3:羽人との亀裂

その結果がどうなったかはご存知の通りです。

あなたたちが分かる、あの戦場で起きたどうにもならない状況を、羽人たちは受け入れようとしなかった。

魔国は魔王を失いました。

ああ、誤解なさらないでくださいな。

魔王が死んだというわけではなく、彼が統治できる状況にいなかった。数十年、いえ、百年ほど。

魔王は内なる呪いと戦い続けていたのです。


その間、羽人一族は魔王に感謝するでもなく、傲慢にもベアトリス様の呪いを解けなかったことをなじり続けたのです。魔国が安定するまで待ってくれればいいものを、羽人たちは民を率いて攻めてきました。

時期的には、ハンク家が英雄の威光に縋って堕落した頃でしょうか。

初代女王ベアトリス様が御身を削って作り上げた安寧秩序に胡坐をかき、惰眠をむさぼるシルヴィアの子孫たちに羽人達は激しい制裁を加えます。

そうして言いました。

女王の名のもとに、この国に報いるのだと。

こうして堕ちたハンク家に魔国の民を襲わせたのです。

え? そんな話は聞いたことがないですか? ふふ、そうですね。

私がハンク家に仕えた時にはすでにハンク家は衰退の一途を辿っていましたからね。

何より、そんな負の歴史なんて王国は徹底的に消しておりましたから。

でも、これは事実ですよ。

わたくしが仕えたハンク家を筆頭にファインブルク王国は魔国と戦争をしていた。そして、その戦禍に巻き込まれたのです。……ああ、ようやく分かりましたか。

そう、あなたの村を襲い流浪の民とした悲劇は、全て私が仕えた家の者たちが引き起こしたものです。

……気が付かないとお思いでしたか?

私の娘とその幼馴染が立ち上げた俱楽部に入部したのは、私に近づくためでしょう?

ねえ?

魔人アヌベス?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る