第3話 美少女をオークから救い出せ!


「うぉぉぉぉぉ!!! やめろぉぉぉこのブタ野郎ぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」


 怒涛の怒りが湧いてきた。なんでそんな事すんだよ。ふざけんじゃねぇぞ!!!

 その子を殺したら貴様を細切れミンチにしてやるからなっっっ!!!


 俺はなりふり構わず一気にオークに接近すると全力で肩から体当たりをかましその太い脚を取りにいく。

 体当たりの激しい衝撃が俺の全身を震わせ骨と肉を軋ませる。

 俺の気迫と全力体当たりが効いたのかオークはバランスを多少崩し振り下ろす棍棒がグッと減速しピタと止まる。

 

 俺は何とか寸での所で彼女の命を助けられた事に安堵した。彼女は頭を抱え地面に突っ伏してガタガタ震えている。

 問題はこれからだ。あまりにコイツは重くてまるで石みたいだ。

 それでも必死に太い脚を抱え込み倒そうとするもやはり動かない。


「フゴッ!!!」


 俺が手間取っているとオークの鼻息と共に太い左腕が無造作に伸びて、俺の背中をむんずと掴みあっさりと引き剥がされてゴミのように放り投げられてしまった。


「ぐはっっっ!」


 俺は地面に強く叩き付けられ転がった。

 奴は再びベロリと舌なめずりすると彼女に向き直り棍棒を振り下ろそうとしている。

 くそっ! ふざけんな! せっかく一度救った命、むざむざ殺させっかよ!!!


「死ねやぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は何とか起き上がり膝立ちで父さんから貰った大事なダガーをヤツに投擲とうてきの要領で思いっきり投げ付けた。

 それは上手く奴の側頭部目掛け一直線に飛んで行く。よっしゃぁ! 死ねぇっ!

 奴は俺の掛け声と何かの気配に気付いたのかこちらを振り向きギロリと睨む。

 

 それが奴にとっては不運であった。ダガーは奴の左目にズプッと深々と突き刺さり血飛沫を派手に撒き散らした。


「ブガァァァァァァァァァ!!!!! プギャァァァァァァァッッッ!!!!!」


 ひどいき声だ。

 しかしボーッとしてる場合じゃない。奴がのたうち回ってる今のうちだ。

 俺は痛む身体に鞭打って彼女に走り寄り肩を揺する。


「おい……立てるか? 逃げるぞ! おい、聞こえてるか!?」

「こわい……こわい……えっぐ……こわい……こわい……こわい……ひっぐ……」


 彼女は死の恐怖で突っ伏したままで俺の問い掛けが全く聞こえてない様子だ。

 すぐ後ろではオークがダガーの深く刺さった左目を押さえ絶叫しながら棍棒をブオンブオン振り回し暴れている。

 俺は彼女を残し奴から少し離れた横を走り抜けた。


「おいっブタ野郎!!! こっちだ! お尻ぺんぺん! ほれほれお尻ぺんぺん!」


 俺は出来るだけ奴のヘイトを稼ごうとお尻を思い切り突き出して、とにかく憎たらし気に自分の尻をパンッパンッ! パンッパンッ! と手が痺れるのも構わず必死に力強く叩き続けた。


「!!! グノォォォォォォォ!!!!!」


 奴は俺が尻を向け挑発しているのに気付くと怒りをあらわにして俺の方へと猛然と突進してきた。

 よし! 俺を追ってこい! 出来るだけ奴を彼女から離さないといけない。

 俺は走った。奴を連れて走る。しかし懸命に走るも足が付いて来ない。少し離れただけの所ですっ転んでしまった。ちくしょうこんな時に!


「フゴフゴフゴォォォ!!!」


 振り向くと俺のすぐ目の前で奴が青筋を立てて、殺してやる! とでも云っているようだ。

 だがこんな所でやられる訳にはいかない。


 ここが正念場だ!


「かかってきな。ブタ野郎」


 俺は余裕を見せてズボンの汚れを払うと指をチョイチョイと曲げてオークをばかにするように挑発した。だが脚はガクガク震えていた。やっぱデカいし怖い!


