RDW+RTA +KAG(M―SIM) ~鈴木の経営ゲー(マネジメントシミュレーション)~
相生蒼尉
鈴木の経営ゲー その1
1 プロローグ 鳳凰暦2020年5月7日 木曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮
※前書き、失礼します。
鈴木の経営ゲーその1は47話(2023/07/17)まで、平日1話、休日3話の更新で進みます。
また、鈴木の経営ゲーは『RDW+RTA~リアルダンジョンズワールドプラス リアルタイムアタック~』の第4章になります。
前作となる『RDW+RTA +SDTG(T―SIM) ~鈴木の育てゲー(育成シミュレーション)~』はもちろん、前々作である『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』をお読みでない場合、理解できない部分がございますので、その点、ご注意下さいますよう、お願いいたします。
第1章及び第2章
『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330655674198261
第3章
『RDW+RTA +SDTG(T―SIM) ~鈴木の育てゲー(育成シミュレーション)~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330658647006780
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1 プロローグ 鳳凰暦2020年5月7日 木曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮
私――矢崎絵美を含めて、クラン『走る除け者たちの熱狂』のメンバーが、夜、岡山の部屋に集まる。この人数だと狭いが、仕方がない。
「……いろいろと心配ごとはあるけど、一番気になるのは矢崎さんのこと。本当に、納品はあれだけで良かったの?」
「大丈夫」
いろいろある中で一番。そう言ってくれる高千穂。ありがと。
「ありがと」
「……矢崎さんが納得してるんなら、もう言わないけど」
私は今日、ゴブリンの魔石をぴったり100個になるように納品した。スキル講習を受けられる最低限の数だ。
高千穂が心配しているのは魔石の換金額による順位。毎日4個でもGWの終わりで100には届く。毎日5個なら余裕だ。実際、4組でも、100個を超えなかった人はいなかったらしい。伊勢によると3組には2人だけ、100個に届かなかった人もいたらしいが。4組よりも3組の方が少なくなってしまったのは、4人組のパーティーではなく3人組が中心だったことが原因らしい。
我が儘な人たちに苦しんだらしいが、高千穂は学級代表として立派に役目を果たしたと思う。自分が不利な人数になっても、4組全体としては問題なくゴブリンの魔石100個を達成したのだ。本当に立派。すごい。
「ありがと」
「……どういたしまして。でも、鈴木くんの方針だと、次の第二テストの時は問題がないから、一時のことだもの」
その通り。実際にマジックポーチの中に蓄えてる魔石は、そのまま出せば学年でも1組でも上位に食い込むだけはあるらしい。
鈴木はどこからか生徒たちのおよその納品数の情報を得ているようで、そう断言していた。
それをテスト明けには納品するのだ。次の順位付けはスタートダッシュを決めてから始まる。きっと誰も追いつけないだろう。問題ない。
そうすると、筆記のことも考えなければ。
「……それにしても鈴木くんのあの予想問題って、すごくないか?」
「まるで本物のテストみたい、かな……」
伊勢と宮島が昼と放課後の学校図書館での勉強を思い出して、軽く頭を振った。
その気持ちはわかる。
鈴木は、第一テストの4教科である、ダンジョン関係基礎、ギルド関係基礎、モンスター関係基礎、平坂第7ダンジョン基礎の全てで予想問題を用意してた。鈴木、予備校の講師?
「……鈴木さんは、中学校の頃も、あのようなテストの予想問題を作っていたそうです」
「え、マジで……」
「さすがは鈴木先生だね。やっぱり先生で間違ってないよね、ヒロちゃん?」
「いえ。先生というより教材販売員だったようです。その予想問題を同級生に販売していたそうですから。お義母さまが、ある時、『友達はいるか』と鈴木さんに尋ねたら、『100人以上いる』と鈴木さんは自信満々に答えたそうで、お義母さまも安心していたそうです。ところが、ある日、先生に呼び出されてお義母さまが中学校に行くと、100人以上の同級生にテストの予想問題を販売して鈴木さんが荒稼ぎをしていたと知らされて、お義母さまは呆然としてしまったとか……お友達ではなく、お客様だったと、おにぎりを握りながら、お義母さまはため息を吐いていました」
