第4話 自分(頭より下)が乱闘しているのを傍観する


 今、俺の目の前には奇妙な光景が繰り広げられている。

 少なくともこれまでの人生で目の当たりにしたことはないな。

 たぶん誰も見たことがないだろう。



 うん。端的に言うと、

 なんじゃそりゃって感じだけど、俺が一番そう思ってる。

 


 俺は頭と体が分離してしまったわけだが、その分かれた体が自動的に動いている。


 骨と骨が殴り合っているというだけで飛んだ光景だと言うのに、その片方が自分の体だというのだから驚異のスペクタクルだ。



 まぁ、カタカタとぎこちない動きではある。

 筋肉がないから仕方ないのかもしれない。


 しかし相手の出方を読んだり、攻撃を受け流して的確にカウンターをしたりするなど、脳みそという司令塔が失われたはずなのに(というか頭にも脳みそは無いだろうけど)本体以上の高度な戦いをしているのだ。



 あれもこれも全部、十中八九スキルとやらの仕業だろう。


 【META】というスキルだったか。


 どんな効果かは詳しくはわからない。

 ただ、地中でも目の前の光景でも自動で体が動いていることから、オート操作みたいな感じなんだろう。




 ───バキャッッ!!!


 痛々しい粉砕音が、静寂なる墓地にて響く。

 

 骨の乱闘に今一度目を向けると、首なし人骨及び俺の体が敵の顔面に右ストレートを喰らわしていた。

 

 頰骨が砕け、中の空洞を覗かせている。

 並びの悪い歯の数々が空中へ飛び、ボトポトと地面に落ちた。


 両者、体にヒビが入っており、相当な攻防であったことが見受けられる。


 しかしこの一撃が終止符となったのだろうか。

 俺の体に直撃せんとしていた拳が虚空で停止し、そのまま動かない。

 

 決着がついた。



 ……そう、思われた。



 【……!!!】


 思考に、電撃のように何かが走る。


 ソレは外部からねじ込まれたみたいな、突然の衝撃。

 何かが来るぞ、という緊急警告。



 同時、目の前の俺の体は敵からバックステップするように距離をとった。


 骨とは思えないほどの軽やかな動きだ。

 先程の警告に順守しているかのようである。



 殴られたまま静止していた人骨は、突然として拳を振り抜く。

 一切の予備動作のない不意打ちだ。


 まるでひっくり返ったセミが、人が近づいた途端に羽ばたいたかのような……、いやこれはちょっと違うか。



 まぁ、あまりに突然な攻撃だったということだ。


 俺の体は距離を取っていたので命中しなかったが、もしそうでなかったら手痛い一撃であっただろう。

 スキルの効果で自動で動いてくれていなかったら、俺の意思で動いていたらあるいはヤられていたかもしれない。


 

 ……だがそんな起死回生の一撃というのは、外した場合代償が高くつくものである。


 不意打ちに失敗した人骨は、そのまま拳を振り抜いたフォームで停止した。


 そこに俺の体はバックステップでついた右足を軸に、上半身を捻り…


 そして、左足を思い切って回して……。



 ────奴の頭に蹴りを喰らわした。


  

 流石に頭が飛ぶまでには行かなかったものの、首があらぬ方向に曲がった。



 俺の体はそのまま足を振り切り、バキキッと追撃の衝撃を加える。

 それにより奴の首はネジ切られるような形で切断され、ゴトリと地面に頭が堕ちた。



 …アレ、本当に俺の体なの?


 なんていうか、凄い御業を見せられた気分だ。

 なんだよあの回し蹴り、プロ格闘家かと思ったわ。


 それに…、意趣返しっていうの?

 頭を蹴り飛ばされたから頭を蹴り飛ばししてやるなんて…、とんだ魅せプじゃないか。

 まぁ、あれはたまたまな可能性が高いが。


 まるで電池の切れたロボットのように、膝をついて項垂れている俺の体を見ながら、そんなことを考える。




 ……と、その俺の体がまたしてものそりと立ち上がった。

 ぬらりとおぼつかない足取りで、こちらに向かってきている。


 もしかして俺に危害を加えようとしているのかと邪推して、一瞬身構える(体はないけど)が、当然それは杞憂だった。


 こちらに近づいた体は、俺を……頭を持ち上げ、元々あった位置へもっていく。

 視点が一気に高くなる。


 そして体が手を離すと……、そのまま視界は動かない。

 つまり、落ちたり傾いたりすることがなかった。


 頭がくっついたというわけだ。

 完全に頸椎をやられてたはずなのに、接着剤なんかも無しで。


 どういう原理なのかはサッパリだけど、まぁ結果オーライ…か?

 頭が着脱可能だなんてビックリだけど…。

 自分がよくわからなくなってきた。




 そんな折にまたしてもあの声が───




 『存在値が一定値に達しました。位階の上昇を行うことが可能です』



 ……えっと、専門用語で話すのはやめないか?

 

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