VRMMOでえっちな装備を作ります(3/4)
「蘭さん。昨日は大丈夫でしたか?」
「心配してくれてありがとう。全然大丈夫だったよ」
次の日登校すると、楠さんがすぐに話しかけてきてくれた。
蓋を開けてみたらわたしと遊びたいだけだった、という話をすると、彼女はすごくほっとした様子で微笑んだ。
「それなら良かったです。少し口下手な方だったのですね」
「あはは、そうかも」
うん、華ちゃんはちょっと口下手だと思う。
昨日もゲームが終わった後は「……明日もやる?」とぶっきらぼうに聞いてきただけ。VRMMOってやってみると楽しかったので、わたしは「うんっ」と笑顔で頷いたんだけど、そうしたら「そう」って言いながらちょっとだけにやけてた。
「口下手だけど可愛い子なんだよ」
「そうなんですね。もしよかったら、そのうち紹介してくださいね?」
「うん。恥ずかしがり屋みたいだから、その子がいいって言ったらね」
「楽しみにしていますね」
楠さんと華ちゃんと一緒に遊べたらきっと楽しいと思う。
でも、楠さんはゲームとかしないかな? 同級生にも敬語を使うくらい礼儀正しい子だし、お家も結構厳しそうだ。一緒にあのゲームをやるっていうのは難しいかも。そしたらカラオケとか? それだと今度は華ちゃんが嫌がるかな?
「……来たんだ」
放課後。
クラスの子とちょっとお喋りしてから文芸部の部室に行くと、華ちゃんがちょっと意外そうな表情で言った。
「ひどい。行くって言ったのに」
「そう」
軽く頬を膨らませて言うと、目を逸らしてゲームの準備を始めてしまう。
やっぱり素っ気ない。物足りないわたしは傍に寄って行って顔を覗き込んだ。恥ずかしそうに目を逸らされた。可愛い。
「話ならゲームの中でする」
「あ、うん。そうだね。あんまり時間もないし」
昨日もなんだかんだ結構遊んでしまい、ログアウトしたのは最終下校時刻に近かった。華ちゃん(正確には黒音ちゃん)が「時間よ」って言ってくれたんだけど、そうじゃなかったら二人して先生に怒られていたかもしれない。
罰としてゲーム禁止……は、こういう学校だからないだろうけど。
「それじゃあわたしもログインするね」
「昨日の宿屋で待ってて」
「わかった」
華ちゃんはあの後もゲームをしてたみたい。
帰ってからか、それとも授業時間中か。どっちもっていうのもありえるかも。ゲームでの成果が成績に反映されるっていうのもなかなか大変だ。
わたしにできることって何があるのかな。
思いながら、わたしは『ファンファン』のクライアントと立ち上げてパトリシアになった。
「こうなったら、パトリシアをこき使って強くなってやるわ」
ログインして一、二分後。
やってきた黒音ちゃんはわたしの顔を見るなり強気でそう宣言した。昨日もそうだったけど、ゲームの中だと本当によくお喋りしてくれる。
「じゃあ、わたしの作った装備使ってくれるの? わたしもね、もっと色々作ってみたくてうずうずしてたんだ」
アイテムを作るのって楽しい。
現実にやろうとすると材料も道具も色々必要だけど、ゲームの中ならお金を使わずに集められる。
それに、憧れてたけど実際に買ったりはできなかったえっちな道具を集められるのもわたし的にはすごく嬉しい。どうせならいっぱい作ってみたい。それが役に立つならもっといい。
と、黒音ちゃんはわたしのわくわくをよそにジト目になって、
「馬鹿。あのままじゃ使えないわよ」
「え、でもさっき使うって」
「使うのはあんたのスキル。素材とデザインとエンチャントを吟味したらもっとマシなのも作れるでしょ。あんたはまず、その研究をしなさい」
「昨日作ったのだって強いって言ってくれたのに」
「強さと見た目は別よ。ネットで晒されたらどうするの」
既にネット掲示板で話題になっていたことをわたしたちが知るのはもう少し後のことだ。
「でも、あの性能は使える。あんたがレベルアップすればもっといいのが作れるはずだし。デザインさえまともになれば強みになるはずなのよ」
「じゃあ、わたし役に立てるんだ?」
「立たせてみせる。……どうせ他にパーティメンバーの宛てなんてないんだし」
ちょっと寂しい発言げ聞こえたけど聞かなかったことにする。
「とにかく、あんたは部屋でいろいろ作ってなさい。私は素材集めてくるから」
「はーい」
別行動になるのはちょっと寂しいけど、試行錯誤しながらものづくりするのも楽しそうだ。
わたしは黒音ちゃんから、あれ以降に集めた素材を渡してもらってから宿の部屋にこもった。向かいの空いた席について
何度か使ったおかげで基本の手順は頭に入っている。
後は、少しずつ細かい機能を覚えていこう。材料は黒音ちゃんがたくさんくれたから大丈夫。
ひとまずの目標は黒音ちゃんが言っていたように、冒険で使いやすいデザインの装備を作ること。
「って言っても、わたしが作れるのってえっちな道具だもんね」
この手の道具は見た目もえっちなのが普通だ。だってその方が興奮するから。
防具になるようなものって女の子がつけて男の人に見せるものになっちゃうだろうし、武器になりそうなものなんてたぶんほとんどない。昨日のドリルバイブは例外だと思う。普通、ぎゅいーんってドリルになるなんて思わないし。
でも、そう考えると意外にまだ、使えるアイテムがあったり……?
