【4/1】美少女しかいない高校【自作品クロス】
高校一年生の美奈はごく普通の女の子である。
人よりちょっと可愛くて露出性癖があって、女の子同士に興味があってVRMMOが趣味なだけの──やっぱり普通じゃないかもしれない。
ともあれ。
休みの日や放課後はゲームで忙しい彼女も普段は真面目に学校へ通っている。
スカートが短めなことと、下着が紐だったりレースだったりすることはあるけれど、遅刻や欠席も少なく成績も悪くない。
友達とお喋りするのも彼女にとっては大事な時間だ。
特に、彼女のクラスには個性的な子がたくさんいるのでなおさら。
「あ、おはようアリスちゃん! 朱華もおはよー!」
通学路で会うことが多いのは金髪碧眼の美少女、アリシア・ブライトネスだ。傍らには紅の髪の朱華・アンスリウム。
詳しくは知らないけれど、二人は同じ寮で暮らしている。海外の血の入った、引き取り手のいない子の集まるところらしく、二人とも日本語はぺらぺら、むしろ英語が日本人並みにしかできない。
そのため普通に「おはようございます」「はよー」と返してくれた。
「なによ、眠そうじゃない美奈」
「朱華は人のこと言えないよね?」
「まあね」
ふっと笑う朱華。彼女がエロゲ──成人向けのえっちなゲームを趣味としているのは一部の親しい者だけの秘密である。
VRMMO内で露出プレイをしたり、人前でおっぱい揺らしながら歌ったり踊ったりしている美奈は人のことを言えない。むしろ「お互い悪よのう」という顔で笑いあった。
「お二人とも、ほどほどにしてくださいね? 夜ふかしは身体に悪いんですから」
「はいはい。まったくあんたは口うるさいんだから」
「わたしは嬉しいけどなあ。アリスちゃんは本当に良い子だよねえ」
小柄なのもあって抱きしめたい衝動にかられるけれど、あまり構うと嫌がられるので我慢。
アリスは「私なんてそんな」と謙遜して。
「そういったことを言われるならシルヴィアさんのほうが」
「シルヴィアちゃんもすごいよね。毎朝、近くの教会に通ってから来るんだもん」
幼少期から奨学金を得て特殊な学校に通っていたというシルヴィア・トーは趣味で教会の手伝いをしつつ、将来経営のプロになるために過酷な勉強を続けている。
それでいて性格は友達思いの良い子。
「アリスちゃんと並ぶと本当に絵になるんだよね」
「わかる。ちょっと双子みたいなところあるわよね、この子たち」
「もう、褒めすぎです。むしろ私はシルヴィアさんの信仰の姿勢にいつも感心させられていて……」
ちょっと難しい話が始まりそうになったところで校門が近づき、道に黒塗りの高級車が停まっているのが見えた。
誘拐犯──なわけがなく。
「どっちかしら」
「どっちかなあ」
「どっちというかどなたでしょう……?」
降りてきたのは炎を思わせる紅の髪の美少女だった。気の強そうな瞳がぞくぞくする。あとおっぱいが大きい。
お金持ち、なんていうレベルではない、由緒正しいお家のお嬢様であるリディアーヌ・シルヴェストルが美奈たちを振り返って微笑んだ。
「ごきげんよう、皆様」
「ごきげんよう、リディアーヌ様」
「はよー、リディアーヌ」
「リディアーヌは今日も綺麗だねっ!」
「ありがとうございます。本日も皆様にとって良き日になりますよう」
お嬢様っぽい挨拶。と言ってもこの学校ではそんなに珍しいことではない。
リディアーヌと並んで校門をくぐると、車を降りてしばらく経つだろうにまだ昇降口まで到達していない小さな白いシルエットが見えた。
「あ、やっほー、百合ちゃん!」
声を上げて手を振れば、日傘に手袋、帽子にタイツと完全防備の少女がゆっくりと振り返った。白い髪に赤い瞳。体質的に日光に触れられない篠崎百合は、まるで現代の吸血鬼のようであり健気可愛い。
「おはようございます、みなさん。本日もよろしくお願いいたします」
百合も日本の旧家の出身。
さらに、アリスの親友である鈴香もかなりのお嬢様だし、
「おはようみんな。こんなに集まってどうしたの?」
「あ、おはよう美桜。今日は学校来られたんだ」
「あはは。うん。そんなに休んでもいられないからね」
