俺達の個性は『伝染』する(8/8)
「ねえ、提案なんだけど。あなたたちも夜型生活しない?」
「しない」
夜、吸血鬼娘スカーレットはみさきの手作り海鮮チャーハンを頬張りつつ勝手なことを言いやがった。
俺がきっぱり答えると「なんでよ」と頬を膨らませる。
「なんでって、人間は昼型の生き物なんだよ」
「じゃああんたたちも吸血鬼になりなさいよ」
「気軽に人外の道に誘うんじゃねえ」
みさきにも言ったが、そもそも自分じゃなくなる恐怖がでかい。
すると金髪紅目の吸血鬼は「しょうがないわね」とため息をついて、
「じゃああたしもできるだけ起きるわ」
「別に無理しなくてもいいんじゃないか?」
「馬鹿ね、人の手料理が食べられるのよ? 起きた方が得だわ」
「それはわからんでもないな」
みさきも日和さんも絆も料理が上手い。できれば欠かさず食べたいところだ。
冷凍食品がどうとか言ってた奴が偉そうではあるが。
「なかなか話がわかるじゃない。……そうだ、あなたたちはゲームするのかしら?」
むしろお前がやるのか。
「俺はそれなりにやる方だな」
「僕はちょっとだけかな」
「スマートフォンのパズルゲームとかなら」
「絆は格ゲーが得意」
「へえ、なかなかね。じゃあ暇があったら対戦しましょ」
なかなかに面白そうなお誘いだが、こいつに付き合っていると夜ふかしが増えそうだ。
誘った張本人はノーダメージなのがまた困る。
ゲームはほどほどにしておくべきだろう。
「さて、これで後は先生と管理人さんだけらしいが、いったいいつ来るんだろうな」
「明日って言ってたわよ。二人まとめて移動して来るって」
「お前はいろいろ聞いてるんだな」
「あたしは国民じゃなくて善意の協力者だもの」
不法入居者を叩き出さないんだから日本政府は平和的だ。それとも怖くてできなかったのか。
「じゃあもうすぐ勉強も始まるんだね!」
「ぜんぜん勉強しないのも不安だものね」
「でも先生一人で教えられるもんなのか?」
「あくまで最低限の授業なんじゃないの?」
こんなところに何人も呼べないもんな。
「全員揃ったらここでのルールも決めないとね」
「お掃除とか料理当番とか重要だものね」
「そんなの管理人とやらに任せておけばいいんじゃない?」
「一人で全部できるとは限らないだろ」
できることは分担したほうがいい。
とりあえずここ数日は使ったところを使った奴が片付けている。
ゴミはまとめてゴミ置き場に置いておくと業者が定期的に回収してくれる。
「当番制か。ちょっと楽しそうだな」
「あたしに番が回ってこないなら楽しそうだけど」
「お前が出す空き缶もかなりかさばりにくいそうなんだが」
「ふっ。生憎、空き缶くらいあたしにかかればぺしゃんこよ? スチールだろうと関係ないわ」
スチールまで潰されると業者が逆に困らないか?
