英雄騎士の従者は魔国を語るーープロローグーー
そんなに緊張しなくても構わないのですよ?
――わたくしは娘の友人とお茶を楽しみたいだけですから。
榧木琴子はそう言って妖艶に微笑む。
昼下がりの小さな喫茶店の奥まった席で、彼女はまるで魔女のような佇まいで紅茶を口にする。
対面の席にいる少年は表情にこそ出さないが、警戒は怠らない。
言ってしまうのは悪いが、彼女は正気と狂気の狭間を行き来している。
狂気の原因である事柄を問いただすのだ。どうなることか。
「さて、今日は何をお話しましょうか」
彼女の声はどこまでも優しく、そして甘い。
その声を聞くたびに心がざわつく。
彼女の言葉は思考を停止させるものではあるが、同行者へ向ける冷たい視線で我に帰る。
自身を歓迎しているが、同行者の少女が気に食わないらしい。
「魔国について、貴女が見聞きしたものを知りたい」
――吞まれるな。
彼の同行者はピクリと身体を強張らせるが、その様子を察して彼が手を握ると少し落ち着いたようだ。
「子供たちが焦がれる英雄譚ではなく、影となった事柄をですか? それはまた……」
どうして? という疑問の声は発せられずに飲み込まれた。
「分かりました。それでは、ケダモノと噂される魔国と魔王の真実について語りましょう」
それにしても、娘がこんなにも熱心だとは意外でした。
俱楽部活動は仕方なく付き合っているのかと思いましたが、娘があんなにも意欲的に活動しているのですもの。少しぐらいは応援してあげないと。
……ふふ、お礼なら私が言うべきですわ。
娘の友達になってくれてありがとうってね。
でも、あの子にはもう少し危機感を持ってほしいところだけど……
あら、ごめんなさい。話が逸れてしまいましたわね。
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