第14話 快進


 あぐぇっ。



 俺を突き刺していた根が、急にずるりと引き抜かれる。

 支えるものを失くした体は、そこそこの高さから地面へ墜落した。


 頭からゴチンッといってしまったけど、震盪を起こす脳もないのでモーマンタイ。

 衝撃はふつうにしんどかったけど。



 …。


 いったい、何が起きたんだ…?


 急に意識が飛んだ……というか、加速したというか…。

 俺という意思をおいて、思考がズンズン先に行ってしまった…ような気分がした。

 自分で言っててもよくわからないけど。


 あれはなんなんだ?

 いきなり、スキルや特性の利用法がポンポンと出てきた。

 それも、あの場においてはおそらく最適だったと思われるモノだ。


 あれも、オート機能の範疇なのか?


 特性やスキルのことなんて、あの時すっかり抜けていた。

 というかほぼ諦めてたし、好転を掴む行動意識はなかった。


 少なくともアレは、俺の思考じゃない。

 ならばもう、オートが色々やってくれていたと考える他ない。


 ないのだが…。

 


 その時、感じた……使というかの感情は……何だったんだ。

 

 好戦的になったり…、奇妙な感情が湧き出たり…。

 このオート能力は、明らかに「ただ体を最適に動かす」だけじゃない。


 いったい……【META】って────?






 【……!!!】


 電光が走るみたいに、思考が駆け巡る。

 だがそれは、さっきのようなオートによるモノではない。


 本能とでも言うべき、ナチュラルな緊急警告。

 存在しないが、全身の毛が逆立つような感覚。


 最初に、スケルトンと戦ったときに似ている。



 「オ゛オ゛オ゛ォ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛」


 怒り狂ったトレントが、咆哮をあげる。

 地面が唸り、奴からこちらに向かって一直線に、大地が波打つ。


 ───来る。



 俺は、咄嗟に横へ飛び退いた。

 俺の意志で、飛び退いた。

 オート機能が切れていたらしい。


 予想というか防衛本能はしっかり働いていたようで、さっき俺が居たところに、地獄にでも存在しそうな太い針が立ち昇った。


 もし留まっていれば、木っ端微塵になっていたかもしれない。


 まだこんな技を持っているのか。

 やはり、あの老木は強い。

 少なくとも、位階は俺よりも高いだろう。



 …。


 さっきはもう諦めていたけど、今は……オートのおかげか、生きることにちょっとだけ活力が湧いている。


 あのとき過った、「お前はまだ死んではならない」という文言。

 なんでなのかわからない、あれが誰によるものなのかもわからない。


 だが……、その通りだ。


 俺はまだ死んではならない。

 人間として死ぬその時に、感じていたじゃないか。

 もっと生きたい、って。


 芽生えた使命感も、責任感もわからないままだけども、しかしその気持ちだけは今でも理解できる。


 俺は、俺のために、まだ死ねないんだ。

 だから、ここでやられるわけにはいかない。



 オート機能については、まだ気になるところはある。

 だが、今はそんなことを言ってはいられない。



 【META】



 再び、意識が自分を俯瞰する。 


 突破口は、アイツを倒すこと。

 動け、俺の体。




 オート機能に支配された体が、トレントに向かって大地を蹴る。

 

 老木は自身の根を触手のように動かし、こちらに鞭打ってきた。

 太さは大したことない、しかし速さがものすごい。

 受ければひとたまりもないだろう。


 (……!)


 体は上体を下げ、地表の石を拾う。

 そして滑らかなモーションで投石し、伸びゆく根っこに命中させた。


 焼け石に水かもしれないが、牽制目的だ。

 【投石】のおかげで、それなりの威力は保証されている。


 

 石が命中した根は、怯んだように動きを止める。

 存外、牽制は成功していたらしい。


 停滞したそれを掻い潜り、トレント本体に接近する。



 ───Q、近づいたところで、どうする?

 

 ───A、限界まで密度を高めたパンチを喰らわせる。


 

 けど、【密化】は重ねがけが可能らしい。

 使えば使うほど、体の中身がギッシリとつまり、カッチカチになる。

 魔力で補っているため、いわばMPは消費してしまうけれど。


 だが、限界まで高めれば強烈な一撃をお見舞いできる。

 元の世界では密度≠硬さではないけれど、この世界は成り立つらしいからね。

 原理はさっぱりだが関係ない。


 

 襲いかかる根を避け、あと数歩までに迫る。

 しかしそこで、視界外から鋭利な攻撃が。

 

 根っこではない、伸びた枝だった。

 ずっと地面付近を注意していたから、いきなりも頭上攻撃に反応が遅れた。

 

 避け切れない。

 避け切れない…ならば。


 【【呪いのまじない】】


 全身から、黒いオーラが滲み出す。

 泥みたいに粘度が高く、枝に向かってねちっこく絡みついた。


 それとほぼ同時に、俺は頭を抱える。

 別に、気が動転してしまったわけはない。


 頭は、体のどの部位よりも硬いのだ。

 割られればそこでゲームオーバーだが、【密化】により耐久力を高めれば、並大抵の攻撃では崩壊しない強力な盾となる。


 できれば、最後の一撃のために魔力は残しておきたいけれど、そんなことはいってられない。


 【【【密化】】】



 刹那、硬いものと硬いものの衝突音が、静寂なる霊園に響く。


 俺の頭はびくともしない。衝撃で首が揺れたりもない。

 読みどおりと言うべきか、ほとんどダメージを喰らわなかった。


 しかしトレントの方はそうもいかない。



 「グ、コ゛コ゛コ゛ォ゛オ゛」


 苦しむような呻き声を漏らしながら、老木は根や枝をひっこめる。

 は、しっかりとやつを蝕んでいた。


 一回の効果は微弱ながらも、何度も使えばそれなりに脅威というわけだ。


 

 急接近により、トレントとは目と鼻の先にまで至る。

 忌々しそうな目でこちらを睨むが、しかし眼しか動かない。



 悪いね、トレント…?さん。

 石をぶつけられた挙句、やられるなんて役回りをさせて。


 しかしまぁ、文句はオート機能に言ってくれよな。



 【【【【密化】】】】


 ありったけの魔力をこめ、手をガチガチに固める。

 握られた拳は、トレントの眼と眼の間に吸い込まれ……


 バキャッと快音を響かせ、トレントの額は砕け散る。

 

 拳の行く末を睨んでいた緑の眼は、いつしかギョロリと正気を失う。

 そしてそれに連動するかの如く、立っていた枝や根がしおしおと萎び、本体の幹自身もほっそりと収縮する。


 やがてそれはもう、二度と動くことはなかった。



 〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『デッドリー・エルダートレント』は【必殺突】を使用しました

▼ 『デッドリー・エルダートレント』の耐久力が−350。

……………

▼【呪いのまじない】を使用しました。

▼【密化】を頭部に使用しました。

▼ユーザーに3のダメージ。

▼対象に51のダメージ、抵抗力を−15。

……………

▼【密化】を手に使用しました。

▼ 『デッドリー・エルダートレント』に394のダメージ。

……………

▼ 『デッドリー・エルダートレント:準伍位』が消滅デスポーンしました。

▼スキル【必殺拳】を獲得しました。

▼称号【覆す者】を獲得しました。

▼764の存在値を獲得しました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

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