第6話 貴方だから話すのです

あらあら。何か言いたげな様子ですね。

ーー………………。

  その新緑の瞳で迫られたなら、少し口が軽くなってしまいますね。

オリヴィエ様には協力者がいましたし、私もあの殺戮の日に出会っています。

世界の観測者を名乗る魔女は黒い翼を持っていました。

ええ。あの方が一度だけ口にした、黒翼の魔女です。彼女はあの日、シルヴィア救出に向かう私の前に現れました。

そして、その妖しく輝く金の眼でオリヴィエ様とシルヴィアの未来を見せてくれたのです。

それがあの、父と私が作った画集です。

断片的な未来を、凡人が見るべきではありませんね。

残酷な未来が一枚の写実的な絵画のように、断続的に脳裏に浮かぶのです。

父はその悪夢に耐えられませんでした。

私もそうでしょうね。

私も父も、あの絵を描いた時の記憶はありません。本能的に恐れを吐き出した結果なのかもしれませんね。さて、ここから先は私しか気づいていない話です。

いえ、正確にはシルヴィアと、もうひとりだけでしょうか?

その黒翼の魔女は非常に似ておられました。……ファインブルク王国初代女王ベアトリスに。

髪の色が違います。

瞳の色も違います。

漆黒の翼を持つ翼人の存在はあり得ません。

けれど、あれは確かに女王陛下でした。……ああ、ごめんなさい。つい話し込んでしまいました。

どうか、私の先の言葉は忘れてくださいませ。しがない使用人のたわごとですから。

私はここでお暇させていただきましょう。

……戯言をもう一つ。

黒翼の魔女が見せた未来の中に、シルヴィアの出産の映像がありました。

あり得ませんのに。シルヴィアは妊娠がわかって数か月後に死んでしまったのですもの。

けれど、あの方の未来視は必ず当たるのです。

貴方のような赤み掛かった黒髪に、褐色の肌の赤ちゃんでした。ええ、本当に。

シルヴィアよりは、彼女の伴侶によく似ていたのです。

ふふ、心が擦り切れた従者の妄言としておきましょう。

ではでは、名残惜しいですがこの辺で失礼いたします。

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