第6話 渡す日

 ☆☆☆

 あき風吹く10月1日。ハロウィンでもバレンタインデーでもない。

  

 会おうと約束した日。仕事でのキャンセルもなく来てくれた。

 社会人していると時間が貴重だ。

 不安だったが、部下が気をきかせてくれたのだろう。過去一早く戻ってきた。ラッピングしてある箱を渡してみる。彼は目を見開いて驚いている。

「コレ?」

「ええ。これは成分表。甘くないものをえらんだんですけれど、どうでしょうか?」

「ありがと。とてもうれしい」

 彼はなぜか泣きそうだ。

 彼はチョコを口に含んで、私にキスをした。

「ふはぁ」

 ビターな味と甘い快楽。

「甘い。あなた、歯周病ある?」

「……虫歯なんてないし、定期検診は受けている。まだ医者に忠告されたこともないよ」

 ふわりと笑う。

「じゃぁ遺伝子的に相性がいいのね」

「それは光栄」

 また一口頬張る彼はこういった。


「お返しの代わりに良いところ連れて行くね」


 ドライブだろうか、どこかの映画館でも行くのだろうか、ディナーも悪くない。

「ふぅん。そう」

「楽しみにしておいて」

 残りのチョコを彼は大切に一粒一粒口に運んでいくのだった。

 楽しい時間はあっという間で、彼は明日も仕事だからと帰っていった。

「……せつないわ」

 もっと近くにいたいというのはわがままだ。

 自覚しているからこそ、寂寥感にさいなまれる。

「よし、私の仕事に打ち込むわ」

 彼といい関係を築けていると思っている。

 

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