第12話 試用と仕様


 ぶらぶらと徘徊を続ける。

 

 目的は、スキルの実験台。

 新しく獲得したスキルの的となるものを探しているのだ。


 できれば、動物…というか動く物を相手にしたい。

 実戦的に試せなければ、意味はあまりに薄いし。


 そういうわけで、今宵の俺は血に飢えているぜ。

 この辺にいる奴は軒並み血が通っていないけど。



 ……しかし。探しものというのは、探そうとすると見つからないものだ。

 気持ち的にスケルトンはあまり相手にしたくないと思っていたのだが、そもそも遭遇さえすることがない。

 

 もともとしょっちゅう見かけたわけではないが、注意してみると思ったより出会う回数が少ないのかと認識を改める。


 うーんどうしようかなぁ…。


 とりあえず、何も無くても使える【投石】だけでも確認しておこうかな。

 薄々どんな感じかはわかってるけど、まぁ実際に使ってみることに越したことはない。

 魔法はひとまずお預けだ。



 辺りを見回して的を探す。

 ひとまず先に見える、黒く変色した枯れ木にしようか。


 墓石に当てるのはあまりに忍びない。しかしこの辺にそれなりの高さのあるオブジェクトはほとんどない。

 それならもう、必然的に木が的になるしかないよね。

 


 えっと、発動条件は石を投げるだけ…だったか。

 『石』ってのが広義的なモノを指すのか、岩より大きく砂より小さいという狭義的なモノを指すのかわからないが…。


 まぁ投げると言ったら、岩だったり砂だったり鉱石だったりはパッとイメージできないし、そもそも投げる機会も無さそうだからどうでもいいか。


 

 足元の小石を拾う。

 皮や肉のない手だと、すぐに落っことしてしまいそうだ。

 しっかり持たないと。


 野球はやったことないが、テレビの向こうにいた選手の投球フォームをを猿真似で取ってみる。

 振りかぶって……



 ───投げる!!



 手から放たれた石弾が枯れ木に向かってノビていき、ドッという衝突音を刹那に立てた。

 遠目ではあるが、若干表面がえぐれているのが見える。


 ……ん?ん〜…。


 もう一度石を拾い、同じように投げる。

 しかし今度は、もう少し角度をつけて。


 先ほど命中した部分とはやや右に逸れて着弾。

 同様の痕が残った。


 それから何回か投げるが、的が大きいからか全て命中。

 1、2回くらい同じ地点に命中することもあった。


 まぁ、たしかに精度は上がってるな。

 筋肉もクソもないスケルトンの投石で傷をつけられるのも、やはり威力が上がっている証拠とも言える。


 …だが、しかし…。


 あまりに地味すぎるというか…。

 たしかに、必ず生きる場面はあるんだろうけど、それにしたって実感しにくい効果だ。


 良くも悪くも期待通り……って感じ。

 これは、俺が『スキル』という存在をもっとド派手なものだと思っていたゆえのことなので、決して【投石】くんがダメとかではない。


 いつかの活躍機会を待とう。うん。


 

 そういえば、この【投石】はどのタイミングで入手したのだろう。

 同時に獲得が発覚した【呪いのまじない】とはかなり系統が違うスキルだと思うのだが。


 鳥を倒した時か、それとも位階を上げた時か。


 投石といえば、鳥に対抗するときも石を投げていた。

 それもあって、前者の方が可能性というかイメージがある。


 となると、「石を投げたからスキルが獲得できた」という仮説も立てられるのではないか。

 

 どれが基準かはわからないけど、特定の行動を取ることでそれに則したスキルが手に入る……。

 『スキル技術』というのだから、その獲得条件は納得できる。


 

 その予想が正しいなら、適当にいろいろな行動をとっていれば、もっとスキルが手に入るのではないか?

 投石があるなら、穴掘ったり壁登ったり…といろいろな動作に対応したスキルが獲得できるやもしれん。


 これからはそういうことも視野に入れてみる価値はあるかもしれない。

 戦いの機会も今のところ少ないし、現状唯一のスキル獲得チャンスになり得るしね。


 よし、それでいこうか。


 まずはどうしよう。

 さっそくいろんなのを試してみようか。


 今からできるのは…、ジャンプとかダッシュとか?

 とりあえずやってみれば効果が現れるかも。




 そうやって考えを膨らませていると………

 



 ………ふと、違和感に気づく。


 先ほど的にしていた枯れ木だ。

 

 なんか、揺れすぎな気がする。

 時折風は吹いているし、根っこも貧弱ではあるものの、それでもバサバサと木幹が動きすぎなような……。


 それになんというか……大きくなった?

 さっきよりも視認性が上がったみたいな…。



 ……いや違う。

 これ、ないか?


 よくよく観察したら、根っこが微妙に波打って、木全体が移動している。

 そして石が着弾した痕のほうは────。



 

 

 ─────ギョロリと眼光が光る。

 幹のゴツゴツの狭間から、緑色の眼が覗く。


 そして、その下のあたりがばっくりと開いて…。


 「オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛」


 掠れ切った呻き声、しかし確かな怒気を孕んだその声が響く。



 …あれ、これ。


 もしかして動物だったんですか!!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る