北欧の血の入った美少女芸能人、香坂美桜の傍らにはこれまたかなりの旧家生まれの西園寺玲奈。
さらに、リクロス部なる部活に所属する桜庭真綾も学校を一つ持っている家の血筋である。リクロス部、美奈も入れば良かったとちょっと後悔している。
なんだかんだ大所帯になってしまった美奈たちは、百合のペースに合わせつつ教室に入って、
「ほらレン、制服のここほつれてる。縫ってあげるから貸しなさい」
「いいよ後で。帰ってからいくらでも時間あるし」
「家に帰るとそれどころじゃなくなること多いから言ってるんでしょ!?」
「またいちゃいちゃしてる……」
「してるわね」
「してるね」
美少女だらけのクラスにあってなお驚異的な美貌とおっぱいの大きさを持つ藤崎レンが相方といつもどおり仲良くしていた。
本当にもうこのクラスは──。
「なんなのここ、天国だよ……!?」
すっごくいい匂いがするしもう幸せしかない。
◇ ◇ ◇
クラスの中で美奈が特に仲良くしているのは、アリスの親友の一人である安芸縫子だ。
「今考えている衣装なんですが、ここの部分に拘りたくて……」
「わ、可愛い! でもちょっと動く時怖そうだね?」
「そうなんです。そこをどうしたものかと悩んでいまして……」
服飾が趣味である彼女は、露出の関係でコスプレも好きな美奈と話が合う。美奈のゲーム仲間にも同じく服飾志望の子がいるので、彼女経由でも裁縫関連の知識はけっこう入ってきている。
「あと、わたし的にはスカートもうちょっと短いほうが……」
「あなたの趣味に合わせるとアリスには過激になりすぎますからね」
「でも、アリスちゃんが顔真っ赤にしながら短いスカートたくし上げるの可愛くない?」
「わかります」
「わからないでくださいっ!」
休み時間中に雑談をしていたら別の席にいたアリスに怒られてしまった。
二人してしゅん、と肩を落としてから気を取り直して、
「ここは専門家の意見も聞きたいところだよね」
「ええ。是非美桜の意見も聞きたいです」
「いや、わたし作るほうじゃなくて着るほうの専門だよ?」
「わたしだってそっちが専門だよ!」
◇ ◇ ◇
別方面で仲が良いのは朱華と百合、それからシルヴィアだ。
「あのゲームのステージ5が難しくて……」
「わかります。あれは意図的に試行錯誤してもらう設計になっていますね」
シルヴィアは忙しい時間を縫っていろんなゲームを遊んでいる根っからのゲーム好きでもある。百合はなんとゲーム制作会社の社長であり、ユーザーの生の声としてシルヴィアの話を歓迎している。
美奈と朱華はそれぞれ好きなゲームのジャンルが尖りすぎているけれど、ゲームはゲーム。傍で聞いていて面白いのは間違いない。
「百合ちゃんってゲームの腕前はどうなんだっけ?」
「私もプレイするほうはそれほど得意ではありません。……ただ職業上、制作側の情報が入ってきやすいので、まっさらな状態で遊ぶのは難しいのですよね」
「ああ。攻略法とか嫌でも聞こえちゃうんだ」
なかなかに難儀な悩みである。
「いつか百合ちゃんの会社でもVRMMOを作って欲しいなあ」
「待ちなさい。先にエロゲを作ってもらわないと」
「あの、どちらもなかなか特殊な技術が必要そうなのですが」
作らないとは言わないあたりが百合である。
「美少女系のゲームを作るとなると……美桜さんに声をあててもらわなければいけませんね」
「わたしが成人向けに出られるのは少なくとも何年か先なんだけど……。先に事務所との契約も更新しないとだし」
「美桜ちゃん美桜ちゃん。えっちな作品と普通の作品で声優さんが名前を変えるのはどうしてなのかな?」
「単純に身バレ防止の場合もあるけど、えっちな作品に出てるってだけで毛嫌いする人もいるからね。そういうのもあるんじゃないかな」
「美桜は便利よね。エロゲの声優やって、全年齢版に移植されても同じキャラの声優やって、AV化されてもそのキャラできるし」
「わたし、さすがにえっちな動画に出る気はないよ!?」
芸風が広いせいか美桜がいじられる率がクラスでは特に高い気がする。
◇ ◇ ◇
「ほんとみんなえっちな身体──じゃない、美人だよねえ」
