第6話 初キスはどんな味?
パチッパチパチッ、パチパチパチ――
「ふぅっ……やっと火がついた」
苦労して集めた薪に火がつくと、俺は
結局俺が全部やるはめになったよ、とほほ。
でも、火があると暖かいし落ち着くよね。
「変態ケントお疲れ様。結構時間かかったわね」
「変態て……ひどいよジュリア……普通に呼んでよ!」
何で俺が変態呼ばわりされるのか分からないよ! ちょっと興味本位で覗こうとしただけなのに……。
「そんなことより、私お腹ペコペコだわ」
「そんなことて……そういえばジュリアは何か家から食べ物持ってきたの?」
ジュリアは初めて会った時、小さいポーチしか持ってなかったよな。
「パンとビスケットと水を持って出たけど全部食べちゃって、朝から何も食べてないんだから。でもケントがあの時偶然通りかかって助かったわ」
「朝から!? それは大変だったね。それにオークにまで追いかけられて、よく今まで我慢したね。えらいなジュリアは。じゃあ俺のお弁当半分あげるよ」
今までずっと空腹を我慢してたのか……気付かないなんて、俺のばかばか!
「ありがとう。変態ケントは優しいのね」
「そんなのあたり前だろ! 一緒に食べようねっ……て変態は余計だろっ」
でも女の子と二人っきりで食事するなんて初めてでドキドキするな……。
「ケント、はい、お口あーんして」なんて言われたらどうしよう。ほっぺが落ちちゃうよぉぉぉ!
俺は胸ワクでリュックから母さんが作ってくれたお弁当を取り出して蓋を開けると、ジュリアに披露する。弁当箱は父さんが試行錯誤しながら作ってくれた木製だ。
「ちょっと!? 何それ! それがお弁当っていう物なの? ちょ、ちょっと美味しそうじゃない……や、やるわね」
「ふふん、そうでしょ! 母さんのお弁当は世界一うまいんだ!」
ジュリアは俺が鼻高々に自慢していると、俺の手からお弁当をサッと奪い、口に放り込み始めた。
え?
「!? 美味しい……なによっ、これすっごい美味しいじゃない!」
「ちょちょちょっ!? わぁわぁわぁっ! あわわわわ……あわわわ」
ジュリアのフォークを持つ手は止まらない。
モグモグと口いっぱいに頬張ってて、まるでリスみたいで可愛いな……って、そんなこといってる場合じゃないよ!
「んん……く、悔しいけど本当に美味しいわ……特にこの黄色いフワフワしたのは今まで食べたこと無い味だけど、とても甘くて絶品だわ!」
「あっ! あぁ……俺の大好物の甘い玉子焼きちゃんがぁぁぁ……うわぁぁぁっ」
俺の、俺の玉子焼きちゃんが全てジュリアの口の中に……。
「こっちの丸いやつもジューシーで最高ね! 美味し過ぎて止まらないわ!」
「ぁぁぁ……俺の肉、肉、肉ダンゴがぁぁぁ……」
――俺は今、悪夢を見ているのか?
自分の頬をつねってみた。痛い。
「はぁぁぁ……美味しかった。ケントのお母さん、料理の天才ね……げふ」
「あぁ……俺のお弁当が……からっぽ……」
満足した様子のジュリアが空になった弁当箱を俺に返した。
いったい何が起きたのさ……こんな子初めてだよ! げふってなにっ!
「どうしたの? ちょっ……もしかして泣いてるの? わ、悪かったわね! あんまり美味しかったから思わず全部食べちゃったわ……ご、ごめんなさい……」
「うわぁぁぁぁぁん、ジュリアのばかばかばかばかばかばかぁぁぁ!」
俺は旅の楽しみにとっておいた母さんの弁当を失った悲しさのあまり、ジュリアの頭を泣きながらポカポカと叩いた。
ちょっとは反省しているのか、ジュリアはしばらく俺に叩かれるのを我慢していたが、俺が調子にのって叩き過ぎたのか――殴られました。ひどい……。
「悪かったっていってるでしょっ! 女の子を叩いちゃ、だめなんだからねっ」
「……ひ、ひどい……殴ることないのに……ぐすっ」
俺は鼻をすすりながらこの世の理不尽を知った。
父さん母さん、村の外にはオークより怖い金髪の鬼がいました。
だがしかし、俺にはまだとっておきのモノがあるのだ。
リュックの中をゴソゴソと探す。
――あった!