◇ ◇ ◇
「なんだかんだ少しずつ慣れてきたな」
各自の個室は防音が利いていてかなり静かだ。
ベッドの寝心地もいいし、空調なんかの設備までを考えると実家より快適。
住めば都とはこのことか。
「ここならスカーレットが夜ふかししても大丈夫だろ」
吸血鬼という究極の夜型人間は絆の部屋の隣に陣取った。
「さっそくゲームでもするわ」とか言っていたのでここからが本領発揮だろう。吸血鬼も睡眠はいるはずだが、まあ昼間寝ればいいのか。
俺は吸血鬼娘を見習わず早く寝ることにする。
みさきや日和さんの料理のおかげで健康的な食生活が送れている。睡眠もとって英気を養っておきたい。
静かな環境が手伝ってかあっさりと眠りに入って──。
「……おはよう。ほんと人間って朝早いわね」
「お前が遅いんだよ」
「仕方ないじゃない。みさきに髪を整えてもらってたのよ」
「あはは。ごめんね、みんな待たせちゃって」
スカーレットの遅刻のせいで朝食は三十分ほど遅れた。
だからと言ってみさきが謝る必要はないが。
「お前、髪くらい自分でやれよ」
「嫌よ。吸血鬼は鏡に映らないんだから」
そういやそんな伝承もあったか。
「ああ、それはけっこう不便かも」
「でしょう? ま、あたしの美貌に鏡が負けてるってことよね」
なんとも自信家な発言。
「弱点多いよな吸血鬼。白木の杭で心臓貫かれたら死ぬとか」
「よく言われるけどそれ人間も死ぬわよね。逆に吸血鬼は白木とか銀製じゃなきゃ再生するし」
「やべえな吸血鬼」
「もちろん個体差はあるけどね。素質のない雑魚とか日光浴びただけで死ぬわ」
「ああ、そっか。吸血鬼はお外でコスプレもしづらいんだね、可哀想」
なんかゴスロリとか着てるイメージは強いし、確かに吸血鬼もコスプレ好きそうではある。
「あたしも着飾るのは嫌いじゃないわ。気が合うことだしあなたにあたしの世話をさせてあげる」
「うん、ボクで良ければ」
横暴は要求にこにこと応じるみさき。
「金髪を触らせてもらえるなんてすごくお得だよね」
「なるほど、win-winなのか」
いろいろやばい奴ではあるが、やってきた吸血鬼がこいつで良かったとしみじみ思う俺だった。
さて。
午前十時半頃、学び舎に近づく車の音があった。……なんだかんだ来客多いな、ここ。
「さあ、先生達を迎えに行くか」
「そうだね。ちゃんと挨拶しなきゃ」
「どんな人たちなのか気になるなあ……」
「絆的には男じゃなければあんまり変わらないけど」
連れ立って玄関に向かう俺たち四人。
一人足りないって? スカーレットは朝食の後さっさと寝てしまったので部屋だ。昼間でも怪力らしいあいつを叩き起こすのも怖いので放置である。
おかげで出迎えるメンツは昨日と同じ。
ここまでの奴らと違って今度は大人が来るわけだが、果たして。
少し緊張しながら、開くドアを見て。
「あっ、えっと……こんにちはっ」
「出迎えありがとうございます。まずは皆さんお元気そうでなによりです」
現れたのはスーツ姿の女性が二人だった。
どっちも二十代前半だろう。
一人は親しみやすそうな雰囲気で、セミロングの髪を緩くウェーブさせている。
もう一人はきりっとした眼鏡の女性で、髪をアップに纒めている。
「初めまして。私がみんなの授業を担当する
「管理人を任されました間宮みやと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
前者がぺこりと頭を下げ、後者が丁寧にお辞儀をする。
「あ、じゃあ一ノ瀬さんが先生なんですね」
「ボク逆かと思っちゃった……」
「あはは。先生っぽくないよね? よく言われるの」
「そんなことないんじゃないか? 小学校の先生とか似合いだと思う」
「湯島、あんたそれフォローになってない」
「小学校……みんなは高校生なのに」
遠い目をして涙ぐむ一ノ瀬先生。
俺たちは顔を見合わせて、
「すみません、言葉を間違えました!」
「大丈夫です。むしろ優しそうな先生で安心したっていうか。ね、みさきちゃん?」
「そうそう、厳しい人だったらどうしようかと」
一方、先生っぽいと評価された間宮さんはクールな表情のまま、
「先に一ノ瀬先生と自己紹介をしていただくとして、私は管理人の確認メールと着替えをして参ります」
おお、マイペース。
荷物を持ってさっさと奥へ向かっていく彼女。呆然と見送る俺達に一ノ瀬先生は、
「悪い人じゃないんだよっ? ちょっととっつきにくいところがあるし、来る間あんまり話も弾まなかったけど……」
先生、それあんまりフォローになってないです。
ともあれ俺達はリビング──ではなく一階の勉強スペースへ。
日和さんが淹れてくれたお茶を俺が運んでいくと既にみさきと先生が打ち解け始めていた。
「じゃあ先生は全教科教えられるんですか?」
「うん。学部の関係で資格までは網羅できないし、本職には劣るけどひと通りは教えてあげられるよ」
「なん、だと」
ちょっと頼りない先生かと思ったら、ひょっとして、かなりすごい人が来てくれたのか?
にこにこと談笑する一ノ瀬先生に底知れないものを感じつつ、俺はお茶をみんなに配っていった。
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話数を数え間違えていたことが発覚しました
なんかいくらでも続けられそうだなー、と思って書いてたら淡々としすぎていて作者が飽き(ry
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