俺達の個性は『伝染』する(1/8)
ノリノリで何話か書いたけど詰まったやつを供養しておきます
-------------
「個性が伝染する病気……ですか?」
「はい。特定特殊因子伝染病──最近になって発見された新しい病です」
見知らぬ街を走る黒塗りの高級車。
俺──
窓は外から全く覗けない仕様。こんこんと叩いて確かめた俺に、政府関係者だという黒スーツは「防弾ですよ」と言った。
現在、車を運転しているそいつは勝手に話を続けて、
「世の中には『個性の強い人間』が存在します。この病はその極めつけ。ただそこにいるだけで傍にいる人間に自らの個性を伝染させてしまうのです」
「家族とか友達は性格が似てくる、ってやつじゃないんですか?」
「常識では説明できない例が確認されたため病に認定されたんですよ。これは単なる例えですが『壊滅的な音痴』とか普通は後天的に似ないでしょう?」
某国民的アニメの登場人物が全員破壊的な音痴になるのを想像して「うわぁ」ってなった。
「もちろん、一日二日で伝染するわけではありません。症状も段階的ですし、接触の頻度・時間が減るほど進行は遅くなります」
「なら家族以外はそんなに問題ないんじゃ?」
「因子が定着するほど症状が重くなり、一定を超えると不可逆になるのです。そして伝染された側も新たな
「隔離しろよそんな危険な奴」
「というわけで隔離が決定しました。これまでは仮の施設にてそれぞれ保護していた保有者たちをこの度専用施設に移すこととなり、今後は保有者同士で共同生活を送ってもらう予定です」
当然、外には出られない。
「似たような奴が他にいるのが救いですね」
「不自由を強いる代わりに物資や設備の面では可能な限り配慮いたします。食材、菓子、衣服、ゲーム……希望に応じて提供が可能です」
「そう聞くとけっこういい環境のような気も」
好きなものを好きなだけ食べながらゲームやマンガ三昧。
誰でも一度は夢見たことがあるだろう。
病気って言っても本人は身体の不調とかじゃないんだし、若干そいつらが羨ましい。
「ところで、どうして俺がそんな施設に?」
「湯島様には彼女たちの世話係というか相手役を務めていただきます」
「ああなるほど。その方が寂しくないと……って待った。それって俺はどうなるんですか?」
「当然、保有者たちと同様に外出禁止の措置を取らせていただきます」
「めっちゃ伝染されるってことじゃねえか」
やってられるかそんな仕事──と言いたいところだが、実はもう契約書にサインしてしまっている。
住み込みかつ休みなし、無期限の仕事。
その代わり給料は目が飛び出そうなくらいに良い。
機密保持のためと詳しい説明はなかったが、確かに嘘は言っていない。
「ですが、ある意味役得ですよ。因子保有者は美人揃いです」
「でも全員、伝染するくらい癖が強いんですよね」
「可愛い女の子をよりどりみどりなんて天国じゃないですか。アーウラヤマシイナー」
「あんたも結構癖が強いな!?」
まあ、逃げ出そうにもいろいろ準備した後だ。
十五歳。高校に願書を出さず中学を卒業してしまったし。
俺はため息をついて外の空を見上げた。
「せめてその子たちと仲良くなれるといいんだけどな」
◇ ◇ ◇
車はやがて郊外へ、そして山の中へと入っていく。
覚えようと思えば住所を覚えられそうだが、出られないのならあまり意味がない。知らない土地の住所なんてすぐ忘れそうだし。
どんどん深くなっていく自然を見て「これは逃げるとしても一苦労だな」と思った。
「着きましたよ」
「おお」
車を降りた先に円筒形の建物が鎮座していた。
白い外壁。あちこちに窓がついていて隔離施設感はそこまでない。
なにかの研究施設と言われたほうがしっくりくるここが、
「ここが湯島様の生活することになる『学び舎』です」
「学び舎?」
「便宜上、教育施設ということになっております。……それから、これを」
腕に時計のような器具を巻かれた。
「スマートウォッチ?」
「特別製です。健康管理はもちろん、遠隔で所在地の確認なども可能になっております」
「逃げてもバレるってことですね」
「お風呂の時などは外せますけどね」
なにがなんでも逃がさないとまでは言わないわけだ。
そのくらいのほうが反感も買わないだろう。
「ちなみに逃亡して伝染を拡大させた場合は最悪、極刑です」
「飴と鞭を使い分けすぎじゃね?」
黒スーツは咳払いひとつで俺の追及をかわすと運転席のドアを開いて、
