押しかけ女房の黒髪巨乳美少女からオナ禁を要求された件

「初めまして、玄乃くろの真鈴ますずさん」


 胸の大きな女の子だった。

 Fカップ、いやGカップか。清楚な白ワンピースを着ていてもわかる圧倒的なサイズ。黒く艶やかなストレートロングに、慈愛を感じさせる控えめな微笑み。背丈は真鈴より一回り小さく、だいたい百五十五センチ前後といったところだろうか。

 鍔広の白い帽子を被り、傍らには旅行用のカート。

 『理想の彼女像』を体現したようなその女の子は呆然とする真鈴へ向けて丁寧に頭を下げて、


「突然で申し訳ありませんが、わたしをあなたの妻にしてください」

「……はい?」


 まさかの「嫁に貰ってください宣言」をしてきた。








 玄乃真鈴はとある公立高校の一年生。

 訳あって一軒家に一人暮らし中。おかげで女の子を家に呼び放題だが、今のところ役に立ったためしがない。

 イケメンを名乗れるほどの顔も注目されるほどの学力・身体能力も持ち合わせてはおらず、部活にも入っていない。

 同じく平凡な女の子となら頑張ったら付き合えるかもだが、どうせ付き合うなら美少女が良い。

 物語のような「ある日突然可愛い女の子が家にやってくる」シチュエーションに憧れながら羨む日々を送っていたのだが。


「先程『妻』と申し上げたのは少し正確ではありませんでした。わたしも真鈴さんもまだ結婚できる年齢ではありませんので、まずはわたしと婚約していただければ、と」


 真鈴は今、突然やってきた美少女とリビングのテーブルを挟んで向かい合っていた。


 最低限掃除する習慣があって良かった。


 心の底から思いながらグラスに麦茶(ペットボトルで常備している)を注ぎ、少女と自分の前にそれぞれ置いた。

 背筋を伸ばして美しく座った彼女はグラスに口をつけ、唇を軽く湿らせるとさっそく切り出してきた。


「わたしも真鈴さんと同じ高校一年生ですので、高校卒業と同時に籍を入れましょう。それまでは花嫁修業も兼ねてこちらでお世話をと思っているのですが、いかがでしょうか?」


