第2話 魔法探検俱楽部始動②

ユイから下剋上宣言を受けて数日が経った。

……駄目だ、全然勧誘できない。

新しく入部するアヌベスに伝手を聞いたが、アヌベスも友人はいないそうだ。

「ともだち何?」

そう聞かれて何も答えられない自分の胸が痛い。

つまり、あと1人足りない。


そんなある日、転入生がうちのクラスにやってきた。

ーー…はあ、男じゃん。

いや、怪異に興味があるなら別に男でも良いのさ。現地調査で遺跡や廃墟探索するなら体力も必要。

…ユイにアプローチかけるようなら殺すけど。

ユイはただの幼馴染のようなもの。

ただ、すごい美人だから下半身ゆるゆるの男が群がってくるわけ。だから僕が部長をやっている。

部長の特権で部室を僕好みにしてはいるけど、ちょっとした防波堤にはなるからね。

ユイがモテるのは嬉しいんだけど、変な虫がつくのが嫌なんだよね。

とりあえず、あの転入生がユイを直視した時の反応で勧誘してみよう。

何故か?

僕の索敵能力で、性欲の状態値をチェックするからだよ。

僕が悉く勧誘に失敗しているのがコレ。

ユイが魔法探検倶楽部にいることを知っている野郎どものステータスが、部員のユイの名前出した途端に性欲に極ぶりされてたから。

たまに、女子も性欲のパラメーター異常なのが来てもお帰り頂く。

アヌベス?一切感知されないので問題ない。

まあ、僕の索敵能力がおかしいんじゃなくて、ユイが異常にモテるだけだと思うけどね……。

とにかく、そういうのはお断り。


さてさて、転入生の印象は…うん、ワイルドかな?

赤みがかった黒髪に新緑の鋭い双眸、制服をきっちり着ていてもわかる、褐色の肌色の顔や身体についた傷が印象的。

一見怖そう。同い年なのに迫力ある。だけど何だろう、怖さはない感じ?

彼の雰囲気からは、戦場を駆け抜けた歴戦の猛者のような貫禄と、それに似合わない優しさが感じられるのだ。

僕と同じ14歳なのに。学生なのに。

「初めまして、キリウス・ベルカーです。

この学園に転学することになりました。よろしくお願いします」

自己紹介をする彼は、丁寧な所作で会釈をする。するとちらほらとクラスの女子が黄色い声を上げる。

うん、イケメンだ。顔面傷だらけだけど男前だ。

「……」

前の席のアヌベスが何か興味深そうにしているなぁ。知り合いなのかな?

ふむ、チャラい感じしないし、彼をうちの部に勧誘してもいいかな?

「じゃあベルカー君、空いている君の机はあそこの窓際にあるから、そこを使って」

担任の教師が彼を指したのは、僕の隣の席だった。僕は授業中、こっそりと横目で彼を観察することにした。

…真面目に授業を受けているな。

昼休みになった途端、甲高い声を上げて群がる女子を押しのけて、アヌベスが彼に話しかけた。

…このアヌベスの乱入、話しかけた部類に入るのか分からないけど。

「……。…元気?」

「ああ、お前こそ、相変わらず小さいな」

「…おー」

「ちゃんと野菜も食ってるか?」

「からいは嫌」

「そのまんま食べたら辛いだろうね」

2人はどうやら知り合いらしい。

だけど、何だこの会話。

まるで親と子供の会話みたいだ。

それも3歳児くらいの。

「まあ、あれだ。この学園に通えることになって良かったよ」

「……うー」

アヌベスがこくりと頷く。

今まで誰とも話もしなかったアヌベスが転入生と喋る奇怪な行動に、群がっていた女子はいつの間にか離れていた。…若干の毒を吐きながら。

「……悪い、俺のせいで迷惑かけたな」

「……。謝る、ない。悪くない」

「……そうか」

転入生は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

マジで親子の会話だな。同級生のくせに。

すると、アヌベスの様子が気になったユイがこちらに来た。

「アヌベス、彼…キリウスと知り合い?」

「……昔、一緒」

「へぇ」

ユイは物珍しげに転入生を見つめる。

まあ、珍しいよね。

あんな風に話す人なんて。

でも、僕も結構驚いたんだよ。だって、あの無口で無愛想で無表情のアヌベスが笑顔で喋っているんだよ?

…おっと、索敵索敵。

転入生はユイと話してどんな感じだろう?……ん?性欲の『せ』の字も反応ないぞ? どういうことだ? ありえない!! ユイを目の前にしているのに!!絶世の美女だぞ!?おっぱい大きいぞ!?