一度、考え方を変えてみてもいいかもしれない。
えっちな道具ってどんなものがあるのか。その中で武器や防具になりそうな形のものはないか。それを作るにはどんな材料がいるか。今までは材料から「これで作れるものは何か」って手当たり次第だったけど、こっちの方が効率良さそうだ。
そうと決まれば、わたしは脳内でえっちな道具をリストアップしながら、ピンと来たアイテムを実際に作れないか試すことにした。
性能とかデザインとかの変更もちょっとずつ試す。
デザインに関しては本格的にやると画像加工ソフトの使い方を覚えないといけないみたいだけど、配色をワンタッチで変えるくらいなら簡単にできる。そういうのも使って黒音ちゃんの要望に沿えないか考えてみる。
「あ、これ作れる。これも作れる。あ、こんなのもあるんだ」
やっているうちにどんどん楽しくなってきたわたしは、もらった材料でばんばんアイテム製作を繰り返した。
気づけば一時間以上。
「随分楽しそうじゃない。その分なら成果は期待していいのかしら?」
「あ、黒音ちゃん。お帰りなさい。うん、いっぱい作ったよ」
ボールギャグや首輪やピンヒールは装備していない、黒マントに黒ローブのクールビューティは「へえ」と少し楽しそうに声を上げてわたしの向かいに座った。
うん、やっぱり傍に誰かがいてくれると嬉しいかも。
わたしはにこにこしながら、製作物を実体化させていく。すると、最初は期待の視線を向けていた黒音ちゃんがだんだん微妙な顔に変わっていく。
「本当に大丈夫なんでしょうね、これ?」
「えー。わたしなりに頑張ったんだよ?」
作ったのは、たとえばこんなアイテムだ。
『薔薇棘の鞭』
攻撃時、一定確率で追加ダメージを与える。
また一定確率で攻撃した相手に
見た目はトゲトゲした鞭だ。
「うわ、エグ。そっか、鞭ならいけるわけね。……変なものばっかり見せられたせいか、これでもまだエロい道具にしか見えないけど」
「じゃあ、こういうのは?」
『黒革のボンデージ』
鎧などの下に重ね着できる防具。防御力が結構高い。
「変なプレイにしか見えない」
「マントの下に着れば隠れちゃうからいいかなって思ったんだけど」
「まあ、防御力上がるのは嬉しいけど。もっと魔法が強くなるようなのないの?」
「杖はえっちな道具じゃないもん。こういうのならあるけど」
『銀色の長い棒』
人間の身長より長い、細身の棒。
物理攻撃力と魔法攻撃力を持ち、身体の柔らかさを要求されるアクションにボーナス。
「なにこれ?」
「ポールダンスの棒」
「………」
黒音ちゃんが黙ったま、わたしに向けて「こいつやっぱり変態だわ」みたいな顔をした。ちょっと黒音ちゃんは要求が多すぎると思う。
あと作ったのはボディピアスとか。黒音ちゃんによると、魔法効果のあるピアスはわりとメジャーだけど、耳以外に着けるものは見たことがないらしい。
「同じ場所には幾つも装備をつけられないから、別の場所に装備できるアイテムは希少よ」
「じゃあ、このピアスは使えるね」
「使えるし人からも見られないけど、こんなのつけたら完全に変態よね」
「……もう、じゃあ、どんなのならいいの?」
却下されてばかりで不満だったので、わたしは逆に尋ねた。
すると黒音ちゃんは少し考えてから幾つかの品を手に取った。
黒い革製の手枷と足枷。チェーンで連結しなければただのアクセサリーに見える。チョーカーっぽく星型のチャームがついた首輪。それから杖と魔法陣の模様をあしらったタトゥーシール。
「ギリギリこの変ならいける気がする」
首輪はいいんだ。
でも、全身黒いからゴシック系の格好っぽくて似合うかも。
「じゃあ、これはわたしが使おうかな」
鞭とボンデージを手に取る。棒はちょっと長すぎて、鞭と一緒には使えない。残念。
「………。いや、まあ、あんたがいいならいいけど」
「ちゃんとマントか何か羽織るよ?」
「そういう問題? って、それはこの際いいわ。それより、残ったアイテムの処分ね」
確かに、試作品とはいえいっぱい残ってしまった。