「保有者は日を置いて順次移送されてくる予定です。現在到着している保有者は一名のみですので、まずは彼と交流を深めるのが良いかと。何かありましたら登録した番号へおかけください」
「わかりました」
一生、監禁されるわりにはあっさりした別れだ。
でもまあ、こんなものなのかもしれない。俺のほうも孤独になるというよりは「変わった同居人と面白おかしく暮らせれば」くらいのノリだし。
去っていく車を見送った後、建物の入り口へと向かった。
ノブに手をかける。開かない。
鍵穴の代わりにあるセンサーへ時計をかざすとロックが開いた。なるほど、中からもこうしないと開けられないとすれば、位置を誤魔化しては逃げられない。
「……さて、どんなやばい奴がいるのか」
深呼吸をひとつ。
ドアの向こうへと足を踏み出した俺を、さっそく一つの人影が出迎えて。
「初めまして」
にっこりと微笑んだその女の子は、黒髪ロングの清楚系だった。
◇ ◇ ◇
入り口のドアを閉じると即座にロックがかかる。
半透明の小部屋。下駄箱らしきスペースの向こうには短い通路が続いている。
さて。
通路の前に立つこの美少女だが。
「初めまして。俺は湯島誠也。えっと……」
「
春物のニットにフレアスカート。
髪の毛はさらさらで物腰は柔らか。華奢で少し儚げな感じも清楚な印象を強めている。
じっと見ていると「?」と首を傾げて、
「どうしたの、湯島くん?」
「あ、ああ。悪い。ここに来るのは変な奴ばっかりだって聞いてたから」
「そんなこと言われたの? ひどいなあ」
むっと頬を膨らませる仕草さえ可愛らしい。
「でも安心したよ。普通に話ができそうで」
「うん、ボクもほっとした。男の子が来るって聞いてたからどんな人かなって」
……ボク?
正統派美少女っぽい見た目なのに。でもまあ、どことなく小動物というか人懐っこい雰囲気には似合っている。これはこれでアリ、というかそのくらいのほうが話しやすい。
中学でも女子と長く話をする機会とかほとんどなかった。
俺は「案内するよ」と言うみさきに応じて靴を脱ぎ、通路へと入った。
「ここはトイレで、こっちは倉庫。外から来た荷物はいったんここに運び込まれるんだって」
「ああ、そうか。じゃあ業者とかも玄関までは入れるのか」
「湯島くんも一通りは聞いてるんだね? そう、だから奥にはまた『これ』が必要なんだ」
先のドアでまた認証。
広い空間はホテルや空港の休憩スペースというかなんというか。
ふかふかの椅子+テーブルのセットが間をあけて複数。それとホワイトボードやスライド機器などがあって。
「ここが教室」
「学び舎とか言ってたけど、本当に勉強もするのか?」
「それはそうだよ。将来のために必要でしょ?」
閉じ込められた状態で将来とかあるのか?
まあ、将来的に治療法が見つかるかもしれない。あと何かしら集まる機会でもないとみんな引きこもってコミュニケーションとか取れないか。
みさきの綺麗な横顔を見て「悪くない」と頷き、
「一階はほかに後から来る先生や管理人さんの部屋なんかがあるよ。ボクたちの部屋は二階」
教室脇が階段に繋がっていて、下に行くとシアタールームや運動スペースがあるらしい。
今はひとまず上って、今度はゆったりとしたリビング風の部屋。
「個室が六つあって、あとはお風呂とかキッチンとか。綺麗だし最新式だから嬉しいよね」
「なるほど。食事はここでみんなで食べるのか」
「お部屋で食べてもいいけど、みんなで食べたほうが美味しいと思うよ?」
俺より少し背の低い女の子から上目遣いで見られると──照れくささと嬉しさでよくわからなくなる。とりあえず「ああ」と曖昧に答えた。
俺の部屋はみさきの隣らしい。
彼女は「えへへ」と笑って、
「男の子同士、よろしくね。ボクも一人だと心細いから」
「ああ、俺も男子がいてくれて良かっ……男子?」
きめ細かい肌。小さめの手足。柔らかな口調。
言われてみれば華奢すぎるというか胸は平らだし、声自体は低めな気もするが。
頑張って特徴を探さない限り美少女にしか見えないというのに。
これが、この子が、本当に?
そう言えば黒スーツも「彼」って言ってたが。
「? うん、ボクは男子だよ?」
美少女ばっかりで羨ましいとか言ってたじゃないかあの野郎。
俺は、俺をここに連れてきた詐欺師──もとい政府関係者を恨みつつ、一人目の保有者・優姫実早の『因子』が『女装』であることを理解したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます