VRMMOでえっちな装備を作ります(2/4)

「何やったのよ、あんた。こんなの見たことないわよ」

「普通に質問に答えただけだよ!」


 周りでゾンビが死んでいく(?)中、わたしは黒音ちゃんの疑わしげな視線に必死で答えた。

 しばらくじーっと見つめ合っていると、黒音ちゃんは「まあ、いいわ」とため息を吐いた。


「で、これは何ができるスキルなの?」

「えーっと……」


 初期設定だとパーティメンバーにはウィンドウが見えるようになっているらしい。わたしは自分の固有スキルを選択して説明を表示、二人で一緒に覗き込んだ。


《淫具製造・魔化》

『淫具属性を持つアイテムを製作時、製作時間を100%減少する。また、製作時のステータスボーナスを2倍にし、更に+50のボーナスを加える。このスキルにより製作したアイテムはマジックアイテムとなる。

※淫具属性は非公開属性』


 以上。

 正直、わたしには何がなんだかよくわからない。こてん、と首を傾げながら黒音ちゃんに尋ねた。


「どう、これ? すごいの?」

「……さあ?」

「さあって」

「私にもわからないんだからしょうがないでしょ!? ……まあ、これが剣とか槍とか杖とかだったら間違いなく強いんだけど」

「ああ、武器だもんね」


 でも、わたしのスキルは『淫具』を作るもの。

 淫具って言うと……その、なんていうか、えっちな道具しか思い浮かばないんだけど。


「ねえ、黒音ちゃん。淫具ってなんだと思う?」

「私に聞くんじゃないわよこの痴女!?」

「痴女ってひどくない!? わたし、普通の女の子なんだけど!?」


 別に変な格好だってしていない。初期装備だから当たり前だけど。

 ちなみにこの間、黒音ちゃんはゾンビを倒し続けていて、わたしのレベルもときどき上がっている。


「……まあいいわ。とりあえず静かな場所に移動しましょ」

「黒音ちゃんのお家とか?」

「馬鹿言わないで。家なんてそうそう買えるわけないでしょ?」

「でも、他に人のいるところで話したくないんだけど……」

「安心しなさい。このゲームには宿屋っていう便利なものがあるの」


 何故か胸を張りながら、黒音ちゃんはにやりと笑った。

 ちなみに彼女はスレンダーな体型なので、胸はわたしの方が大きい。




 黒音ちゃんがゾンビをなぎ倒しながら案内してくれたのは、墓地から少し歩いたところにある小さな村だった。


「この村に宿屋があるの?」

「ええ。しょぼい宿だけど、だからこそ他の奴らは滅多に来ない。村に来る奴がいても、たいていは墓地に直行だしね」

「そっか」


 宿っていうのは休むところだ。一人用のRPGだと回復のためにちょくちょく利用するけど、オンラインゲームだと宿屋で休めば休むほど時間とお金をロスしてしまう。ゲームをどんどん進めたい人は宿屋になんか行かずにがんがんモンスターを狩った方がお得なのだ。

 村の真ん中あたりにある宿屋は黒音ちゃんの言った通り小さかった。一応、二階建てにはなってるけど、部屋数はたったの三つ。でも全室空いていたので適当に一部屋取った。

 部屋に入るとシステム的に別空間だから声は絶対聞こえなくなるらしい。

 部屋の中には藁の敷かれたベッドが二つとテーブル、それに椅子が二つ。でも、こういうところがきちんと描かれているのはすごい。わたしが「へー」とか言いながら室内を見渡していると、黒音ちゃんはさっさと椅子の片方に腰かけた。


