第2話 起床…、いや起墓
俺の意識は覚醒した。
…と同時にとてつもない圧迫感が全身を襲った。
物理的なもので、腕を動かそうとしてもピクリともしない。
たぶん警察に取り押さえられたりしたら、こんな感覚だろう。
視界は依然と真っ暗である。
平衡感覚もおかしくなっていて、自分がどのような体勢にあるのかすらわからない。
ただ耳だけは効いていて、どこからか…──たぶん上の方から音が響いてくる。
ザッザッみたいに、何かを引き摺っている音だ。
人が近くにいるらしい。
……なんだこの状況。
どうしてこうなった。
記憶を辿ろう。
混乱しているから、一度整理した方がいい。
直近で残っている記憶を思い出す。
あぁ、そうだ。
俺は、突然の激痛で意識を失った。
そのときは死ぬんだ、って思ったけど、今はちゃんと意識がはっきりしているし、あれだけ感じていた痛みも異常もない。
おそらく生きながらえたのだと思う。
ここは死後の世界です、とか大それた発想もあったけど、俺はそういうオカルティックなことは信じないのでひとまず無視しておこう。
ソレ以降の記憶は思い出せない。
おそらくそれが最も直近で、俺が知覚した最後の出来事のはずだ。
…となると、今の俺の状況──真っ暗。動けない。圧力かかってる。上から音──の経緯についてはあまり見当つかないが……。
しかし状況から考察するに、俺は多分生き埋めになっているんじゃなかろうか。
心不全か何かで意識を失ったけど、医者も予想がつかないような奇跡の回復をみせ、なんと復活。
しかしすでに死亡したと思われていたので、それに気づかれず俺は埋葬。
そして今に至る……みたいな。
まぁイマドキの日本で、それもごく普通の一般人で土葬されるとかは普通考えられないんだけど。
……うん。とりあえずどうしてこうなったか、とかは今は置いておこう。
記憶がないなら考えたって仕方がない。
今の課題は、どのようにしてこの状況から脱出するのか…だ。
何か希望の一手はないか。
────腕を動かしてみる。しかしピクリとも微動だにしない。
それは、足も頭も身体も同じ。
逆らい難い重力によって、全身が押さえつけられている。
こうなるともう万策尽きている。
身動きとれない、視界もない…。どうにもできない。
俺、死ぬのだろうか。
大地へと還元されてしまうのだろうか。
このままでは脱水症状やら栄養不足やらで死んでしまうかもしれない。
いや、その前に肺が圧迫されて死ぬか。
酸素不足もあるし、今度こそ本当に命潰えるかもしれない。
………うん?
酸素で思い出したけど…、俺そういえば息吸ってないな。
というかそもそも隙間無い場所に埋められている…という感じだから、酸素自体がほぼないはず。
なのに特にこれといった異常は無い。
全身に圧力がかかれば、胃酸が這い上がってきて気持ち悪くもなりそうだけど、そういったこともない。
ダジャレじゃないけど、内臓がないぞう…って感覚。
いや、それはもう死体じゃん。
冗談めかしく、そう思った刹那、脳内にあの声が響く。
『魂の同期に成功。
イオラスⅨに適合を開始…──成功。
器に保存された情報の解析…──成功。
管理番号-XXXXX、スキル【META】を取得しました』
機械的な報告。
だが、なにひとつ理解できない。
最後の、何かを取得した、というのだけはわかったけど、それさえイマイチよくわからない。
意識を失う直前にも聞こえてきたけど、この声はいったい何なんだ。
人の感情を一切介してない、人工音声みたいに聞こえて気味が悪い。
意味不明な単語を連発してくるし……。
『スキル【META】を発動しますか?』
またしても突然に声。
そして謎の提案。
さっき取得したというヤツだ。
効果も何も聞かされていないのに、発動の有無だけ聞くなんて不親切だな。
説明義務を求める。誰に求めればいいかわからんけど。
…まぁ、とりあえず発動してみるだけしてみるか。
結局、この状況を打破するにはイレギュラーが必要なわけで…。
悲惨な目に遭うかもしれなが、現状維持しても仕方がない。
だから、スキル…だっけ。ソレは発動しよう。
───ビキッ、ビキッと音が鳴る。
こんな状況で音が鳴るものといえば、他でもない俺自身である。
……いや、ちょっと待て。これ大丈夫か?
ダメな感じの音が鳴っちゃってるんだけど?
形容するなら、硬いものがしなる音。
ともなれば、相当な負荷がかかっているというわけだ。
もしかしたら俺は、選択を誤ったかもしれない。
…と、少しだけ後悔したところで、俺の右腕が勢いよく上へ向けられる。
勝手に動いたのだ。強大な圧力がかかっていたと言うのに、それを跳ね除けて。
そしてすぐ後、左腕も圧力を払い除けて上へ向く。
多分、今の俺は仰向けの状態から手をグーにして、上へかざしている状態。
両腕が上ったとなれば、あとは残った体が動く。
まるで這い上がっていくように、体がミシミシ起き上がる。
無理な動きなはずなのに、痛みはない。
それからはズンズン山を登るように上がっていき………。
ついに右手が外に出た。
外気に触れたという感触がある。
手をクルクルさせてみても、変な圧力はかかっていない。
───出られる。
右手をアテに這い上がり、ついに外へと顔を出した。
先程まで何も映らなかった視界に、さまざまな情報が入り込んでくる。
磨かれた石がずらりと並んでいて、何か文字が刻まれている。
黒く変色していて、すっかり枯れているらしい木がどんよりと佇んでいる。
紫色の霧があたりを立ち込めており、気持ち悪い湿気が全身を撫でる。
……あー、なんだここ。
たぶん並んでいる石は墓石だろう。
ところどころ献花……の跡(枯れている)が見られるし、ひび割れた食器のようなものも添えられている。
ってことは、ここは墓場…?
じゃあ俺は、本当に死んだと思われて土葬されたってこと…?
さきほど考察した大それた考えが、現実味を帯びてくる。
……が、それはすぐに打ち砕かれる。
ふと、自分の身体を見やった。
ミシミシと無理に動かしたから怪我でもしてるんじゃないか…と思って。
結論からいえば、怪我はなかった。
だが異常はあった。
えーっと、簡潔に言おう。
俺は骨になっていた。
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