まさか、枯れてる!?別の性癖!?

いや、幼児体型のアヌベス相手に話しても性的項目は反応ないぞ?

…よし、性欲を抑えられるなら問題はないな。転入生を僕の俱楽部に勧誘しよう。

「じゃあ、キリウスくん」

ユイが転入生に何かを切り出していた。

あ、やばい。

ーー期日までに5人目を勧誘しなかったら、部長交代。

ユイの言葉が脳裏をよぎった。

「もしよければ校内の案内……」

「転入生!と な り の 席 の僕が学園を案内しようじゃないか!?」

ユイに先に勧誘させまいと焦り、思いっきり被った。

「え?」

「ミシュナ?」

2人の視線が集まる。アヌベスはぼけーっとして明後日の方向を見ていた。

「あ、いや……その」

「ミシュナ、あなたが?」

ユイの言葉にブンブンと首を縦に振る。

「それじゃあ頼んでも構わないか?」

そう転入生に返され、僕はガチガチの体をどうにか動かしながら二人で教室を出た。

「じゃ、じゃあ行こうか」

「よろしくお願いします、ミシュナ君」

「うん、あ、敬語じゃなくていいよ」

「分かりました。……それじゃあ、俺もキリウスで構わないよ、ミシュナ」

は…話し方はこうでいいのかな……?

僕らは2人で並んで歩き出した。

僕の隣にいる転入生。

キリウス・ベルカー。

褐色の肌色をした傷だらけの身体。

何だか訳ありっぽいけど、ユイ相手に猿のように欲情しないから問題ない。

僕が俱楽部に勧誘して、部長の座を死守する!

でも。

き、き、き、緊張する……。僕の後ろを歩く転入生を見ながら、僕は必死で話題を考える。まずは定番中の定番である学園の施設からだよね。

「ここが食堂だよ」

「広いな」

「ここは生徒だけじゃなく、教師も使えるからね。で、そっちが購買部。あとは……」

……あとはどのタイミングで俱楽部に勧誘しようか?

自分でもよくわからない焦燥感を感じているうちに、気が付けば放課後になっていた。……やってしまった。もう部活の時間だ。……こうなったら勢いに任せて誘うしかないか!?

「キリウス!」

「ん?」

「あのさ……うちの部n」

「貴方が転入生のキリウスさんですか!?」

僕の勇気はペンとメモを持ったデイジーの声にかき消された。

何でこんな時に限って来るんだよ……!!

「はい、そうですが…貴女は?」

「私は新聞部部長兼魔法探検倶楽部の部員でデイジーと言います。貴方の噂を聞いて取材したいのですが、よろしいでしょうか?」

「……構いませんが」

「ありがとうございます!では早速行きましょう!!」

デイジーは強引にキリウスを連れて行こうとするが、我に返った僕は呼び止める。

「ちょ、ちょっと待って、まだ説明の途中だから」

「何ですか?あ、校内の案内ですね?それなら道すがら取材に答えてほしいです!!」

デイジーはぐいっと腕を引っ張るが、キリウスはそれをやんわりと振りほどいた。

「すみません、先に約束している人がいるものですから」

……え? 僕を優先したの?結構いい奴?

「そうですか……残念です」

しょんぼりするデイジーを見て、僕はふと思い出した。

そうだ、まだ彼女を紹介していないぞ。

デイジーも掛け持ちで入部するって言うし、ついでにもう一度女の子に粉かけないか性欲チェックに使ってみよう。

女の子ばかり勧誘してゲスいことする部があるって話も聞くし、これ位はいいだろう。

「転入生、こっちは新しくうちの部に入部することになったデイジー。一応先輩だけど、呼び捨てで良いって」

年上はどうだろう。

「よろしくね、キリウス君」

「ええ、よろしくお願いします」

反応なし。性欲を持て余す猿じゃないのは確定!よし、誘おう。

「キ…キリウス……君?僕の魔法探検倶楽部に良ければ入部してみない?」

「………」

キリウスは顎に手を当て、暫し考えている。

沈黙怖い!

断られるのが怖くて仕方がないよぉ!

「すまない、少し考えさせてくれないか」

「う、うん。分かったよ……」

保留だよ…ね……?

……まあ、いいか。

「じゃ…じゃあ、また明日」

「じゃあな」

「バイバーイ」

キリウスもデイジーも帰っていく。……僕も帰ろう。

キリウスが断った時のために、部室に置いているコレクションを自宅に避難させよう。

……置き場所無いけど。

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