第8話 エンカウントイレギュラー


 あれから、多分長いこと歩き続けた。

 多分っていうのは、体感1時間くらいは歩いたと思うけど正確なところはわからないからだ。


 俺の体内時計がポンコツなのもそうだが、こう、ずっと同じ光景が続いていると時間の経過を掴むのが難しい。


 まるで時に置き去りにされてしまったかのように、妙にがらんとしているのだ。

 ゲシュタルト崩壊と似た感じに、頭がおかしくなってしまいそうである。


 だが、まぁ。

 そんな状況下であれば少しの異変…というか異分子が視界に入るとすぐに気づくものだな。



 俺は、向こう───50mほど先に見える枯れ木の枝に留まった、ナニカを見つめる。


 簡単にそれを説明するならば、だ。


 鋭い突起の生えた顔面。体から伸びる、羽毛の削ぎ落とされた羽。

 鉤状の足で今にも折れそうな枯れ枝に掴まっている。


 その姿はまさに、いつか図鑑で見たような骨格標本がそのまま現れたかのよう。

 まぁ、そんなものを見たのはとうに昔のことだが。



 ……俺は今、ちょっとした感動を覚えている。


 いや、別に俺が生粋の鳥マニアであったというわけではなく、変わり映えのない世界にようやくイレギュラーが登場したからだ。


 虚無空間の中に現れた、ひとつの異分子。

 お猿さんが見たこともないものに惹かれるように、俺は興味津々になってうた。


 もともと石橋を叩き割るくらいなタイプなのだが、流石にこれには興味本位で近づいてしまう。



 観察しながら近づくことでわかったが、アレ、完全に生きてる…というか、動いてるな。


 警戒するかのように、首をキョロキョロ巡らせているし、毛繕いするかのように自分の体を突いているし…。

 骨だけの姿で生前のような行動パターンをとっているのは少し面白い。


 あれも、俺みたいなスケルトンということだろうか。

 それについては今更不思議がる程でもないけれど、人型ではない種類もいるんだな。



 そんな風に色々考えていると、不意に骸骨鳥と視線がかち合う。

 いや、目玉がないから実際にはわからないけれど、虚空が奥に広がる目の窪みがこちらを向いたのだ。


 おそらく見ている、と考えて間違い無いだろう。



 とすると、アイツなんかすっごい見てくるな…。


 …。


 骸骨鳥が、ない羽を羽ばたく。

 嘴をこちらに向けて、まるで飛行するかのように羽をバタつかせて…。


 うん?

 なんか近づいてきてるような。


 …いや、ようなじゃなくてめっちゃ近づいてる!!

 ってかくっそ速ェ!!


 まずっ───



 思わず、咄嗟に視界を閉ざす。

 そしてそれと同時、胸のあたりに強烈な衝撃。

 

 鋭利なものが硬いものに突き立ったかのような、高い破裂音が響き渡り。

 俺の身体は後方へ倒れた。



〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『スケルトン・バード:劣参位』に遭遇エンカウントしました。

▼ユーザーに117のダメージ。

▼胸骨に軽度の破損。ただし防御力及び俊敏力に影響はありません。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 


 

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