 言葉を切ると上目遣いに窺ってくる彼女。

 吸い込まれそうに綺麗な瞳と、迫力満点の胸。しばらく無言で見入ってから、はっ、と我に返った。


「お世話ってつまりここに住むってこと?」

「ご迷惑でなければ今日から住まわせてください。こうして荷物も持って参りました」


 傍らに置かれたカートは小さい。着替えをいくつか入れたら他は大して入らないだろう。

 可愛い女の子がほとんど身一つで同居希望。しかも結婚前提。同じ家で暮らすとなればいろいろとチャンスもあるはず。

 よろしくお願いします、と今すぐ言いたいのを必死に堪えて、


「先に聞かせて欲しい。まず君の名前は? 家族は心配してないのか? それから、どうして俺と結婚しようと?」

「あ、そうですよね。ご説明がまだでした」


 こほん、と、小さく咳をして居住まいを正した彼女はあらためて微笑を浮かべて、


「わたしは摩耶まや|さくらと申します。真鈴さんとは一応、親戚にあたります」

「あ、だから住所がわかったのか」

「はい。お会いしたのは初めてですが、最低限の連絡先は存じておりました」

「うちは親戚づきあいとかほとんどしてなかったからな……。じゃあ、もしかして結婚の話は親に言われて?」

「両親も賛成、同意の上です。親戚中の女の子の中からわたしが選ばれ、真鈴さんの結婚相手にとこうしてやって参りました」

「話が大きくなってきたな。ますます俺を結婚させたい理由がわからない」


 真鈴は平凡な男子高校生だ。

 家庭環境は特殊だが本人のスペックとは関係ない。

 さくらのような美少女には勿体ないし、ましてや何人もの女の子から一番いい子を宛がうなんておかしい気がするのだが、

 これにさくらは小さく頷いて、


「それは、真鈴さんに魔法使いになっていただくためです」

「は?」


 意味がわからなかった。










 魔法使い。

 真鈴だってそれくらいは知っている。

 シンデレラにかぼちゃの馬車を出した奴とか、ゲームで火の玉撃つ奴とか、歴史上において怪しげなことして処刑された奴らとかそういうのだ。

 どんなことができるかはまちまちだが、要は「科学的ではない力」を使う奴ら。


「真鈴さんには類稀な魔法の才能があります。世界を変えるほどの力です」

「初耳なんだが。……というか魔法なんて実在するのか」

「存在しますよ、ほら」


 さくらは真顔のままで言うと右手の指をぴんと立てた。

 指がグラスの淵に触れると、次の瞬間、麦茶が大きく波打ちはじめる。そしてさらに次の瞬間、麦茶はグラスを離れて浮かび上がった。

 つい、っと。

 離した指が下に振られれば、急に重力を思い出したようにぽちゃんと落ちる。

 勢い余って飛び散る麦茶にさくらは慌てて「拭くものを貸していただけますか?」と要求してきた。

 真鈴はふきんを少女に手渡しながら、


「今の、手品じゃないよな?」

「違います。わたしにはこれが精一杯ですが、真鈴さんならもっとすごいことができますよ」

「今までこんな不思議パワー出たことないんだが」

「試したことがあるのですか?」

「小学校の頃にマンガの必殺技でな」

「ああ、なるほど。その頃でしたら当然かもしれませんね」


 頷くさくら。

 魔法の力は成長によって増すものなのか?


