廃墟
馬蹄の音が廃墟の周辺で鳴り止むと同時に、一人の男を先頭に複数の騎士が姿を現した。
「何が起きた!」
先頭にいる男は30代ほどの見た目をしている、鎖帷子の上に赤い布を纏わせて誇らしげに自身の小さいひげを撫でている。
国にも劣らない武力が集まるキーアでは隊商ギルドや傭兵団などの武力を用いる必要がある仕事の大多数は組織化しており、その数は派生することによって組織は百以上に上る。
そしてそれらの組織は色が着いた布を纏うか、紋章が描かれた物を着用している。
赤い布を纏う組織は協商警団である。
キーアは大商人達が領主や王に多額の献金を送ることで自治が認められているが、貿易に専念したい大商人達はキーアの統治の一部を念のために複数の組織に委任させている。
廃墟の周りを見た男は絶句した、キーアに多数存在する砦はエルフが統治していた頃に造られたもので帝国の建築技術を遥かに凌ぐものだった。なのに砦はこの有様、せめて犯人像を見つけ出さなければ協商警団は男を無能と蔑み僻地に追いやるだろう。
鎖帷子の上に赤い布を纏った男は長い間この仕事を勤めている為、協商警団が男にどのような処分を下すか検討がついていた。
協商警団は厄介ごとを防ぐだけでなく厄介ごとを起こさないことも仕事の内であるため、砦が廃墟と化した責任を軽くする為にも犯人を早く捕まえようと男は焦った。
「一刻も早く見つけなくては」
廃墟を少し歩くと全身鎧を纏った騎士三人とそのうちの一人に捕縛されている女性、そして数百体の骸骨兵が見える。
男は自分の後方にいる、同じく自分と同様の服装をしている部下に待機するように命じながら馬を降りた。
男は捕縛されている女性に既視感を覚えながら目の前の4人に近づいていく。
廃墟
「あの骸骨達の指揮官は誰だ!」
一人の男が突如レイとドースとの間に割って入り要件を述べた。
「自分です」
レイが淡々とした声で答えた。
「なら聞きたいことがある、犯人が誰か知っているか?」
少し慌てた声色だった。
「知りません」
またもや淡々とした口調で答えた。
「そうか」男は悔しそうに答えた。
「私は知っているわ」
女性の声がした方へ振り向くと見覚えがある女性だった。
貴族の私的制裁で捕縛された庶民だと考えていたが顔を見て分かった。
「またあなたか・・・」
男は小さく声を漏らした。
ティアナは片手で捕まえていた女性の顔を見えるように、いつの間にか身につけたフードを剥がしていた。
騎士は呆れていた。
目の前の人物は魔術協会の権力を振りかざしてダルメキアの各所でトラブルを起こしているメール協会長だ。
取りあえずキーアの大商人達の前に連れて行こう、大商人のお目通りに叶えばこのことについて俺を罰したくても罰せないだろう。
「ラーン、馬車をお呼びしろ」
後ろにいる部下に馬車を呼ばせてメールを大商人達の前に連れ出す準備をさせた。
「私は関係ないわ」
騎士に背後を取られ、メールは不機嫌そうに先導する騎士に続いた。
騎士もそのあとに続こうとするが、後ろから掛けられた老人の声に騎士は足を止めて振り返る。
「おい、素奴はお嬢様が捕縛なされたのだ訳くらい話さんか!」
ドースは一連の事情を知るために騎士に迫りながら言い放った。
問いただすドースの後ろでは、ティアナは用が済んだとばかりに従者と雑談をしている。
「お嬢さんには感謝するが、訳は言えないさらばだ」
「待たんか!こう見えても儂はこの地におる大商人ガウの友人でな」
騎士は馬の手綱に手を握りながら耳を傾けた。
「お主らキーアの商人達が如何に他勢力と無関係だと主張しようと儂には古い友人がおる、命が惜しければ話した方が良いぞ」
自信に溢れた声で目の前の騎士に呼びかけたドースの反応とは裏腹に、騎士の表情はうろたえるどころか呆れた表情をしている。
「好きにすればいい」
馬を駆けさせる前に一言、騎士は去った。
「おい待たんか!」
今度は振りかえることはなかった。
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