==============================


 お、存在値が2000台に乗った。

 700近く稼げたというわけか。


 …しかし逆に言えば、それくらいしか稼げなかったともいえる。

 

 まぁ確かに、めちゃくちゃ脆かったから、そんなに強くなかったのだろう。

 ということは、貰える存在値も少なくなる…のかもしれない。

 なんだか骨折り損な気分だが、まぁ仕方ないか。


 それより、スキルがいつのまにか増えているな。

 ついでに物騒な称号も。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

スキル

・【メッタ打ち】

『打撃』の攻撃を他生物に与えたとき、次に繰り出す打撃の速度と威力に微弱なプラス補正。

・【会心撃】

『攻撃力』が作用する攻撃をするとき、まれに威力に大きなプラス補正。

・【棒術】

『棒』を使用する時、総合的な練度に補正。


称号

・【ドクロ砕き】

幾度もドクロを砕き割った者の称号。

『脳天』に『攻撃力』が作用した攻撃をする時、まれに一時的に相手の防御力へマイナス補正をかける。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ふむ、なるほど。


 やはり打撃やら攻撃に関わるスキルが多いな。

 ゾンビと連戦したのが効いたのだろう。


 棒はもう失くしてしまったけれど……、それ以外にも作用するスキルが多いので、今後活躍してくれることは間違いないだろう。


 称号の方は……ちょっと名乗りたくはないけど。


 (ま、順調に伸びてはいるな)

 

 群勢が落ち着いたら、ゾンビの残党狩りでもしようかな。

 また新しいスキル獲得の見込みがあるかもしれないし。





 「*******、*****」


 (……!?)


 突如として、ヒィィィィンッというハウリングにも似た雑音が砦内に響く。

 そして同時に、機械的な声色がどこからともなく聞こえてきた。


 しかし何を言ってるのかわからない。


 突然過ぎて注意深くなかったからか……いや、そもそも発音やら滑舌なんかが日本語や英語のそれではなかった。


 つまりは、全く無知の言語が聞こえてきたのだ。


 (異世界だからそりゃまぁ…、そうなんだろうが…。しかしなんで急にそんな声が…?いや、そもそも人なのか…?)


 事態が飲み込めずにいる。

 しかしその一瞬の隙に──────



 【……!!!】



 ────電流が走るかのように、危険を感じる。



 【呪いのまじない】【呪詛の外套】【密化】【牙抜けの呪い】


 受けに使えそうなスキルをありったけ発動。

 そしてそのちょうどのタイミングで────。



 俺の左腕は吹き飛ばされていた。




〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『個体名:ふらんそわMK3:』に遭遇エンカウントしました。

……………

▼ユーザーに190のダメージ。

▼『ふらんそわMK3』に21のダメージ。

▼左腕を欠損。一部動作を行った時、攻撃力と防御力と敏捷力にマイナス補正。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る