6:愚者は魔王の優しさで生かされている
でも、世界を救った代償を奴らは裏切りで返しました。
あの男は……、それに羽人は……。
神の使徒を唄っておきながら、聖なる光の加護を受けているにもかかわらず、羽人は、ハンク家は、王国の連中は……。 ええ、そうですよ。
あろうことか、羽人が統治する我がファインブルク王国は魔王に戦いを挑みました。コトリノ王の手のひらに転がされながら、それはそれは、最低な方法で。
魔王が愛する人間を矢面にしての、魔王討伐戦でございます。
その人間すらも魔王は敵だと、認識を長きにわたってすり替えられましたが。
魔王は悔やんでいましたから。
ベアトリス様の呪いを浄化できなかったこと。
初代シルヴィア以降、ハンク家子々孫々に渡り短命の呪いを負わせたこと。
魔王が罪悪感を抱いている、ベアトリス様が治めるファインブルク王国の民を使って、魔王を徹底的に陥れたのです。その証拠に、王国が魔国に宣戦布告する前に、王国には新たな女王代行が即位したと記録があったでしょう?……そうです、今から150年ほど前のことですわ。
我が王国はこの時代にはすでにコトリノ王の傀儡国家となったのです。
魔王は悲しみながらも、かつての仲間の末裔の愚行を甘んじて受け入れました。
彼は優しかったのです。
その優しさが、結果的には仇となりましたが……。
魔王はコトリノ王が操るファインブルク王国軍に囲まれても逃げませんでした。
コトリノ王のいやらしい所は……かの、くそったれ王の能力は対象の抱く負の感情を底上げするもので、洗脳ではないことです。
つまり、王国の民たちは少なからず、魔王に悪意を抱いていたのですよ。そして、王国軍も、ね。
素晴らしい教育だと思いませんか?
救世の英雄を悪鬼のごとく作り上げる、ファインブルクの教育ですよ。
これに疑念を抱くものは魔女として処刑するのですから、とっても素晴らしい学びですこと。
私はこの目で見ておりますよ。……ふふ、以前言いましたでしょう?
黒翼の魔女に魅入られた哀れなわたくしたち父子は、未来の断片ともう一つ。
過去の断片が見えるのですよ。……あれほど無惨な光景は見たことがございません。
我が父は……魔女狩り騎士の従僕は自らの娘と引き換えにして、我が国が取り決めた『魔女』の命を刈り取りました。だからこそ、貴方が見た画集を描き自ら命を終えました。
わたくしはあの光景を見て、確信いたしました。
これは罰なのだと。
我々に与えられた贖罪の機会なのだと。
だから、おぞましいそれを世に出したのです。
黒翼の魔女の存在を証明するために。
わたくしたちが受け、同時に無辜の民に与えた痛みを忘れないために。
忘れてはならないからこそ、わたくしはそれを描いたのです。
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