「ブモォォォォォッッッ!!!!!」


 奴の脳は単純なのか俺の挑発に簡単に乗ってきた。

 顔を真っ赤にさせて大振りに棍棒を横なぎに振ってくる。

 俺は寸での所で頭を後ろに引いてかわす。ブオンと鼻先を棍棒が通り過ぎ前髪が吹っ飛ぶ。

 

 危なかった。冷や汗が止まらん。

 奴は勢い余りよろけるが両手に棍棒を持ち直して再び逆からさらに勢いを増した横なぎの攻撃。軌道はほぼ同じ。

 

 ふっ、冷静に観察すれば単純な攻撃じゃないか。

 その横なぎをやはり寸での所でかがんでかわすと、意を決して奴の懐に飛び込みスライディングで奴の後方に抜けた。

 

 ふぃぃっ! 上手くいった!

 奴は俺が突然目の前から消えて狼狽うろたえている。

 俺はその隙に奴の背後から思いっきり股間を蹴り上げてやった。


「フゴッッッッッ!?!?!?」


 奴は突然の股間の痛みに棍棒をずり落とし股間を押さえて内股でピクピクと痙攣している。

 やはり人間と急所は同じか。でもあの格好……マジウケるっ! ははは。いや、笑ってる場合じゃない。

 俺は前傾姿勢となった奴の背中を駆け上がるとその丸太の様に太い首を腕で絞め上げようとした。が、太過ぎてまるで絞まらない。

 

 絞め技使えねぇぇぇぇぇっ! 終わった。

 奴は俺が首にしがみ付いているのに気付くと体をブンブン捻って振り落とそうとするからしがみ付くのに必死だ。

 

 どうするどうする……絞め技がだめなら武器だ!

 俺は振り子の遠心力を利用して足を奴の首に巻き付け這い上がる。丁度肩車の格好だ。

 俺は奴の左目に刺さったダガーに手を伸ばし、奴が左を向いた瞬間を狙い引き抜く事に成功した。

 奴の目からは再び鮮血がほとばしり忘れていた痛みがよみがえった様に奴は暴れ出した。まるでロデオマシーンだ。

 

 何か楽しくなってきた!

 オークは目からのダメージと首の頸動脈を脚で絞められ続けながらも、走り回ったり棍棒を闇雲に振り回して暴れまくっていた。

 俺は奴の首を両脚でガッチリ絞めながらしばらくの間ど迫力のロデオマシーンを楽しむことにする。

 

 時が経ち、奴は突然動きが鈍くなり泡を吐きながら電池が切れたロボットのように前のめりに倒れた。


「やった……のか? いや油断はできない。とどめを刺すぞ」


 目の前にはうつ伏せで倒れているオーク。まだ鼻息が荒く鼻がピクピク動いている。気絶しただけなのだろう。今にも目を開き立ち上がって襲ってきそうだ。


 前世では当然人を殺すどころか人を殴った経験も無い。魔物とはいえ命を奪う事に抵抗がある。

 

 怖い。

 戦っている時は興奮状態で躊躇ためらいは無かったが、冷静になってみるとやっぱり殺す事が怖い。

 血がこびり付くダガーを見つめていると恐怖を感じブルリと震える。


 俺はふと視線を感じ離れた所にいる少女を見た。

 彼女はペタンと座った状態で俺の方を怯えた表情で見つめている。オークが怖い? いや、俺が怖いのか? それとも両方か?

 再び俺はオークを見つめる。



 ズンッ



 オークは何度か大きな痙攣を繰り返すとピクリとも動かなくなった。

 奴の首にはダガーが深々と突き刺さっている。


 俺は彼女を助けるため命をかけると自分に誓った。

 ここで命を奪うのに躊躇ためらってまた襲われでもしたら一生後悔するだろう。

 そう腹をくくるともう俺に迷いは無くなっていた。

 命をかけるとは命を奪う覚悟も必要。それだけだ。

 俺はオークの死体を背に歩き出した。




「お嬢さん……お怪我はありませんか?」


 俺はニッコリと微笑みながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔の少女にそっと手を差し伸べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る