「ベッドがあるからって私を押し倒すんじゃないわよ、変態」

「だから変態じゃないってば!」


 抗議しながら向かい側に腰を下ろす。と、ジト目が返ってきて、


「真面目に答えたんならあんたの性格でしょ。なんのために百問もあると思ってるのよ」

「う。じゃあ、そういう黒音ちゃんはどうなの? なんか中二病? みたいな喋り方してるけど」

「中二病って言うな! 闇の魔術師として相応しい格好いい喋り方をしてるだけなんだから」

「格好いい……?」

「そこから疑問に思うんじゃないわよ!?」


 テンションの高い怒鳴り声。現実の華ちゃんと違っていっぱいお話してくれるから、お喋りが好きなわたしとしてはなんだかほっこりした。


「華ちゃんもこれくらい喋ってくれればいいのに」

「なんか疲れるわねあんたと喋ってると」

「ひどいこと言われた!?」


 わたしがショックを受けていると、黒音ちゃんは空中に指を這わせて(自分のウィンドウを操作してたんだと思う)、テーブルの上に幾つものアイテムを実体化させる。


「とりあえず、これで何か作ってみなさいよ」

「えっと。これ、どうすればいいの?」

「パーティ共有設定でテーブルに出してるから、触ればインベントリに入れられるはず。全部突っ込んでから固有スキルを起動させなさい」

「はあい」


 鉄とか木材とかなんか色々を自分の荷物インベントリに入れたわたしは、スキル一覧から《淫具製造・魔化を》起動してみる。

 すると表示されたのは使う素材を選ぶ画面。適当にいくつかタップすると、作れるものの候補が表示されたりされなかったりする。


「どう?」

「うん。とりあえずなにかは作れそうかな?」

「そ。じゃあ、そこはあんたのセンスに任せるわ」


 任された。

 仕方ないので色々やってみて、なんとなくしっくりきた製作対象を選択。するとエンチャント? とかいう魔法効果を付与する画面になった。自分でポイントを割り振ったりしてカスタイズできるみたいだったけど、とりあえずお任せを選択。

 すると、目の前にぱっと光が生まれて、気づくとテーブルの上に一つのアイテムが置かれていた。


「わ、早い」

「スキルの説明にあったでしょ。あんたの固有スキルは対象アイテムを製作する際に製作時間を100%──つまり完全に省略するの。本来どれだけ時間かかるアイテムでも一瞬で作れるのよ」

「なにそれ、もしかしてすごいんじゃないの?」

「だから、淫具じゃなければね。……で、なによこれ」


 完成したのは先の方が螺旋状になった細いスティックだ。

 見ればわかる気がするけど……。


「ドリルバイブだよ」

「そんな知識、どこで仕入れてくるのよ!?」

「それはほら、ネットとか本とか」


 えっちなことに興味を持ったのは、小さい頃に見た変身ヒロインもののアニメだったと思う。

 主人公たちが植物系のモンスターに襲われる回があって、ツタっぽい触手に拘束されるんだけど、それを見た時、胸の奥の方でぞくっと疼くものがあった。

 SMという概念を知ったのは後になってから。

 女の子が縛られたり、男の人から見下されたり、恥ずかしい目に遭ったりするのに共感して興奮する。自分がいわゆるMなんだと知ったわたしは、それ以来、ネットでえっちな体験談を読んだり、画像を集めたりするようになった。

 あとは男の人が読むようなえっちな本を電子書籍でこっそり買ったり。

 女の子がえっちな目に遭うシチュエーションって男性向けの方が多いから、ついついそっちに偏ってしまうのだ。


「でも、学校では普通にしてるし。年頃の女の子がえっちなことに興味を持つのは普通、だよね?」

「んなわけあるかこの変態」

「変態!? む、じゃあ、わたしも黒音ちゃんのこと中二病って呼ぶから」

「あんたそれやったら戦争よ!?」


 売り言葉に買い言葉。

 しばし、二人でぎゃーぎゃー言いあうわたしたち。実に無駄な時間。でもその結果、お互いに相手が言われたくないフレーズは禁止ということで落ち着いた。

 ゲームの中だと思いっきり喚いても近所迷惑にならないし、カロリーも使わないのはいいと思う。


「……ま、じゃあ一応こいつの性能見てみましょ」

「そんなことできるの?」

「私の固有スキルは《鑑定》なの。このスキルの前ではほとんどのアイテムが性能を丸ごと曝け出すわ」


 便利そう。わたしもそういうのが良かったかも……と思いつつ、黒音ちゃんの鑑定を待って、


「うわ。何よこれ強っ!?」

「物理攻撃力……あ、これ武器になるんだね。それと、物理防御力貫通?」

「嘘でしょ。私の杖と比べても若干強いわよこれ」

「それ、すごいの? 魔法の杖と比べてだよね?」

「馬鹿言わないで。これ買うのに私がどれだけお金を貯めたか……。そんじょそこらの剣や槍より、この杖で殴った方がよっぽど威力出るっての」


 そんな杖よりも攻撃力が高いドリルバイブ。


「ドリルだけにぎゅいーんって削れるとか?」

「バイブが人体掘削してどうすんのよ!?」


 でも、スイッチを入れたら「ぎゅいーん!」って回り出した。


「………」

「………」


 わたしたちは顔を見合わせた後、黙ってスイッチを止めた。

 ちなみにスイッチを逆回しにしたら普通に振動した。ちゃんと方向覚えておかないと使う時にちょっと怖いかも。

 でも、攻撃力は高いので、とりあえずわたし用の武器として持っておくことにした。難点はリーチが短いことと、見た目がすごくアレなこと。で、でも、人のいないところで使う分には問題ないし。ほら、さっきの墓地とか。

