第3話 魔法探検俱楽部始動③

「家族の世話もあるから、あまり遅くまで活動はできないけれど。

それでよければ入部したい」

次の日の昼休み、僕はキリウスにそう言われた。

「ほ、本当!?」

「ああ」

やったーーーーーー!!!!!!!

僕は小躍りしたい衝動を抑え、教室へ足取り軽く向かう。

これで僕の部長の座は安泰だ!

「ミシュナ?何かいいことでもあった?」

教室に入るとユイが話しかけてきた。

「実は今日、うちの部に新入部員が入ったんだ!」

「あら、すごいじゃない。おめでとうミシュナ!」

ユイがニコニコと我が事のように喜ぶ。

美人で優しくていい子なんだよー。だから部員も厳選しちゃったの。

「ありがと!ユイのおかげだよ~」

「私の?私は何もしてないわよ?」

「そんなことないよ!ユイのおかげで勧誘に成功したようなものだよ!

(掛け持ちだけど)デイジーで5人揃ったし、これで廃部回避……」

ーーねえ、聞いた?新聞部のデイジーさん、家に帰っていないそうよ。

「え……」

「どうかしたの、ミシュナ」

「いや……、ちょっと待って」

まさか。まさかね。

索敵魔法発動・聴力強化・デイジーについて。

僕は索敵の精度を上げるため、内容を絞る。

ユイも僕の術式構築を感知したのか、押し黙って待つ。

ーー(……の失踪事件に巻き込まれてしまったらしいの)

ーー(私も昨日、街で見たんだけど、何だか様子がおかしくてね……)

ーー(まさか……ね?でも、行方不明になったのは年頃の女の子ばかりだし……)

「……っ!?」

「何かわかった?」

「……うん。デイジーが行方不明だって」

ユイが息を吞むのが分かった。

僕は顔を上げられず俯く。

そして、余分にもう一つ言葉が入ってくる。

ーー(あの転入生怪しくない?デイジーさんと一緒に歩いているところ見たわ)

ーー(え、そうなの?)

ーー(間違いないわ。あの褐色の肌の色、傷だらけの顔。あれは普通じゃない。きっとどこかの暗殺者よ。あの子は攫われて洗脳されているに違いないわ!)

…キリウス?

その語られる風貌は間違いなく彼だろう。何で彼がデイジーと? 僕はいても立ってもいられなくなり、キリウスの下へと急いだ。

「ミシュナ?」

僕は勢いよく扉を開けると、キリウスと鉢合わせた。

「どうした?」

…僕は息を落ち着かせて言葉を紡ぐ。

「……デイジーのこと、聞いた?」

「……噂になっているな」

彼は眉をひそめて呟く。

彼は見た目は怖そうだけど、悪い人には見えない。

それに、僕は彼のことをもっと知りたいと思った。

「放課後に話すよ。部室で待っていて」

「……いや、話は急いだほうがいいだろう」

「じゃあ、今から来てくれない?」

「分かった」

キリウスを連れて部室へ向かう前に、ユイとアヌベスの二人とも合流する。

……僕だけでもいいかな?

