魔法探検俱楽部はオタクぞろい1

1-1 サプライズは慎重に  



魔法探検倶楽部の設立を渋る学園長から、正式な活動をもぎ取った。

僕ら魔法探検倶楽部の規定通りの部員がそろったんだ。

ならば、心機一転。部室の模様替えだね!

「いい出来栄えだね、協力ありがとうデイジー」

「ふっふっふっ。私のコレクションが役に立ってよかったですよミシュナさん」

金髪をポニーテールにした、ちょっと残念な美少女デイジーの碧眼がキラリと光る。

このシリーズは収集が困難だから、同じ収集家のデイジーにも協力を仰いで部室の模様替えを行った。

新入部員も増えたからね。部室を模様替えしたんだ。

僕は部長だし、ちょっとしたサプライズ?

特に男子が入ってくれたのは嬉しいなあ。

別にユイやデイジーに不満はないよ?単に女の子特有のトークを聞いていると、男の僕は何だか心がささくれるだけ。


ドアをノックする音がする。

来た来た。

「どうぞー」

「失礼します」

「うー、しつれする……」

二人の生徒が入ってくる。

一人は赤み掛かった黒髪と新緑の双眸の褐色の肌をした背の高い少年。ワイルドな風貌なのにやたらと礼儀正しい。

もう一人は白髪に赤い双眸の小柄な少女。同い年なのに口調が舌っ足らずだ。

二人とも目をかっぴらいて部室を見ている。

フヒヒ、感動したかな?

壁、天井に飾った白銀の髪と新緑の双眸の女性騎士の肖像画やその人物の活躍を描いた絵画。そして棚には彼女達をモチーフにした彫刻や像がある。

ファインブルク王国に代々仕えるハンク家の歴代騎士たち。

この血族がもう壮大で人間関係ドロッドロで最高最悪で面白いの。

部屋の中央に置かれた机の上に置かれているのは歴代当主の写真や肖像画。

歴代の彼女たちが実際に身に着けていた、とっておきの蒐集品などもあるよ。

ーーいやー、僕の収集品って結構乱雑に置いていたからね。思い切って統一したんだ。

「さて改めて自己紹介しようか。僕はこの魔法探検倶楽部のミシュナ・ウルズガング。こっちは掛け持ち部員のデイジー。副部長のユイももう少しで来ると思うよー」

「阿呆オタクが……」

唐突に黒髪の少年に罵倒された。

刹那。

「目めめめめ………」

白髪の少女がガタガタと震えたと思えば、白目を向いて直立不動のままぶっ倒れてしまう。

「ええ!?」

「アヌベス」

すかさず彼ーーキリウスがアヌベスの身体に手を差し込み、木目調の床への激突を防いだ。

「すまない。こいつは……、その、あー……。お前らが飾った容姿の人間にトラウマがあってだな……。

というか、一般的な感覚でも集合体恐怖症めいた怖さがあるというか……」

「へ……」

キリウスは歯切れが悪く言葉を紡ぐ。

「オタクならこれで分かるだろう。ハンク家暗黒時代」

「えええ!?…ああ!!??ごめんなさいごめんなさい!!!!!」

デイジーが慌ててそれらを隠そうと手を動かしながら謝り倒す。

「えーっと?」

「ミシュナ、彼女らの伝説めいた系譜と現実の事件を合致させてくれ。彼女たちはファインブルクの英雄騎士だが、英雄であるには敵がいるんだよ。

1千人殺した中の一人もしくはそれ以上に当てはまる地域出身者だよ、アヌベスは」

ああ!そうだよね!! 配慮不足だった!

この学園ってそういう人も多いのか!

「ごめん!」

「折角の模様替えだが、そういう訳で撤去しても?」

「分かった……」

「ごめんなさい…」

「あー、大丈夫だ。英雄に憧れるのは分かるからな。次は皆で部室を飾ればいいだろう」

「はい……」

デイジーがしょんぼりと、だけど少し安堵した様子でキリウスに言葉を返す。

……僕がやらかした感がすごくある。まあ、そうなんだけど。

アヌベスは気絶したままだ。

「ミシュナ、一先ず大量の絵画を片付けよう。沢山の目に見られているのは俺も怖い」

「はひ……」

淡々と指示を出すキリウスはとても頼もしい。


尚、ミシュナはキリウスがこの部室の天井まで埋め尽くす女騎士たちの蒐集物を見た時、『ストーカーか?』というドン引きした感想だったことを知らない。


うー、部長の僕よりも新入部員のキリウスの方が部長してるし……。

テキパキと蒐集品を片付けるキリウスを尻目に僕はそんな考えを持っちゃう。

そんな彼はとある一角で手を止める。

あ、いけない。僕も片づけ頑張らないと。

新入部員を気絶させた原因をユイに見られたら、また部長交代って言われそーー

「ミシュナ?」

小鳥のさえずりのような可愛い声だが、重みのある一言。

部室の片隅で気絶中のアヌベスの傍にしゃがみ込んだ、魔法探検倶楽部副部長のユイがにこやかな笑みと怒気を浮かべて降臨していた。

その手には『こんな創作物あるんだうひゃあ』と、興味本位で買った乳が異様にでかい魔改造の女騎士フィギュアが、みしみしと音を立てて握られている。

「撤去と土下座」

「はい!すぐにやります!」

僕は即座に行動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る