……さすがは鈴木。やることが並みではない。きっとそのお金がこの学校での鈴木の活躍を支えているはず。
「売り物かよ⁉」
「……まさか、あたしたちのニコニコ鈴木Eローンに追加されたとか、かな?」
その宮島の言葉に、私以外の全員が岡山をがばっと振り返った。
「……クランメンバーのみなさまの分に関して、お金を取る気はないと鈴木さんはおっしゃっていました」
「そ、そう……それ以外からは取る気なんだ……」
「ですが、絶対に他の方に情報を漏らさないようにしてほしい、とも……他の方には、売る気は、ないようです。わたしたち、限定のものだと」
「もちろん、絶対に秘密だね。鈴木先生からの最高の助言みたいなものだし。ダンジョンじゃないけど、この学校の重要な攻略情報だと思うね、これは」
「各教科、5種類ずつ、鈴木さんは用意なさっています。必ず、第一テスト本番までに、繰り返し、繰り返し、最低でも5回ずつはやって覚えてもらいたい、と……」
「ヒロちゃんはもう、ほとんど終わらせたんだよね……だから教える側に回ってたんだし」
「4教科5種類ずつで最低20回、しかも繰り返せってことは……が、頑張るよ、あたし」
「まあ、まだテスト週間は始まったばっかりだからな……」
どちらかといえば、勉強が苦手らしい伊勢と宮島は表情が固い。このあたりの感覚は私にはない。今までも勉強でそこまで困ったことはない。それに、確かに、鈴木の予想問題はすごい。あれを何度も繰り返しておけば、おそらく、伊勢や宮島も問題はないだろう。それよりも、気になるのは……。
「そうやって五十鈴はいつも、油断するから失敗につながるんじゃない? もっと気を引き締めて、毎日、積み重ねないとダメよ? 勉強すればどうにかなるテストよりも、あたしとしては、昼も、放課後も、夜の食堂でも、いろいろと余計な話が耳に入ったことの方が心配だけど?」
……高千穂も私と同じらしい。
まず、今は、何人かの男子たちが、鈴木に対して、一方的に妬んでいる。しかも鈴木を陥れようとしてる。その状況が気になる。大部分が勘違いなのだが。
「ほら、図書館で聞こえた、あれ。聞こえてたでしょ……」
今日は学校図書館に集まるように鈴木から言われて、昼の納品の後も、帰りのHRの後も、みんなで図書館へと足を運んだ。それから、図書館で配られた鈴木の予想問題を静かに解いて、わからなかったところを調べたり、鈴木や岡山に質問したりする時間があった。岡山はもう既に、鈴木からたっぷりテスト対策は叩き込まれたらしい。岡山、早い。いつの間に。
それで、実はその時、図書館に男子が何人も集まって、ずっと鈴木の方を見ながら、いろいろなことを言ってた。聞こえるように。
「なんだあいつ」
「ハーレムかよ」
「ほら、首席の……」
「ちっ……」
「弱くて困ってる女を助けるフリして囲ってんだってさ」
「ほら、一緒にいるのは、4組の最弱3人パーティーと、3組の最弱ペア、それと1組の追放者だろ」
「オレもどっかで、そんな女子を拾って……」
「そんな女子はもう誰かが自分のパーティーで助けてるって。3組以外は」
「ああ、3組か。陵方式を名乗る勘違い大津方式」
「自分がトップランカーと同じこと、できるって思えたのがすげぇ」
「いいなぁ、鈴木ハーレム……」
「鈴木ハーレムか……」
「あいつら、ランナーズだろ?」
「通称、ランナーズ。別称、鈴木ハーレム。あ、蔑称か。べつは差別のべつじゃなくて軽蔑のべつの方な」
「図書館じゃ走れねぇって。それにしてもムカツクな、鈴木のヤツ」
「女に囲まれてるだけで、大した実力もないって話だろ?」
「人助けはできるいい人ではあるかもな。女限定で」
「はっ。ハーレムもそのうち、『鈴木くんっていい人だけど、恋人として、ちょっと……』とか言われて崩壊すんだろ、どーせ。それがいい人の運命」
「ぎゃはは、それ、ざまあ。いい人どまりってヤツかよ?」
……鈴木は決していい人ではない。すごい人ではある。知られてないだけ。知らなければいい人に見える? それはやや疑問が残る。
それでも、言いたい人には言わせておけばいいとも思う。だが、それで鈴木に何か、被害が出るのは少しだけ悲しい。だからといって、私には何もできないが。
図書館での話をして、高千穂がゆっくりとため息を吐いた。
「ああやって、図書館でこっちに聞こえるくらいの勢いだったでしょ? なんか、男子が鈴木くんに嫌がらせとかするんじゃないかって、ちょっと心配で……」
高千穂の危惧は正しい。正解だ。そういう方向であの男子たちは既に行動してる。
「いや、男子だけじゃないだろ? さっきの夕食の時だって……」
そう続けたのは伊勢だ。
寮の食堂で、私たちがひとつのテーブルに集まって食べるのはもう恒例行事だ。ちょっとしたことかもしれない。だが、私はこれが嬉しい。私もちゃんと仲間だと思える瞬間だ。
