10:魔王の絶望
さあ、黒翼の魔女は何を開いたのでしょう?
ふふ、ふふふふふふッ。
人間に散々裏切られても寛容だった魔王が、この時ばかりは絶望の顔をしていたのですよ?
あの御方には魔女が何をしたのか、充分すぎるくらいに分かってしまった。
そうして彼は魔女を捕らえて問い詰めました。
けれど、魔女は何も答えなかったようです。……いえ、魔女は一つだけ教えてくれたのだと思いますよ。
「私を破滅と創世の落とし子として産んだのは、シルヴィアとベアトリスだもの」
と。
ああ、お可哀想な魔王様! そして愚かで愛しいわたくしのオリヴィエ様! 私は貴方にこそ救われて欲しいというのに!
魔王様は、創世のシルヴィアと初代女王ベアトリスの子孫が落ちぶれようが人格に問題があろうが、何をされても彼らを護り通してきたのに!
だって、あの御方が守ろうとした子孫であるオリヴィエ様が苦しんでしまうんですもの!! 魔国を治める者として、民を傷つけるわけにもいかない。
だから耐えてきたのに! なのに何故、今更になって壊そうとするの!? ねぇ、教えてちょうだい。
どうして、どうして、どうして…………。
――……………。
「どうして、私の大切なものを奪おうとする」
それは魔王が見せた初めての感情だった。
目の前にいる存在に対して、明確な怒りを覚えたのです。
魔王は女王の呪いが自らに向くように何度も試みました。でも、出来なかった。
女王はシルヴィアを狂愛するあまり、呪いすら独占し魔力の門を閉ざしていましたもの!
その門を開けるのは、女王ともう一人。
彼女らが産んだ、黒翼の魔女だけでございます。
だから魔王は黒翼の魔女を殺してしまいたかった。なのに殺せなかった。
なぜなら、彼女が最後の希望だと理解していたから!
魔王が愛する友の遺した者だから!魔王は彼女の命を奪う事が出来ず、かといって創世のシルヴィアの子孫を見殺しにもできず、どうしようもなく苦しんでいました。
それならいっそ、この手で……。
………………。
……ところで。
この話をすんなりと受け入れる子は初めてですね。
女同士で子が生まれるなどありえない。……そんな常識に皆、囚われますもの。
でも、真実なのです。
かくして、女王の呪いは本来受けるはずだった者へ戻りました。
しかし、創世のシルヴィアは死んでいますから、子孫が呪いを受け取ります。
積もり積もった因果の呪い。それが顕著に表れたのが、血狂いのオリヴィエ様でした。
オリヴィエ様の狂った様は以前お話ししましたね。
あれこそが女王の呪いであり、ハンク家がツケとしてため込んだ代償だったのでしょう。
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