材料は黒音ちゃんが集めたものだけど、売ればお金になったはず。何かに活用しないと勿体ない。
「どうするの?」
尋ねると、黒音ちゃんは大きく頷いて言った。
「売るのよ」
黒音ちゃんが取り出したのは短い巻物のようなもの。
『ワープスクロール』は、行ったことのある街にパーティ全員で移動できる時短アイテム。それを使って連れて行かれたのは、黒レンガの建物が立ち並ぶどこかの街だった。
通りをプレイヤーと、それからNPCも行きかっていて賑やか。さっきまでいた静かな村とはまるで別世界だ。
「ここは?」
「魔術都市イニージャ。そこそこ人がいるし、怪しい品物も売ってるから雰囲気ぴったりでしょ」
「う。怪しいとかひどい」
でも、あんまり堂々と売るものじゃないのも確か。
最近は女の子でも入りやすいショップも増えてるって聞くけど、えっちなお店っていうとやっぱり寂れた雑居ビルの二階とかでこっそり営業してるイメージがある。
と言ってももちろん、わたしはそんなところ行ったことない。行ってみたいけど、万が一補導なんかされたら大変だ。
それからわたしたちは街の広場へと移動した。そこには絨毯のようなものを敷いてアイテムを売っているプレイヤーが何人もいる。
「アイテムを売る方法は幾つかあるわ」
まず、NPCのやっているお店に売る方法。
アイテムごとに決められた値段で一括買取をしてくれるので、一番手っ取り早くお金を得られる。
次にプレイヤーへ売る方法。
欲しがっている人と交渉して売れば高い値段がつけられる。お店をやっている「商人プレイヤー」もいるので、そういうところに売ればまとめ売りもできる。
それから委託という方法。
売りたいアイテムをNPCやプレイヤーに預けて売ってもらう。売れればお金が入るけど、売れなければ当然儲けにならない。また、委託料を払わないといけなかったりする。
「細かく分けると他にも色々あるけど、掘り出し物の販売としてオーソドックスなのはやっぱり露店ね」
いわゆる路上販売だ。
販売金額は自分で付けられるし、プレイヤーとの値段交渉もできる。人通りの多い所でやれば買ってもらえる機会も増える。お客さんを座って待ってないといけないのが難点だけど、それを我慢できるならいい方法。
露店を開くには専用のカーペットが必要。これは黒音ちゃんが持っていたので貸してもらうことになった。
「結構高いんだからちゃんと返しなさいよ」
「アイテムを売るためにアイテムが必要って世知辛いね」
「ま、世の中、金がある奴のところに金が集まるもんよ」
肩を竦める黒音ちゃん。きっと色々苦労してるんだろう。
「ありがとう。じゃあ、どこがいいかな……あっ。あそこなんかどうかな」
怪しげな裏通りへの入り口近く。何が入っているかわからない箱や壺が並んでいるあたり。いい感じに怪しげな雰囲気が出ていてぴったりな気がする。
「自分から寂れた方に……。ま、その辺はあんたに任せましょうか。私よりは絶対詳しいし」
「うん。でも、値段付けるのは手つだってね」
何しろわたしじゃ相場がわからない。
「私だってこんなアイテム初めて見たんだけど……。とりあえず、システムが出してくれる推奨金額を参考にしなさい」
いくらで売っていいかわからない人のために、同じような性能のアイテムの平均価格から自動算出してくれる機能があるらしい。
破格の安値(もしくは高値)で露店を出して平均価格を操作しようとする迷惑プレイヤーもいたりするので過信は禁物だけど、ないよりはずっとマシだという。うん、そういうのがあるならわたしでも値段がつけられそうだ。
「じゃあ、しばらく露店してみるよ。昨日みたいに時間になったら教えてくれる?」
「OK。私は装備も強くなったし、適当に狩りでもしてくるわ」
わたしたちは頷きあっていったん解散──しようとしたその時。
「よう。黒音ってお前?」
わたしたち、というか黒音ちゃんに向けて声をかけてくる人がいた。
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