第5話 オリヴィエの最期

それからしばらくして、オリヴィエ様の旦那様と…その後に私の母が亡くなりました。

旦那様はオリヴィエ様の暴言を受け続け、お酒が増えていましてね。不摂生が祟り亡くなりました。

母も心労が祟り、病にかかり、そのまま亡くなってしまいました。

ああ、母の葬儀で私はひどく驚いた記憶があります。

オリヴィエ様が母のーー一介の使用人の棺にすがって少女のように泣いていたのです。

旦那様の葬儀で顔色一つ変えなかったあの方が、です。

「お母さん…お母さん……。私はまた取り返しのつかないことをしてしまった……」

近親婚を繰り返したハンク家の特殊な血縁関係から察するに、オリヴィエ様と先代の当主は血の繋がりは近くとも親子ではないのでしょう。

シルヴィアが生まれ時に心中を話してくれた時から。いえ、オリヴィエ様にお仕えした時から、私の母はオリヴィエ様へ姉のように、母のように愛を与え続けていました。

親の愛を知らず、使命を優先し続けたあの方にとって。その愛情は狂気に囚われたオリヴィエ様に、一時ですが人としての心を取り戻させるほどでした。

母の死後、オリヴィエ様が正気でいる時間はどんどん少なくなりました。

その後のことは、あなたたちもご存じのとおりです。

ついには完全に狂ってしまい、シルヴィアを殺そうとして失敗。オリヴィエ様は自死を選びました。

ーーええ、そうです。

世間一般ではシルヴィアが殺したことになっていますが、あの方は自殺したのです。

何故断言できるかですか?

見ていましたから。殺戮の現場を。あの方の死にざまを。


殺戮が起きる数日前より、私ども父子は牢屋に入れられていました。

生憎と、作ろうと思えば罪などいくらでも作れるお国柄ですもの。

……異国の民である私がハンク家の剣術を学んだこと。

母の死をきっかけにオリヴィエ様の狂気の状態を抑えられなかったこと。

その罪は重く、裁判すらされず、私達は投獄されました。

全てはオリヴィエ様の長きの不在の折に、分家の者たちが独断でやったことでした。


父は、これからオリヴィエ様が成すことを知っていました。

シルヴィアを当主にすることができ、王国に蔓延する魔女狩り推進派を黙殺できる方法を。

彼奴らの頭目の皆殺しでございます。

わかっていたのです。この国の上層部に巣食う鬼を根絶やしにしなければならぬと。

シルヴィアを当主にするには、邪魔者を消す必要があると。

なにより。

その計画が筋書き通りに行かないことを。

ーーあなたはどう思いますか?

正気を失った女一人で、計画を遂行できるとお思いですか?ええ、無理です。不可能です。

何せ、相手はこの国の真の支配者。

人喰い種族を束ねる王なのですから。

だから私は、オリヴィエ様の代わりにそれを成そうとしたのです。

その為には、脱獄の必要があったのですが……。

これは意外と容易でございました。なにせ、見張りはシルヴィアを案ずる使用人ばかりでしたから。

オリヴィエ様が失敗した時のことを考えて、父はあらかじめ手を打っていましたよ。

そうですね。シルヴィアが殺される以上の恥辱を受けるくらいなら、自分が犠牲になろうと考えていたのかも知れません。

ーーあら、顔色が優れませんね。…ええ、貴方が考えた通りのことですわ。

ご子息を新たな当主に添えたその場で、あのくそったれな分家共はシルヴィアを犯すつもりでしたのよ。

十にも満たない子供を性の対象にしやがったド糞外道がハンク家の闇の一つです。

まぁ、それを知ったオリヴィエ様が全員を斬り捨てたおかげで事なきを得ましたけど。

オリヴィエ様は……狂気に飲まれながらも、娘を守ったのです。そして、私の目の前でシルヴィアの突きつけた剣を自身の胸に深く突き刺しました。

オリヴィエ様の……計画の最後の部分だけは止めなければならなかったのに。

私たちはシルヴィアに……親殺しの罪を負わせてしまいました。

そして、今に至るわけです。

以上が私の知る限りの真実でございます。

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