7 世界に嫌われた父は我が子だけの英雄となる

言っただろう。俺は鬼王…コトリノ王の血を少し引いた子供だ。

コトリ。子取り。

コトリノ王は自分の血を引く子供を喰って強くなった外道さ。


リュシカへ愛を囁く理由の一つはこれさ。

愛によって生まれたわが子を、リュシカの目の前で食うのさ。

あの外道はそれがリュシカへの愛だと豪語している狂気を持っている。



食おうとしたんだ。俺を。

くそったれコトリノ王は、父から俺を奪って食おうとした。

今までそうしたように。


ああ。リュシカの直系の子供はその時、俺だけだった。

父か?そうだな、コトリノ王とリュシカの実子だからか。

……醜すぎて食指が動かないとのたまったよ、くそったれコトリノ王は。


腹は立つさ。俺の父親を馬鹿にしたあの野郎のことは。

周囲に醜い容姿で爪弾きにされても、一生懸命俺を育ててくれた父さんをあの野郎は随分と馬鹿にしてくれた。


悪いな。煙たいか?

……自分のガキがこうしてタバコを吸っていたら、父さんは怒るだろうか?

恨みごとでもいいから、こっちに帰ってきて直接言ってほしいと思うよ。

まあ、父さんは俺と違って優しいから、半泣きで説教するかもな。


……まだ、生きていてほしかったな。

いや、違うか。俺に力があれば、父はもっと長生きできたかもしれない。


……なんでだろうね? 怒りの矛先は、コトリノ王に向いているはずなのに、どうしようもなく遣る瀬無いんだ。


話を戻すか。

コトリノ王についてだが。

愛するリュシカをとことん絶望させたいゆがんだ性癖が相まって、リュシカの直系の孫にあたる俺を狙った。


父さんは戦ったよ。

俺を守ろうと血まみれになって。濁流のようなコトリノ王の攻撃から守るために、ちぎれた腕を俺に投げて術式を展開して守りながら。

父は分かっていた。とっくに知っていた。

生きとし生けるものが吐き出す呪いそのものであるコトリノ王を――

殺せないことを。

逃げられないことを。


醜い自分以外、コトリノ王に食われずに済んだ子はいない。

だから父はコトリノ王を殺すことも、追い払うこともできなかった。

そして……自分が殺される前にコトリノ王を道連れにするために、死の呪いを発動させたんだ。


……父さんは、最後まで俺を庇って死んでいったよ。

死の間際に言った言葉は理解できなかった。

でも、望みどおりにした。

まず、父のちぎれた腕を嚙みちぎった。

次に、コトリノ王が流した血を一口啜った。


それを見て父さんは微笑んで死に絶え、コトリノ王は割れた大地から伸びた数多の鎖に括られ、大地に吞まれたように幼い俺には見えた。

そうさ。それが死の呪詛による術式の発動だ。

コトリノ王は死んだよ。いや、死に向かっている、か。


父さんは、もう一つの術式も構築していた。

これに俺に流れるほんの少しの鬼の血が作用したのか、父さんとコトリノ王の記憶が流れ込んできた。

そして理解した。父が何をしたか。

父さんは。

俺が母さんから継いだ呪いを解いたんだ。

俺を鬼に転化させることでな。

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