「当時は真鈴さんの性欲も薄かったのでしょう」

「待った。今なんて?」

「真鈴さんに性欲が足りなかったのでしょう」


 なんだそれは。


「ご安心ください。今の真鈴さんなら問題ないと思います」

「心なしか罵倒された気がするんだが。というか、どこをどう見てそう判断した」

「年頃の男性は誰でも強い性欲を持つものでしょう?」


 さくらが両腕を前で組んで胸を持ち上げる。

 ただでさえ目立つ膨らみがさらに大きくなって真鈴の視線を釘付けにした。


「ほら。わたしの胸とか、大好きですよね?」


 決まっている。

 大きな胸が嫌いな男子は少数派だ、真鈴はそんな特殊性癖ではない……って、そうではなく。


「性欲がどう関係あるんだよ」

「魔力とはイコール性欲だからです」

「……そうか、俺をからかってるのか」


 期待して損した。

 ため息をついて自分の分の麦茶を飲み干す。


「誰に頼まれたのか知らないが、そういうのは良くないと思うぞ。さあ、十分騙されたから帰ってくれ。なんなら適当に話を盛ってくれていい」

「違います!」


 言うだけ言って席を立とうとすると、さくらが大きな声を出した。

 彼女は音を立てて席を立つと、テーブルをぐるりと回りこんで、


「嘘だと思うなら試してみてください! それではっきりするはずです!」

「お、おう」


 顔が近い。

 上目遣いの破壊力。


「そこまで言うならやってみるけど、どうすればいいんだ? さっきも言ったが魔法なんて使ったことないぞ? 適当に必殺技を試せばいいのか?」

「家が壊れても大変ですので、平和的な魔法の方が良いかと」

「平和的な魔法ね……」


 急に言われても思いつかないのだが。

 さくらと同じことしても証明にならない気がするし、と少し悩んでいると、さくらも何やら考えるようにして、


「上手く行ったらわたしの胸、触らせてあげてもいいですよ……?」

「なんだと」


 ご褒美が足りないと思われたのか。

 別にそういうつもりはなかったが、女子から「触ってもいいよ?」なんて初めて言われた。

 まして、ボリューム満点の胸である。

 間近から見下ろすだけでエロいというのに触ったらどうなってしまうのか。

 妄想が頭を満たし、鼓動が早くなる。


 ──あのワンピース、胸の部分が真ん中から裂けたりしないかな。


 ついつい、とてもくだらないことを考えて。


「えっ」

「あ?」


 裂けた。

 胸の圧力に耐えきれなくなったように、あるいは見えない力に切り裂かれたように。

 ワンピースが大きく開いて、さくらが目を見開く。一瞬遅れて状況を理解した彼女は「きゃあ!」と可愛い悲鳴を上げながら胸を押さえた。

 がらがらとカートが転がる音。

 そのまま家に帰るのかと思いきや、少女は「洗面所をお借りします!」と言ってリビングを出て行った。


 真鈴は一人、呆然と取り残され、


「……使えたな、魔法」


 ちなみにブラは白のレース付きだった。









「取り乱して申し訳ありませんでした」

「いや、こちらこそごめん」


 別の服に着替えたさくらと再び向かいあう。

 気まずい。

 とてもじゃないが「で、胸の件は?」とは言えない。まあ、ちらっとブラが見えただけでも十分美味しかったが。


「ですが、これでわかっていただけましたよね? 真鈴さんには魔法の力があるんです」

「うん、つまり、エロい事を考えると魔法が使えるのか?」

「そうですね。真鈴さんが性欲を溜め込めば溜め込むほど魔法の力が高まります」


 馬鹿みたいな話だが、実際そうらしいので仕方ない。


「じゃあ、もしかしてこの能力を活かすために魔法学園に転校したり?」

「いいえ。日常的に魔法を使うことになるのでそれは悪手です。真鈴さんの魔力はもっと有効に活用しなければなりません」

「例えば?」

「世界平和。五穀豊穣。この国と人々が安心して暮らせるようにすることです」


 スケールがデカい。


「それ、俺にメリットあるか?」

「そのためにわたしが使わされたのではありませんか」

「というと?」

「わたしがいれば、真鈴さんの性欲はどんどん溜まるでしょう……?」

「っ」


 さくらの着替えた服──春物のニットは肌の露出が少なく清楚な印象だ。ただしさっきのワンピースと同様、胸が強調されていて逆にエロい。

 少し恥ずかしそうな表情も相まってまるで誘われているよう。


「そりゃあ、君みたいな可愛い子と一緒なら……」


 一体何を言わされているのか。

 真鈴が目を逸らしながら呟くように言えば、


「どうか『さくら』とお呼びください、真鈴さん」


 さくらはテーブルの上に身を乗り出すようにして真摯な瞳を向けてきた。

 いい匂いがする。

 こんな子と、結婚?

 お世話してくれるとも言っていたか。いったいどんな「お世話」なのか。目的からして当然、エロいことも含まれているはずだ。


「さくら」

「はい、真鈴さん。あ、『真鈴様』のほうがよろしいでしょうか?」

「それもいいな」


 メイド服に身を包んださくらが脳内に浮かぶ。


『真鈴様。さくらがどんなご奉仕でもいたします。どうかなんなりと──』


 破廉恥すぎて描写できない妄想に突入しそうになってから、


「まーくん♪ というのもいいかもしれませんね」

「まーくんは止めてくれ」

「難しいですね」


 むむむ、と悩むようにしながら呟くさくら。実は天然なのか?


「まあ、さん付けでいいよ。あんまり堅苦しくてもアレだし」

「かしこまりました。……あれ? では、わたしをここに置いていただけるのですか?」

「ああ。エロい事ができるなら大歓迎」


 というかもう断る理由がない。

 いっそはっきり言った方が良いかと素直に答えると案の定、さくらは嬉しそうに「真鈴さんは真っすぐな方なのですね」と頬を染めた。


「では、本日からさっそくお世話をさせていただきます。可能な限りの手段で真鈴さんの性欲を高めさせていただきますので、どんどん溜め込んでくださいませ」


 なんと「そそられる」誘い文句か。

 強いて言うなら溜めるだけではなく、


「できれば解放する方も頼む。ほら、その、わかるだろ? すっきりしないと辛いだけなんだ」


 きっとこの少女ならすんなりOKを、


「いけません」

「駄目なのかよ!?」

「決まっているではありませんか。溜まった性欲が魔力になるのです。一人でするにせよ二人でするにせよ、すっきりしてしまっては魔力の無駄です」

「じゃあどうすれば」

「我慢してください。そのためにわたしが遣わされたのです」

「なん、だと……!?」


 美少女と夢の同居生活。

 向こうからエロい誘惑をされるのに、エロい行為は我慢しなければならない。


 生殺しか?


 あまりの条件に真鈴が震えていると、さくらはくすりと悪戯っぽく笑った。

 ゆっくり席を立って椅子の後ろに回り込んでくる彼女。

 背もたれ越しに押し当てられる胸。高く澄んだ声が耳元で奏でられ、心と鼓膜をくすぐってくる。


「いっぱい誘惑して差し上げますから、いっぱい我慢してくださいね♡ 婚約者とは言っても高校生の身の上ですから、婚前交渉はご法度です。乱暴に押し倒したりなさるようなら警察を呼ばせていただきます♡」


 ぞくりとする。

 恐怖を感じると同時に性的興奮まで高められるとか、変な性癖に目覚めそうだ。


「……なるほど、わかった。さくら。君、いやお前、実はけっこういい性格してるだろ?」

「そうでしょうか?」


 慈愛に溢れる微笑みに戻った美少女は真鈴から身を離しながら言った。


「ですが、真鈴さんの困った顔はとっても可愛いと思いますよ♡」


 童貞が魔法使いになる。

 使い古された伝説はどうやらある意味で真実だったらしい。


 ついでにSっ気? のある魔女までついてきたのだが、これは果たして喜んでいいのだろうか?

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