俺はソレを腹に抱えて、バレないようにジュリアから少し離れて背を向けて座る。
植物の
俺はグッと拳を握り締めた。
これは、俺が母さんにリクエストしていたおにぎりだ。
この異世界にも米があって、うちの村でも主食として食べられているのだ。
もしこっちの世界に米が無かったら俺は絶望していただろう。
母さんに初めておにぎりの作り方を教えたら変な顔をされたが、父さんも気に入ってくれて、その後、村でもおにぎりが流行ったくらいだ。
母さんが丸く握ってくれたそれは、つやつやで、お釜で炊いたせいか、おこげもついて食欲をそそる。
ゴクリとのどが鳴る。
ひと口ぱくり。
「ああ……母さんのおにぎりの味がする」
塩がふってあるだけなのに、噛みしめる度にお米の甘味も感じられて旨い。
そんな感動に浸っていると、ふと耳元に生温かい空気を感じる。
「ひっ」
俺の肩越しに瞳をキラキラさせた般若がおりましたっ。こわっ!
「ジュ、ジュリア!? ななな、何してんの!?」
「ふーん……おいしそうねそれ……ふーん」
!? ちょ……背、背中に、な、何か柔らかくて温かいものが当たってるよっ。だ、だめだよジュリア……い、いくら、そんなことしたって、このおにぎりは……あげないんだからねっ。
俺は急いでおにぎりを食べようと口にもってきた時だ。
後ろからジュリアの両腕が突然俺の脇の下から
さらにジュリアの両脚までがサッと俺の腹に絡み付いてきた!?
「ジュ、ジュリア? こ、これは? な、な、なに? は、離してよっ」
「ふふふ……ケント敗れたり!」
ジュリアの右手がサッと俺の手首を掴み、そのまま後ろに女の子としては意外と強い力でジリジリと引っ張られる。
くっ、まずいぞ……このままでは肩越しのジュリアの大きく開けたお口におにぎりが吸い込まれてしまうっ。
で、でも……せ、背中にジュリアの柔らか肉まんが当たって……ち、力が入らないっ。くっ、これは計算なのか?
なんか……おにぎり、あげちゃってもいいような気に……い、いやだめだ! これではジュリアの思うつぼだ! だめなものはダメっと男らしく言わないと!
「ジュリア! このおにぎりは……俺の、俺の、俺の……のあぁぁぁぁぁ!?」
俺が強い意志を示そうと右腕にグッと力を入れた直後、突然脇腹がくすぐったくなり身悶えてしまった……。
「あーむ……もぐもぐ」
「へ?」
ああ、時既に遅し――半分が消失していた。
「あら、美味しいわね! お米を丸めただけなのに……塩が効いてるのね?」
「うう……」
俺は泣いた。歯を食いしばり、男泣きに泣く。
「ちょっ、また泣いてんの!? 冗談よ……もうお腹いっぱいだから、後はケントが全部食べていいからね?」
ジュリアは突然焦った様に優しく声を掛けてくれて、頭を撫でてくれた。
俺は解放された右手に持つおにぎりをジッと見つめる。
黙って一口食べる。口の中でゆっくりと噛みしめる。
おいしい……ふふ、ジュリアと間接キッス……。
女の子と初めてキスしちゃったよ?
「ふふ、ふふふ」
感動して思わずにやけてしまう。
「きもっ」
そう言うと、ジュリアは俺から急いで離れ、焚火の陰から自らの肩を抱いて、こちらを怪し気に観察していた。
そんなジュリアを、俺は火照る顔でチラチラと盗み見ながら、もう一つの塩おにぎりにかぶりつく。
父さん母さん、俺は大人の階段を一つ
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