 ドリルバイブの性能をひとしきり確認した黒音ちゃんは「なるほどね」と呟いて、


「あんたのスキルは淫具、要するにエロい道具ならなんでも作れるわけね。しかも、作った品の性能は高い。今のバイブみたいに武器になるようなものなら、そっちの性能まで高くなると」

「じゃあ、他にも冒険で使えそうなものが作れるかな?」

「試してみなさいよ」

「うん」


 黒音ちゃんからさらに大量の素材を受け取っていろいろ製作を試してみる。

 ちなみに、なんでこんなに素材が溜まっていたのかといえば「整理するのが面倒くさかったから」らしい。黒音ちゃんは片付けられない女なのかも。

 試してみてわかったことは、やっぱり使う素材によって作れるアイテムが違うってこと。別の素材で同じアイテムが作れる場合も、よく見ると性能が違ったりする。あと、アイテムのデザインはカスタマイズすることもできるらしい。

 効果も組み替えられるみたいだし、凝ろうと思ったらアイテム一個でえんえん悩めそう。いかにもクリエイターって感じでちょっと楽しいかもしれない。

 そうして出来上がったアイテムはというと、


『雄弁のボールギャグ』

 物理防御力と魔法防御力を持ち、魔法系のステータスにボーナスが入る。

 口を塞いでしまうので普通なら喋れなくなる(魔法の詠唱もできなくなる)けど、エンチャント効果で会話や詠唱が可能になっている。


『過激なピンヒール』

 装備してキックした時の物理攻撃力とクリティカル率が大幅に上がる。

 男性に攻撃した場合はさらにダメージが上昇。


『被虐の首輪』

 物理防御力と精神抵抗力が上昇。

 ダメージを受けた際、その量に応じて一定のMPを回復。


 こんな感じだった。

 それらを見た黒音ちゃんはげんなりした表情を浮かべ、それでも一応鑑定してくれて──終わるなり何故か怒り出した。


「何よこれ!? まさか私に装備しろっていうわけ!?」

「え、うん。だって、黒音ちゃんは強くならないといけないんだよね? だから私が使うものよりその方がいいかなって……違った?」

「違わない。違わないけど、こんなの装備して戦ってたら結局痴女じゃない!? あああ、でも、こいつら無駄に強いし……っ」


 何やら羞恥心と葛藤しだした黒音ちゃんは一応試してみる方向で落ち着いたらしく、わたしたちは墓地に逆戻りして性能をテストしてみた。

 結果。

 わたしのドリルはゾンビが襲い掛かってきたところに「えいっ」って突き出すといい感じにごりごり削れて強かった。知能の低いモンスターならこの方法で大きなダメージを与えられそう。

 黒音ちゃんが装備したボールギャグ、首輪、ピンヒールも強かった。魔法の威力が上がったうえ、万が一敵に囲まれても防御力のお陰で被害が少ない。囲まれて殴られているうちにMPが回復するから反撃しやすいし、詠唱が間に合わないなら蹴っ飛ばせばいい。

 でも、フル装備の黒音ちゃんは絶対痴女だった。


   ◇    ◇    ◇


351:名無しさん@VRMMO板

墓地で狩ってたら痴女がいた件


352:名無しさん@VRMMO板

>351 詳細希望


353:351

>352 黒マント黒ローブに首輪とボールギャグ着けてヒールの高い靴履いてた

口塞がった状態なのに呪文詠唱したり、ゾンビの股間蹴り飛ばしてた


354:名無しさん@VRMMO板

意味がわからん

何の目的があったらボールギャグなんか着けるんだ

っていうかそんなもん作れたのか


355:名無しさん@VRMMO板

だから痴女なんじゃねーの知らんけど


356:351

ちなみに連れがいて、そっちはなんかドリルっぽいのでゾンビの顔面抉ってた

残念ながら驚きすぎて画像は撮り忘れたんだが


357:名無しさん@VRMMO板

明らかに関わったらまずい奴らじゃないですかー

それはそれとしてスクショくらい撮って来いよ無能

服脱いじゃったじゃねーか

(ある日の某掲示板より)

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