そう思ったけれど、キリウスがもしも悪者ならば、魔法使い二人ならどんな筋力バカでも拘束できる。

アヌベスはキリウスと知り合いだっけ?…まあ、目の見える所にいた方が監視できるだろう。

「ごめんね、いきなり」

「…。構う、ない」

うーん、相変わらずアヌベスの考え読めないな。

「で、話って?」

ユイは心配げに尋ねる。

「うん。まず、この人が新しくうちの部に入部することになったキリウス」

「…よろしく」

「で、掛け持ち部員のデイジーが行方不明だそうです」

「「「………」」」

全員に沈黙が流れる。

「……どういうことかしら?」

「キリウス、デイジーと歩いているところを見た人がいるってさ。君は容疑者っぽいよ、説明してくれるよね」

「校内で話しているところはミシュナも見ているだろう」

「それ以外は?」

「校外で道すがら、少しだけ。俺の出身国のことと、薬について話した」

やっぱりそうだ。

キリウスは緊急事態に場馴れしている。話し方が非常に落ち着いているから。

「……じゃあ、デイジーを誘拐したのは君?」

「違う。彼女は故郷について聞き出しただけだ。その後は知らないし、俺は自宅に戻ったが証明はできない」

「家族がいるんじゃないの?」

「…あの子は目が見えないから、俺を見てはいない」

「……ああ、うん。ごめん」

盲人の介護をしていたのだろう。

するとアヌベスが口をはさむ。

「デイジー、薬聞く、何故?」

「俺の出身国の菓子を売る店について知りたかったらしい」

「ああ。神隠しの現場に近いわね、そのお店」

ユイが思い出したように呟く。

デイジーが、これは怪異だろうと情報を仕入れた場所に近いらしい。

「……菓子、あるか?あの国、あった?」

「金持ちが食べるものならな。香辛料が多すぎて口に合わないが」

「……残念」

アヌベスは肩を落とす。

もしかして、デイジーが行方不明になったのって……。

「そのお菓子屋さんにデイジーさんと行ったの?キリウス君」

「気になる」

アヌベスはただ食べたいだけだろうな。

「ああ。ただ、嫌な感じがしたから適当に買ってすぐに出たし、デイジーにも食べないように伝えて彼女の分も回収した。その店を出て別れたよ」

「そのお菓子って持ってる?」

ダメもとで聞いてみる。

「ああ」

持ってるのかよ。ていうか、カバンから取り出しているし。

「喜雨が食べたらいけないからな」

目の見えない家族のことか。

「食べたい」

「毒だからやめろ」

「……」

アヌベスは不満げに頬を膨らませる。

「……で、デイジーのことは心当たり……って毒!?」

僕は驚いてその菓子を索敵する。だけど。

「…?出ないよ?」

「まあ、普段の食事でも使われるから。この香辛料を多量に食べると良くないが」

ふむ。索敵・揚げ菓子・香辛料…。

「うわ、何この濃度」


僕ですらちょっと引くぐらい濃かった。

これは下手すれば致死量だよ。

「デイジーにはその店に近寄るなとは言ったが…」

キリウスは淡々と告げる。

まあ、仕方ないか。

「いや、あの困った先輩はそれだけじゃあ止まらないよ。多分、証拠集めにとんぼ返りしてる」

「一人で捜査をしていて捕まったのね……」

「……そうか」

キリウスは視線をそらしてに呟いた。

「……キリウス。デイジー、事後か」

ぶほっ。

僕とユイは思いっきりむせた。

「…自業自得、な。だけどこれから学び舎を共にする先輩から目を離した俺にも責任はある」

いやいや、完全にデイジーの責任だから。だけどキリウスの顔つきが変わる。

「あの子を助けに行く」

「「!」」

キリウスの目には決意があった。

彼は正義感が強いのだろう。

「でも、どうやって?」

「周辺の足跡から追跡する」

地道だな!?キリウスは魔法使えないのね!?

あと、君の国は知らないけど、この街石畳だよ!?痕跡残らないって!!!

「僕が索敵するよ」

一応、魔法探検倶楽部の部長として、新入部員にいい所を見せないとね。

「分かった」

キリウスが力強く同意してくれる。

「じゃあ、行きましょう」

ユイがスッと立ち上がる。…あ、怒ってる。


いやー。災難だったね。

デイジー誘拐した馬鹿どもが。

用心のために部室に待機したユイの…最強クラスの魔女の遠隔魔法で無体を働く前に誘拐犯たちガチガチに捕縛。アヌベスは念のためユイと部室。

やたらと食べたいと唸っていたけど、無視。

一人、魔法耐久の強いやつはいたけど、キリウスに顎を打ち抜かれて失神。

その隙に僕が拘束した。

キリウス、強すぎない?ユイは魔女としてすごいけど…。

キリウス、体術が練り上げられてない?

「…お見事」

「これくらい朝飯前だ」

キリウスは涼しげに笑う。その腕には眠っているデイジーを軽々と抱きしめて。

無理、僕はお姫様だっこ出来ない腕力ですぅ。

…僕が部長で本当にいいのかなあ。自信なくす。

「それで、デイジーさんは大丈夫か?」

「ああー。大丈夫、解毒…いや、身体に悪影響を及ぼす物質の除去?それで過剰摂取した香辛料は抜いてるからさ」

「すごいな?そんな細かい術が使えるんだ」

え?

キリウスは何気なく言ったのだろう言葉がやけに胸に響く。

「……そう、かな?」

「……うん?」

キリウスは不思議そうな顔をしている。

「君には、どう見えた?僕が使った魔法」

「ん?ああ、凄いなと思った。俺は魔法の素養がないからよく分からないけれど、複雑なのはよく分かる。あれだけ精密な魔法を使えるなら、優れた医者が一人一人の病状に沿った治療ができるように、患者ごとに細かく薬を調合できるんじゃないか」

キリウスの言葉に胸が熱くなる。

「……ありがとう」

「……?どうした?」

「何でもないよ。そうだ、キリウスは僕のことミシュナって呼んでよ。そっちの方が慣れてるから」

僕の魔法をこんなに褒めてくれる人は初めてだ。

「魔法探検倶楽部にようこそ、キリウス」


さあ、行こう。部室へ。僕の居場所へ。

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