乙女ゲー世界に♂転生♂したけど悪役令嬢が気の毒なので悪役王子を目指すことにした(6)

 なんだかんだで時は流れ、俺は六歳になった。

 普段からご馳走だが、祝いの料理はさらに豪華だった。量も多く、とても食べ切れないほど。

 貴人の食事は「食べ切る=物足りなかった」という意味になるらしく、残すのが当たり前。


 俺も最初の頃は勿体ないからとつい食べすぎていたが、途中で「このままだとデブになるな」と気づいた。

 今は食べる量をセーブし、なるべく野菜も摂ってバランスの良い食事を心がけている。


「殿下が好き嫌いなく食事をお摂りに……!」


 とか驚かれたのはまことに遺憾である。

 前世の記憶のお陰で食べられるようになっただけで俺が頑張ったわけではない。


 ともあれ運動もしているので今のところ腹が出てくる様子はない。


 ちなみに、食べきれなかった分の食事は料理人や使用人の賄いになったりするらしい。

 それを聞いてからは、自分の皿はなるべく空にしてお代わりを断る=お腹はいっぱいだとアピールしつつ食べ物が無駄にならないように努めている。


 と、話が逸れたが。


 六歳になった事で俺に新たなイベントが発生した。


「殿下にはご自身の側近を選んで頂かなければなりませぬ」

「側近?」

「殿下が自由に使える部下、という事になりますな。同じ年頃の子供から何人かお選び頂き、普段から殿下のお話相手や競争相手を務めさせます」

「おい、それはめちゃくちゃ重要なんじゃないか?」


 王子の側近になるかならないかでそいつの未来は大きく変わる。

 しかも俺は王位継承権第一位だ。

 スムーズに行ったらそのまま王の側近コースである。


 説明役となった初老の教師は「そうですな」とあっさり答えて、


「ですので慎重にお選びください。基準は殿下ご自身との相性、それから能力といったところでしょうか」

「それはわかるが。そんなもの、父上と母上に決めてもらう方が良くないか?」


 どう考えても俺の進退にも影響が出る。

 使えないクズや忠誠心の足りないアホを採用したら足を引っ張られかねない。それどころか俺が唆されて失態を演じる可能性さえある。


 ……というか、王子ルートでは側近がまさにやらかしていたな?


 平民出身で貴族的常識の足りないヒロインを王子に近づけさせた挙げ句、自分たちも絆されて甘々になっていた。

 ヒロインの接近を許した王子も王子だが、そんなもの、嫉妬したパトリシアが嫌がらせをするのも当然だ。

 自分の結婚相手が圧倒的に格下の女にデレデレしていたら不愉快に決まっている。

 が。


「一理ありますが、親の目線ではわからない事もあります。一長一短であれば殿下ご自身で選んで頂く方が得策かと」

「側近選びでも俺の王としての素質が試されているって事か?」

「そう考え頂いても差し支えないかと」


 たまに思うが、この教師、俺がまだ六歳の子供だって忘れていないか?

 まあ、それならそれでいい。


 側近選び。これは次期国王ルートから外れる大きなチャンスだ。

 優秀な人材で固めると派閥が盤石となり玉座が近づく。

 ならば、逆にそういう人材を選ばなければいい。


「ちなみに先生? 俺が選ばなかった者はどうなるのだ?」

「ふむ。特に何もありませんな。残念だったと肩を叩かれ、来年、弟君の側近候補に回される事でしょう」


 実を言うと、俺には一歳年下の弟がいる。

 腹違い、側室から生まれた第二王子だ。こいつも原作乙女ゲームにおける相手役の一人である。

 第二王子ルートではヒロインを結ばれた彼(弟)が第一王子であるフィリップ(俺)を上回り、次期国王に選ばれる。

 そしてヒロインと共に仲良く国を治めていく事になる──らしい。


 俺はノベライズ版しか読んでないのでざっと調べた程度の情報だが。

 つまり、俺が王にならなくとも弟が立派にやってくれるわけだ。


 そもそも俺は王の器じゃない。

 ヒロインと恋仲になる気もない以上、弟に譲る方が得策だろう。

 というわけで、


「先生。側近候補がどんな奴らか教えてくれないか?」

「構いませんが、通り一遍の情報しかお渡しできませんよ?」


 誰かに肩入れする事はしない、か。よくできた人だ。


「構わない。先に心構えをしておきたいからな」


 優秀な奴を落として、他の奴を採用するために。



    ◇    ◇    ◇



 ということで、側近の選定が始まった。

 選定と言っても特別な事はしない。単に一緒に遊んだり話をするだけだ。その中で気に入った者を俺が選ぶという形。

 何度か行った上で最終的な決定を下すそうで、初回の会場となったのは城の応接間の一つだった。


 ソファに座った俺の前にずらり、並んだ十数名の男子達。


「……全員男なんだよなあ」

「おや。殿下は異性の側近がお好みでしたか?」

「そりゃあ男ばっかりで暑苦しいよりは女がいた方がいいだろう?」


 実際は異性だとトイレについて来れないし二人きりにもなれない。

 愛人候補と疑われかねないので無理だが。


 教師と馬鹿な会話をしていると、少年達の多くが顔に嫌悪を表した。

 異性に反感を抱くお年頃の奴が大部分、残りはおそらく潔癖症か。

 表情を動かさなかった奴は緊張してそれどころじゃない奴と、ポーカーフェイスを保った奴。

 事前情報を加えれば色々と見えるものがある。


 彼らのうち何人が「部屋に入った段階、いや城に到着した段階から審査されている」と気づいているだろう。

 普通の六歳には到底無理だ。

 むしろ前世の俺なら高校生時点でもたぶん無理だった。


「っと、失礼した。今日は集まってくれて嬉しく思う。この国の第一王子、フィリップだ。長い付き合いになるか短い付き合いになるかまだわからないが、よろしく頼む」


 好色に見られたのはアホ王子ポイント高かったかもしれない。

 俺はソファから立ち上がり、両腕を広げて笑みを浮かべた。


「父上と母上から『側近を選べ』と言われたが、正直まだピンと来ていない。そこで、とりあえずお前達と気楽に遊ぼうと思う」


 このままバイトの面接みたいになっても面倒だし、自分を作った状態の受け答えなんて大して参考にならない。

 側近として日常を共にすればどうせ素はバレていくのだから、教師の言った通り、俺と相性のいいやつを選ぶのも重要だ。


「とりあえず菓子と茶を用意してくれ。それから遊戯だ」


 俺の指示でメイドたちがてきぱきと用意を始める。あらかじめ「こういう物が欲しい」と指示してあったので準備は万端である。

 っても「男同士で部屋に集まってポテチにゲーム」の豪華版が展開されるだけなんだけどな。


 こんもりと皿に盛られたクッキーを多めに取ってもらい、手づかみで一気に口へ放り込んで。


「まずは自己紹介でもしてもらおうか。……あ、菓子は好きなだけ食ってくれ。たっぷり用意させたから無駄になっても困る」


 さて、優秀な奴はどいつだ?

 ふっふっふ、仕事のできそうなのは優先的に不合格にして弟の側近に回してやるから覚悟しろよ、お前達。

 かなり理不尽な事を心の中で思いながら、俺は不敵な笑みを浮かべた。

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