魔法探検俱楽部はオタクぞろい3

1-3 魔法探検の調査対象


「魔法と無縁の人間と魔法使いが魔法の研究をする。矛盾しているように思えるが、何か理由があるのか?」

キリウスが顎に手を当てて思案しながら質問してくる。

「このトゥーフルート学園にも魔法使いは居るけどねー。よっぽどの変人か強い子じゃないと、ハンク家は調べたがらないの」

「…呪われた血族だから?」

おや、キリウスってば博識だね。僕の言わんとしていることをもう理解している。

アヌベスはボーっとしてあんまり頭に入っていない様子なのに。

「そう、呪われた血族って現代じゃあ言われているね。怪異の元凶ともいわれているよ」

「呪い……。怪異というのは新種の魔法の事か」

おっと、そこから説明しないといけないんだなぁ。

うん、部長として頑張っちゃう。

「元々の魔法はね、精霊の力を借りて発動させるものだったんだよ。火とか水とか風とか土とか。そういう自然現象を自分の力にするのが本来の魔法だったんだ」

「 自然現象? ……怪異とされる事象と異端だが似た作用ということか」

「だろうねぇ。僕も初めて知った時は驚いたよ。

その土地に淀んだ念、負の感情が魔力となって、それが自然に干渉して様々な現象を起こすっていう考えらしいからねー。それが怪異だよ」

「…………負の感情による魔力の流れ。それこそが呪われているという証明になるわけだな」

ふむふむと納得するキリウス。

ちなみに、ここには最強と変人の魔法使いがいる。

前者はユイ。後者が僕ね。

「一応聞いておく。……誰もツッコまないから。

一般人が調べても問題ないのか?」

そう言ってデイジーとアヌベスに視線を向けるキリウス。

「怪異に一番必要なのは、強い精神力なの」

ユイが毅然と言い放つ。

「もしくは鈍感であること。私たちが持つ魔法は却って心の隙を突く諸刃の剣かもしれないわ」

「それに魔法なんて使えなくていい。ただ真実を知りたいだけなんだ。

魔法研究部はそんな人達が集まる場所だよ」

「なるほど。なら俺でも大丈夫そうだな」

キリウスは納得したようにつぶやく。

「むしろ、一般人の方が調査効率はいいかもね?元々ハンク家にしか伝搬しない呪いだし、一般人は魔法なんかを認知する回路が狭いからさ。だから、君同様に魔法と無縁なデイジーも、ハンク家の骨董品を収集しても異常はないのさ」

ただでさえ、魔法使い達は怪異の起こす異常性への対処療法で手一杯。

元凶のハンク家を調べたがる魔法使いはほぼいない。

それこそ、魔法に人生を捧げたような変わり者ぐらいしか現地調査はしない。

「なるほどな」

「でしょー。

それに、キリウスは機転も効くから、何かあった時に対処できると思うし。あ、あと僕を助けてくれるし」

「最後の理由が一番大きいだろう……」

「うん!」

キリウスが呆れ顔でツッコむ。

あ、バレた?

「……まあ、いい。ところで、あの片づけた絵画たちは全て同じ女騎士の絵か?」

「いいや?」

僕の答えにキリウスは頭を抱えて呟く。

「撤去して正解だった……」

「なにー?」

アヌベスが分かっていない様子でキリウスに問いかけるが、返答に困っている様子だ。

「正気じゃいられない所だった……」

「んー?」

アヌベスはキリウスの言葉の意図を掴めないのか、小首をかしげる。

無理もないよね。

同じ容姿をした、全く別の時代を生きた女たちの肖像画だもの。

しかも、ほぼ全員狂気を孕んだ目つきをしているし。

……まあ、だからユイにボコボコにされたんだよね。

「アヌベス、忌みつ方角の絵画について、説明しても意識保てるか?」

キリウスは考えあぐねて、ユイに撤去されなかった絵画を指さす。

それには一等狂気をはらんだ隻腕の女に戦いを挑む少女が描かれている。

「…?んー、だいじょぶ」

それなら説明しよっかな。

「あれに描かれているのは、血狂いのオリヴィエと原罪のシルヴィア。ハンク家皆殺しを画策した母親オリヴィエを娘シルヴィアが倒す場面だよ。

二人共同じ白銀の髪と新緑の瞳を持っているし、容姿も似ているでしょ。これは母娘だからじゃあないんだ。

ハンク家の女は初代英雄である創世のシルヴィアの容姿をもって生まれるそうだよ」

「そうなの、それもハンク家の呪いと言われているわ。

他にも短命の呪い、狂気に支配される呪いなどあってね……」

ユイが補足するように言葉を発する中、アヌベスはその頭から煙が出るかと見間違えんばかりに困惑している。

「げん…ざ……?ちぐ……?そ……???

シルヴィアいっぱい???」

うん、見事に混乱中だ。

「あ、ごめんねアヌベス。えっと、あれを見たら分かりやすいかも」

短命な血族が300年血をつないだ結果。

当主だけでも相当な数がいるから、分かりにくいんだよね。

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