第4話


 僕は結局その手を取ることはなかった。


 しかし先生に告発チクることもなく、象巳のその行為を見過ごした。


 それは、容認した、ということに等しい。 


 案の定、その次の日には、クラスの良くない者たちがざわめていてた。しかし、元より悪いことをしているのは自分たちである。


 教職員や保護者に助けを求めることもできない。右往左往するしかなく――結局それは教師にバレ、誰が盗んだか――よりも、彼らが不必要なものを持ってきたことが悪い、という結論に至った。


 それから彼らは、不必要なものを持ってくることはなくなったらしい。


 象巳の話は寡聞かぶんにして聞かないので、彼女も彼女で、自分の世界の構築のために、上手く犯罪行為を続けているのだろう。少しずつではあれど、クラスの雰囲気は良くなっていった。


 僕はといえば、象巳を見過ごしてしまった罪悪感と、自分への不信感――そして世の中への不満を、毎日のように募らせるしかなかった。


 あの日、確実に僕の何かはぼっきりと折れて曲がってしまった。


 学校に行く気も無くなり、皆勤賞だったにもかかわらず学校を休むようになり、不登校になった。

 

 どうやら学級の団結力は以前にも増しているようで――体育祭では優勝したということを、担任から聞いた。

 

 僕はちゃんとしようとしていた。

 

 僕がしっかりしなければ、と思っていた。

 

 しかし――僕がいなくても世界は機能していたし、むしろ僕がいない方が、上手く言っている有様であった。

 

 依然、僕には世の中は醜いものにしか見ることはできないけれど。

 

 そんな中でも楽しそうに生きる彼らが、たまらなく羨ましかった。




(了)

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正欺瞞 小狸 @segen_gen

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