1:王国視点の魔国とは
魔国ゼフェスゾームは、私たちが住んでいたファインブルク王国の北西にあります。
位置としては大陸の中央より北西寄りでしょうか。
かの国は北の大国ペレスリュカを隔てるルガル山脈の麓にあります。
――ええ、大陸を二つに分かつほどに広大な山脈です。
我が国とは国交もなく、他国とも国境を接していないため、どのような国家なのか正確なことは分かっていません。
ただ、我が国からは『人喰いの国』と呼ばれているようですね。
人を喰らう凶暴なケダモノ、と。
魔国は国土の大半が荒野であり、国民の大半は貧しい暮らしをしています。
……貧しい。そのことに彼らは嘆きませんが。
自覚すら持っていないのでしょう。
魔人の成長は非常に遅く、一部の上位種を除いて知能が低く自我が乏しいのです。そのため、彼らは最低限の生存本能を活かして、他者を支配することでしか生きることができません。
支配された者たちは生殺与奪の権利を相手に握られます。
彼らの食糧は主に人間の肉なんです。
だから、『人喰いの国』というわけですよ。
魔人は魔法に強い耐性と強靭な力、再生能力が極めて高いのです。
彼らが人間を好んで捕食するのは、本能で弱さを知っているから。
だからこそ、魔と相反する聖属性を持った羽人の加護のもと、私たちは生かされている。魔国の民にとって人間は敵なのです。
……これが、数百年かけて歪められてしまった魔人の情報です。
それはそれは、悪のケダモノ同然の扱いですね。
以前申し上げましたね。
鬼人の王に隷属する魔王が王城に入り込み、傀儡の王を立てようと画策していたと。
あれは真実ではありません。
本来の彼らとは事実が異なるのですよ。
彼らは自我が乏しく強大な力を用いますが、人を食べる習慣はありません。
――ええ、確かにこの画集にありますわね、女人の肉を食む魔王の姿が。
これも、魔人の特性を知っていればまったく意味が異なります。
むしろ、魔王には行き場のない者たちを、分け隔てなく受け入れる優しさがある。
魔国ゼフェスゾームについては、まだまだ分からないことばかりですが、これだけは断言します。
魔王ほど優しい王はいません。彼は決して弱者を見捨てない。
では、何故こうなってしまったのでしょう?
羽人と魔人はどうして関係性に亀裂が入り、歯車がずれてしまったのでしょうか。
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