転生したら死んでました!?〜底辺スタートですが、スキルと進化で世界ランクを駆け上ります〜
オーミヤビ
第1話 反響
通勤ラッシュの満員電車にて、俺は今日も今日とて人に揉まれている。
横も後ろも人、人、人。
それも全員もれなく死んだような目をしているのだから嫌になる。
スマホ見たり、参考書かなんかを読んだりやってることは様々だけど、目にハイライトがないのはみんな同じ。
……ま、俺もそのひとりなんだがな。
なんやかんやで過ごしてきて、気づけば三十路を越えていた。
思えば、学生の頃が一番充実していたかもしれない。
そこそこ頭が良く、そこそこ運動ができ、そこそこ友達もいて、そこそこ行事も頑張る。
文頭に『そこそこ』がつくのは悲しいところだが、まぁ人生ってそういうものだろう。
…だが、社会に出てからはなんと空虚なものか。
決められた時間に起き、決められた時間に出社して、決められていないとこまで業務をこなしていく……そんな機械的な生活だ。
別に特別、不平不満があるわけではない。
給料は相応に支払われているし、この業界も自分が進んで入ってきたのだ。
後悔はない…といえば嘘になるけど、判断は間違ってはなかったとも思う。
……思うんだけどなぁ。なんというべきか…。
俺は今、電車に揺られながら、ボーッと掲載されている広告を眺めている。
新商品出たんだぁとか、この女優可愛いなぁとかしょうもないことを考えながら。
こういう経験は誰しもあろうが、その時このように思うことはないだろうか。
───自分は何をしてるんだろう。
うん、そういう感じだ。
人生通して、ずーっとそんな感覚に苛まれている…という。
なんだか自分でもよくわからないけど、まぁ心にわだかまりが常駐しているというわけだ。
同年代はみな子供やら後輩やらと精神的な意味で忙しないというのに、俺と来たら色恋沙汰はおろか、仕事の忙しさ故に新人もあまり入ってこないので、新たな人との出会いすらない。
変わり映えのない、凪みたいな生活。
「……死にてぇ」
思わず口に出る。
言葉が言葉だけに、恥ずかしくなって口を押さえる。
別に破滅願望、自殺願望があるわけではないし、本気で死のうとも思ってないけど、最近よくそう考えてしまう。
なんというか、この人生自体が無意味なものに感じられるのだ。
手放してもなんら害も得もない、と。
いっそ、自分探しの旅にでも出ようか。
自分の意味を探しに行くぜ、とクサイセリフを吐きながら海外とかに。
…でも、英語とか苦手だしなぁ。文法はイケるんだけど…。
あぁ、こういう諦める思考だからいけないのかな。
「─────────」
胸中でボヤいていると、どこからかヒソヒソと話し声が聞こえる。
具体的に何を話しているのかはわからないけど、声質的には女子高生・男子高生とかの若い感じだ。
……もしかして、俺の呟きについてだったりするのだろうか。
「──────────」
「────」
声が増えた。
さっきは中性的だったけど、今回はちゃんと男ってわかる。
辺りを見回すが、声主らしき人はいない。
前の座席に座っている人はうとうと寝ているし、横もスマホに夢中である。
後ろの人は背中合わせになっているからわからないけど、距離感的にたぶん違うと思う。
俺の呟きがそんなに面白かっただろうか。
…いや、冴えないおじさんが急に「死にたい」とか言い出したら面白いか。
くそう、ネットの晒し者だけは勘弁してくれ……と被害妄想してみる。
暇だと人間はこうなるのだろうか。俺だけか。
「────────────」
「────────」
「───────────────」
「───」
どうやらヒソヒソお喋りは白熱しているらしい。
こう『何を言っているかわからないけど耳には届く話し声』はやめてほしい。
ちゃんと聞こえるのなら、学生時代に寝たふりスキルを極めた俺はラジオ感覚で聞き流せる。
一方明確に聞こえないと、学生時代に拗らせスキルを会得した俺は、変に被害妄想してしまうのだ。
耳が痛いのでやめてほしい。
…まぁ、身勝手な理由なんだけどね。
「─────」
「───────」
「──」
「──」
……あれ。
耳が……痛い。
慣用句のソレではなく、物理的に。
鼓膜の奥がジンジンと痛む。
「───────────────」
いや、耳どころではない。
頭が、筋肉が、骨が、肺が、心臓が…
全身がもれなく痛い。
実際に体験したことはないけど、ハンマーでカチカチ叩かれているみたいな感覚だ。
「──────」
「──」
……待ってくれ、冗談じゃない。
痛みで筋肉が硬直する。
瞳孔が揺れて、視線が定まらない。
口元が緩んで、泡が漏れ出る。
自分を抱きながら、ゆるゆると膝をつく。
隣にいる学生が、会社員が何事かと俺から距離を空ける。
「───」
「───────」
囁き声が脳内でリフレインする。
それがノイズのように思考を掻き乱して、自分の状況がよりわからなくなる。
「大───ぶ─すか?───ちょ──るい──か?」
新たな声がする。
でも、これは囁き声ではない。
揺れる視線をなんとか前に向けると、先程まで寝ていた座席の人が、こちらを見ていた。
たぶん、心配してくれて声をかけたのだと思う。
……が、その声はノイズにかき消されて届かない。
(……あぁ、死にたくないなぁ)
自分でも、なんでそう思ったのかわからない。
ずっと…、ずっとそんなこと思わなかったのに。
そういえば、母さん元気かな。
父さんが死んでから、あんまり帰れてないけど…。
先に死ぬなんて、俺はとんだ親不孝者だ。
友達とも会えてない。
アイツの結婚式、大事な仕事があって蹴っちゃったんだよな。
嫁さんかわいかったけど、幸せにしてるかな。してるだろうな。
あ、あのゲームの新作出たんだっけ。
いつかやろうと思ってたけど、結局手は伸びなかったな。
前作は死ぬほどやり込んだのに。
会社の人にも迷惑かけるよな。
「新人いなくて嫌になるわ」ってボヤいてたアイツに毒突かれそうだ。
新規プロジェクトも始まったばっかなのに…。
ドッと、死への恐怖が増す。
全部今更…なのに、生きたいと思ってしまう。
死にたくない。
誰か…、誰か……!!
「ぐ……ぁず…ぎぃえ…で」
ただ、「助けて」と一言言いたかっただけなのに、出てこない、
結果は喉を鳴らすだけで、漏れ出た泡が汚くぶくぶくと音を立てる。
それを気味悪がったのか、俺の周りに空間ができる。
この満員電車の、どこにそんな空間があったのかと誰かに問いただしたくなったけど、そんなことはどうでもいい。
顔を上げなくても、奇異なものを見るような視線が俺を突き刺しているのがわかる。
ハハ、これじゃ本当にネットの晒し者じゃないか。
笑えない。
「───────」
次第に意識が遠のいていく。
痛みももはや薄れていて、何も感じられない。
あぁ、本当に死ぬ。
───思考が途切れようとした、その刹那。
「魂同調率100%
機械音声みたいな女声が、いきなり明確に聞こえる。
……魂?転生?
意味のわからない言葉のオンパレード。
そしてその意味を深く思考する前に、俺の意識は暗転した。
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異世界・ホームシック〜血筋と才能に恵まれているようですが、僕はただ温かいお味噌汁が飲みたいだけなのです〜
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