0-7 一人の騎士が壊れるとき 次へ思いを託す

それから、彼女は書庫に籠りきりになる。

一族の醜悪さを知るために。

自分と同じような思いをする人が生まれないように。

いや。

「同じ思い、させちゃうね」

オリヴィエは大きく膨らんだ自身のお腹をなでる。

「お母さん、小さい手になっちゃった。ちゃんと、抱けるかな」

オリヴィエのお腹の中には新しい命があった。

「ごめんなさい、重荷を背負わせて」

膿んで腐った傷を切り落とす役目まで、自分は生きていない。

「ごめんね、たくさんお願いをしてしまって」

沢山の願をかけた。

素晴らしい剣士であること、白銀の髪と新緑の双眸の女児であること。

因果の呪いに負けない子になること。

指の欠けた手でおなかを撫でる。

「どうか、幸せになって」

産まれてくる我が子に。

そして、その次の代にも。

「この国を、終わらせて」

初代女王と初代シルヴィアの願いは、その娘へ託された。

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