序章 ないがしろにされた父

生まれてからずっと、良いことなんてなかった。

――だけど、出会ったんだ。…………。


……ああ、これか?これは俺の父が残した手記さ。

鈍器じゃない。ああ、そうだな。

ミシュナがうちに来た時に後頭部に落下したあれだな。

人が茶を淹れている間に、本棚の間やらベッドの下を探ったあの野郎が悪い。


アホほど分厚い、古びた白紙のノート。

あいつはそう言って、お前は疑問に思っていたな。

びっしりと書かれた文字を認識できなかったんだから。

その認識であっているよ。ミシュナにとっては、ね。

お前は読めるようだな。……その活字離れの姿勢をどうにかすればの話だろうけど。


お前にも分かるように口頭で言うならば。

父さんの手記は魔法使いであろうと、現代人には読めない。

ユイならいくつかは認識できたかもしれない。あの時いなくて少し安心したよ。


何故ユイには読めるか?

あの子は古代の魔法使いの血が特に濃いようだ。

古代より生ける存在や物質に対して、現代の武器や魔法は干渉しにくい。

以前、古き異形に襲われ時にミシュナの魔法はちっとも効果はなかったが、ユイの攻撃は一定の効果があったあれだ。

ミシュナも血縁上、古代の『魔女』の血を継いでいるはずなんだが……。

そのあたりはもう少し探りを入れないといけない。




……まあ、俺とお前のアレは例外だ。レポート提出拒否したのは、一般人には危険だから。

だから、ユイもミシュナも納得していただろう。

古代の存在といえど、現在の世界に干渉する以上は触れられる。

つまり。

素手を急所に叩き込めばダメージは入るんだ。

あの形容しがたい臭気を帯び、臓腑の集合体のようなアレに、だ。つまり。

肉弾戦を行えば、その攻撃は通用する。

こんなの、一部のイカレた武闘派でもない限りおすすめしない。




そうだな。

折角だから聞いてはくれないか?

俺の父さんのことを。

世界に嫌われても世界を愛した父さんのことを、聞いてくれないか。


別にいいよ。

いいんだよ、お前なら。……意外そうな顔をするな。


後学のために聞いておくといい。

お前は今日、俺が話したことの半分も覚えちゃいないだろうから。だから、俺の話を真に受けたりしないでくれ。

ただ、俺と似た境遇のお前だからこそ、話したかったんだ。

世界に嫌われ、世界を愛した父のことを。


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