第3話 サッカーボールは俺で、プレイヤーは人骨


 シュッとのびた真っ白い腕。

 叩けばコツコツと美しい音色を奏でる拳。

 通気性抜群で、守るべきものを失った胸。


 

 どうみても人骨です、ありがとうございました。


 ……いや、普通にわけがわからない。


 まず骨になってること自体に驚きだし、それでもなお意識を保っていることにも驚きだし、あと腱もないのに曲がることにも驚きだ。


 …夢でも見てるのかな。

 そういえば痛みもないし、やっぱり夢なのかな。


 そうじゃないと可笑しすぎる。

 なんだよ、骨になってましたって。


 ヘタなライトノベルでもこんなことにはならないだろ。

 ……いやあるにはありそうか。



 ……じゃなくて、現実的にありえない、ありえなすぎる。


 人が蘇るなんていうのは、フィクションの中だけだ。

 それも意識をもった人骨スケルトンとしてなら尚更だろう。


 

 あぁ、夢なら覚めてほしい。

 人骨を見るなんて、普通にショッキングだし…。

 それに生きたいとは願ったけど、こんな形なら素直に喜べんわ。



 現世の誰か、どうか私を蹴り飛ばしてでも目覚めさせてくださ……






 …イッッッッッ!?!!





 

 ───突如として、頭に強い衝撃が走る。


 バキリと痛々しい音を立てたのち、視界が目まぐるしく回る。

 二転三転……、いやもっとかもしれない。

 蹴り飛ばされたサッカーボールみたいに、空中に投げ出された感じだ。


 

 ひとしきり回転した後、ドサリと地面に着地……というか墜落する。

 痛みはないけど、たぶんヒビが入ったんじゃなかろうか。


 視界は180度反対になっていた。


 上が地面で、下が空。

 このとき初めて、空が真紫という異様な色になっていて、地面が灰のような死んだ色になっているのに気がついたが、今はどうでもいい。


 俺の視線は、ある一点に釘付けになっていた。



 俺が見ていたもの。

 それはすなわち、だった。


 何を言っているんだと思うかもしれないが、俺も何を言っているのかわからない。

 でも、ソレはたぶん俺のはずだ。


 

 こんな稀有な存在が、俺の他にいるだろうか。

 

 逆説的に言うと、今の俺はの状態になっている。

 つまり、頭と体が分離しているわけだ。

 

 いや何事?って思うけど、この際もうツッコむのはやめる。

 というか、それ以上に気にするべきことが目の前にある。




 その分離した体のもとに、もう一体の人骨が立っていたのだ。


 ソイツは足を前に突き出して、まるでボールを相手のゴールにシュートしたみたいな体勢になっている。


 その足はちょうど、頭があった場所あたりにあり、誰がどうみてもコイツが俺の頭蓋を蹴り飛ばしたとわかる。


 俺は人に頭を蹴り飛ばされて、体と頭が分離した経験がないので、こういう時にどうすればいいのかわからない。


 笑えばいいのかな。

 というか笑うしかない。ハハ。



 

 思考がショートした俺をさておいて、人骨は腕を天に振りかざしていた。

 首を失った俺の体を見つめたままで。



 ……おい待て、これ俺を殴ろうとしてるのか?


 嫌な予感が脳裏を掠める。


 なんでそんなことをするのか理解なんてできないけど、頭を蹴り飛ばしたあたり、多分俺に危害を加えようとしているのだろう。

 心なしか、眼球のない目の奥が殺意に満ちている気がする。



 

 まずいよな。どうすればいい?

 頭が取れてるからやりようがない。

 でも殴られるのも良いわけがない。

 自分が殴られる様を傍観できるほど、俺は強メンタルではない。


 

 思考がまとまらない間に、ヤツはもう今にも拳を振り下ろさんとしている。

 なんなんだよアイツは。俺が何をしたっていうんだよ。


 どうする、どうする。

 何かないのか。



 …あ、スキル。そうスキルだ。

 こういうときの為にスキルとやらではないのか。


 えっと……なんて言うんだっけ。

 MUTA?NETA?


 あぁもういい、なんでもいい。

 何か発動してくれ。


 

 ……無情にも、何か起きる気配はない。

 俺の体は微動だにせず、ヤツの拳は頂点に達して、ついに振り下ろされた。



 あぁ、くそ!!

 動け、動け俺!!

 なんで動かないんだよっ!!!


 スキル…、スキル…。えっと…。

 META…、そう【META】を発動する!!


 するから早く……



 【動け】!!!



〜〜〜〜〜〜〜【META-LOG(非通知)】〜〜〜〜〜〜〜

……………

▼『スケルトン:劣伍位』に遭遇エンカウントしました。

▼ユーザーのスキル発動意思を確認しました。

▼【META】の機能、【AUTO】を実行しました。

……………

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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