第9話 己を知って敵を制す


 衝撃で倒れた身体を起こしながら、上空で旋回する骸骨鳥あの野郎を睨む。

 

 まさか、いきなり突撃してくるとは思わなんだ。

 咄嗟に腕で守ろうとするも虚しく、胸を一突きされてしまった。


 体に視線を落とす。

 ちょうど胸骨に鋭い穴が空いており、亀裂が全体に走っている。

 

 しかし痛みなんかはない。

 神経が通っていないからだろうか。

 もし痛覚があったら発狂していた頃だろうし、これは幸いだ。


 だが…、どうしたものだろう。

 空を飛ばれたら、こちらからなす術なんかはない。

 降りてきたとしても、あんな素早い動きに対応できるかどうか…。

 逃げてもやはり追いつかれてしまいそうだし。


 

 ……あ、こういう時のスキルでは。

 いろいろ打開してきた、あのスキルを使えば、あるいはなんとかなるのではないか。


 だが…、俺には何ができるんだっけ?


================

[特性]

【骨の身体】【アンデッド】


[スキル]

【META】【密化】

================


 疑問符を頭に浮かべたところで、ウィンドウが眼前に展開される。

 スキル…と特性とやらを表示してくれたらしい。

 やっぱり気の利くウィンドウだ。


 ならばその調子で、これらの説明もお願いできませんか…?


 〜〜〜〜〜【骨の身体】〜〜〜〜〜

 骨によって構成され、それが顕になっている者の特性。

 炎耐性にプラス補正。打撃耐性にプラス補正。

 頭蓋骨が破壊された場合、生命力が0になる。

 なお頭蓋骨に攻撃された場合、防御力・抵抗力に著しいプラス補正。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 〜〜〜〜〜【アンデッド】〜〜〜〜〜

 死より蘇った者の特性。

 生命力が比較的低い。

 魔力を消費することで、体の修復・再生できる。

 痛覚が無効になり、病や流血などで生命力が削られない。

 闇・死属性にプラス補正。火・光属性に対して著しいマイナス補正。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 〜〜〜〜〜【密化】〜〜〜〜〜

 一定時間、体の一部分、もしくは全体の密度を大きく上げる。

 密化された部分の攻撃力と防御力にプラス補正。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 〜〜〜〜〜【META】〜〜〜〜〜

 NO DATA

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 返事するかのように、次々と表示される画面。

 至れり尽くせりとありがとうございます…。


 

 …で、なるほどね。

 

 痛覚がないとか、頑丈だとかは特性としての効果なのか。

 身体的特徴なんかも特性とされるなら、特性の数は膨大になりそうだが…。

 まぁ、その辺は今はどうでもいいか。


 先のスケルトンを倒してから勘づいてはいたけど、頭蓋骨をやられたらやはりダメらしい。

 さすがにあのクチバシで砕かれることはなさそうだけれど、用心はしなければ。


 そして…スキル。

 真っ先に目に入ったのは…。


 なんだよ『NO DATE』って。

 解説くんでさえも分からないことがあるのか…!?

 

 今まで使用してたのは多分これなはずなんだけど…。

 効果を推測するなら、自動で体が動くようになる…みたいな感じだろう。

 動きの鈍い俺にとってはありがたい機能だ。


 …しかし、それだけなのに解説がされないというのも、妙な話だが。

 とりあえずは据え置いておこう。


 そして未知だったのは【密化】か。

 文言的に、俺…というか骨の体の場合は骨密度を上げるということだろうか。

 地味だけど、わりと役に立ちそうだ。


 

 ……これらが、俺の手札。

 飛んでるアイツへの有効打には欠けるが…。



 しかし、抗戦しないことには始まらない。



 えぇい!スキル発動だ!




 ───フッ、と意識が揺れ動く。


 ただし、失われたり朦朧としたりするわけはない。

 至って明瞭だ。


 ……しかし、なんと言うべきか。


 まるで、自分をかのような感覚に陥っていた。



 骸骨鳥は旋回を止め、またもこちらへ突撃してくる。

 頑丈な骨による、強烈な刺突が降ってくる。

 注意深く追わないと、捉えられないくらいの速さだ。


 それを俺は……




 ───寸前で躱す。

 ───華麗に体を旋回。

 ───そして地面へと突き立った鳥を、思いっきり蹴り上げた。


 全ての工程が、スムーズにつながっている。

 熟練の武闘家のように。


 もちろんそれは、俺による芸当ではない。

 動いているのだ。


 …。


 

 なんだこれ!!

 強すぎないか!?


 おそらくこれは【META】の効果。

 言うなればオート戦闘を実現してくれるわけだ。

 しかし、あまりにもレベルが高すぎる。


 あれ、これ俺いる?

 もう全部アイツが操作すればいいんじゃないかな、というレベルだ。


 それに、蹴り上げる瞬間、蹴る足がギュッと締まったような感覚があった。

 これは多分、【密化】によるものだろう。


 適当に、ええい!したわけだけど、発動したのはまさにピンポイントなタイミング。

 推測するにオート機能により、自動で最適なタイミングで発動するようになっているのだろう。


 これはさすがにチートじゃない…?

 いや、チートに違いない。


 異世界転生に強力な能力はつきものだけど、まさか俺にも与えてくれるなんてな。

 どこかの神様ありがとう。



 蹴っ飛ばした骸骨鳥が、ヨロヨロと起き上がる。

 密度が上がったことによる重い一撃が、だいぶ堪えたらしい。


 動作確認するかのように羽を振り、もう一度こちらを睨む。

 そして空へと飛び上がり、また俺に向かって突撃……




 をしない!!

 おい!そこは決死の特攻をするところじゃないのか!

 

 そう叫んでやりたくなったが、アイツはもうヨロヨロと飛んでいってしまっている。

 ダメージを負って減速しているが……逃げ足の速いやつっ!


 鳥を追うように意識すると、体がまた勝手に動き出す。

 俺とは思えない機敏な動きで、奴を追跡する。


 だが追ったところで、鳥は飛んでいる。

 

 自慢のオート武芸も、飛ばれたら意味がない。

 まさか跳び上がるわけでもあるまいし。


 くそう、追い詰めたのに逃げられるのかっ!?

 せっかくの本格戦闘だというのに!

 晴れた異世界デビューを飾る一戦なのに!


 ひきづり落とせばまだチャンスはある。

 砂利を投げてでも仕留めてやる!

 ムキになった三十路を舐めるなよ!



 意識通り、身体は足元の砂利を掴む。

 皮膚や肉がないのでサラサラと抜けていってしまうが、仕方がない。

 数でカバーだこのやろう。


 うおおお!なんとかなれーっ!


 

 空へと投げ飛ばされた砂利のほとんどは、拡散して弧を描くようにまた地へと墜落する。

 だが数打ちゃあたる戦法だ。


 十数回目の投石にして遂に。



 ───ガッ


 

 鳥の頭に大きめの石が直撃。

 ガクンと高度を落とした。

 

 これなら…、このオート機能なら!


 体は加速し、思いっきり地面を蹴り上げた。


 落ちゆく鳥と目が合う。合ったような気がする。

 その頭を掴み、共に地面へ───。



 バキャッというキミの良い破壊音が静寂を破る。

 

 鳥骸骨の頭蓋は、俺の手の中で砕けていた。

 つまり要するに。



 俺の勝利。コロンビア!



〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『スケルトン・バード:劣参位』を撃破しました。

▼370の存在値を獲得しました。

▼スキル【投石】を獲得しました。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る