「美奈が言うことでもないと思うけど?」
リディアーヌは慣れないときつい物言いが多いけれど、見た目と声に威厳が溢れているせいであって当人は意外と付き合いやすい。
美人は得だけどときどき損だ。あのおっきなおっぱい触りたい。
「わたしもおっきなほうだと思ってたけど、このクラスにいると自信なくすよ」
「小さい方も充実してるじゃない」
「いま誰のほうを見て言いました?」
アリスが珍しくジト目を作る。
彼女もこれから大きくなりそうな気はするのだけれど。
リディアーヌは嘆息して腕を組み、
「それは大きい方がアピールにはなるけど、普段は邪魔よ? 特に運動する時なんか重りでしかないじゃない」
「リディアーヌはリアルで動きすぎなんだよ」
「リアルで動けたほうがヴァーチャルでも動けるわよ?」
それにしても剣道に柔道に馬術まで齧っているのはすごい。他のスポーツやらせてもぜんぶ上手いし。……いや、馬術に関しては「馬との相性があるのよね……」と前に目を細めていたか。
「男にモテるという意味ではやっぱりレンかしら」
「まあ、レンさんは反則といいますか……」
「言っとくけど私、男には興味ないからね?」
アリスが「つよい。かてない」という表情をすると本人が釘を刺してくる。きっぱりと「女の子しか恋愛対象にしません」と言い切る姿に何人のクラスメートが羨望の眼差しを向けていることか。
「わたしは男の子もいいと思うけどなあ……」
「男なんていらないってば。エロい目で見てくるし独占欲強いし」
「えっちな目で見てくるのがいいんだよ!」
「美奈、あんたは特殊だから」
「えー?」
男の子もいいよね、と言っただけで特殊扱いとはどういうことか。このクラスの女の子好き率もかなり異常である。
男性の婚約者のいる百合が「心中お察しします」とばかりに目配せをくれた。でも彼女も特に情のない政略結婚である。
親の言いつけで好きでもない年上男性にいいようにされる……あ、いいかも。ちょっと代わって欲しい。
「大学生になったらえっちな動画に出るのもいいかなあ……」
「美奈? あなたのバランス感覚は信用しているけれど、世の中には想像以上に短絡的な輩もいるのよ?」
「そうですよ! リディアーヌさんみたいに自分で抵抗できるならともかく、えっちな動画なんて危険すぎます!」
「でも拘束とか薬で抵抗できなくされのとか絶対えっちじゃない?」
力説していたら朱華に肩をぽんと叩かれて、
「あんたって本当、存在自体が性的よね?」
「レンちゃんを差し置いてそんなの名乗れないよ!」
「美奈は私をなんだと思ってるの……?」
存在自体がえっち。正直サキュバスかなにかだと思っている。
「……もう、あなたたちはまとめてリクロス部に入ったらどうかしら」
「うーん。まあ、わたしも心惹かれるものはあるけど。ゲームする時間が減っちゃうしなあ」
「同じく。他の子に目移りしてると怒られるからさ」
「まあ、レンさんや美奈さんが競技に出るのはいろんな意味で危険すぎますからね……」
「女同士の美しい競い合いではなくなりそうね。男性のファンが急増するのは間違いないわ」
やっぱりリクロスやるべきだろうか。
「リクロスですか。きっと向いているのはむしろ、アリスさんのような方なのでしょうね」
「百合ちゃんも相当向いてると思うけど」
「アリスとシルヴィアあたりが組んだら勝つのは相当難しそうね」
いくらでも見ていられそうである。むしろ下手にえっちな動画よりもえっちだと思う。いくら払ったら見られるだろうか。
「アリスちゃん、わたしけっこうお金持ちなんだけど」
「なんの話ですか!?」
「リクロスかあ……。プロモーションの話とか事務所に回ってくる可能性もゼロじゃないんだよねえ……」
「その時はわたくしを相手にしていただけるようにお願いしないといけませんわね」
「ずるいよ玲奈ちゃん! 私だって美桜ちゃんの相手したい!」
うん。なんというかこのクラスは今日も一日平和だった。
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