6人で、6人用の机だから、空きはない。
それなのに、毎回、毎回、近付いてきては嫌味を言う、暇な人がいる。どうやら2組の人らしい。名前を覚える価値もないし、私に覚える気がない。だから、聞き流すだけ。
「お、ランナーズはっけーん!」
「いやいや、改名したらしいよ」
「ほうほう、走るのやめたの?」
「今度は集団で男を取り囲んでハーレム作ってるんだってさ。よくやるよね」
「うわ、きもっ」
「しかもその相手が一般の学年首席。あの鈴木くん。鈴木ハーレム」
「すごいとこ来たね。でも、実は大したことないって噂だけど。鈴木くん。ゴブイチのRTA以外はろくでもない噂ばっかだし」
「走ってるからその実力がよく見えなかったとか? 動体視力、足りないんじゃない?」
「あはは、そっか。弱い王様のハーレムとか、必要?」
本当に下らない。
佐原先生が噂に踊らされるなと言った。学年集会で。聞いてないか。こいつらなら。
……私は言い返せないが、言い返す価値もない。
高千穂も伊勢も、聞こえてるが、そのまま無視だ。もう手を軽く振ってあしらうことすら、しない。
嘲ることを楽しむ感覚は、私にも、理解はできる。私にだって、そういう気持ちはある。今だってそう。あの人たちは、何も知らない。愚かで、真実を見抜く力もない。話す価値さえない。その程度の人間だと心の中で嘲ってる。
口には出さないだけで、私もあの人たちを散々、何度も何度も、心の中でこき下ろす。
それから、思う。
真実を知って掌を返すな、と。
「……あれ聞いて思ったけど、男子が鈴木くんにだけとか、女子があたしたちにだけとか、そういうの、ちょっと超えて、なんか、男子と女子が繋がってないか? 言ってることがどっちも『鈴木ハーレム』だし。昨日の矢崎さんの話だと、鈴木くん、1組で遠巻きにされてるみたいだけど、そのうち遠巻きじゃなくなって、いじられたり、からかわれたりとか、女子も陰で味方についてるとしたら、それに押されての男子からの嫌がらせだって、ありうるかも」
……なるほど。
伊勢の考察は私に新たな視点をくれた。男子、女子に操られてる可能性、ある。
「……でも、鈴木くん、モモと、意外と親しいっていうか、一緒にいることもあったし。そういう部分ではモモなら許さないと……」
「その、モモと同小ってとこも、たぶん、いろいろと男子を刺激してんだよ……」
「ああ、そこかぁ……」
「あと、モモが凄過ぎて何も言えない分、それを女子はあたしたちとか、鈴木くんに向けそうな気がする。モモたちは攻略もすごくうまくいってるみたいで、それを妬んでる子が結構いるし、仲間にしてほしいって言ったのに断られたって話もあるし……そう考えたら、あたしらはランナーズとか鈴木ハーレムとか馬鹿にされてる分、目くらましにはなってるけど……とにかく、モモを妬んでても、モモには直接言えない子ばっかりだろ?」
「あー、そうか。男子だけじゃなくて、女子もか……」
伊勢と高千穂のやりとりは、附中生でないとわからない部分がある。だが、鈴木の立場がよくないというのは理解できた。モモというのは1組の平坂桃花だ。飛び抜けた容姿の美少女。あれと仲が良いと思われたら、確かにたくさんの男子から反感を買うに違いない。鈴木、敵、多い。大変そう。
あぶみは少し首を傾げた。
「……でも、さすがに女の子が鈴木先生に直接ってのは、難しいよね? あ、確かに、だからこそ、男子を操るみたいなところはありうるか……鈴木先生にそのつもりはなくても、あたしたちも女の子だもんね。鈴木先生一人に何人も女の子がいたら、男子の中には勝手に妬んで、勝手に逆恨みして、そこを女の子に付け込まれて、そういうことする人も出る、かもね」
「あみちゃん、もし、だよ? もし、鈴木くんが男子から何かされたとして、あたしたちにそれ、止められるかな?」
「あれ、図書館の、1組とか2組とかの男子だったな、そういえば……」
伊勢が確認するように私を見た。私は小さくうなずく。そう、あれはほとんどが1組の男子だった。全員ではないが、1組の推薦男子は4人全員がそこにいた。他のクラスも推薦の男子ではないかと思う。たぶん推薦繋がり。
そして、もう手遅れ。1組の教室では、明日のLHRで鈴木をハメる計画を練ってた。堂々と。私、そこにいた。その場にいても、私は何も言えないが。
「ヒロちゃん⁉ どうにかできそう?」
「無理です……」
「そんなっ⁉ 高千穂さん⁉」
「1組の男子に何か言えるような力はあたしにはなくて……」
「じゃあ、鈴木先生は……」
あぶみが悲しそうな顔でみんなを見つめるが、高千穂も、岡山も、伊勢も、宮島も、目をそらした。私はそらさなかったが、何かをできる訳ではない。何もできない。
できることはひとつ。
「……エミちゃん、その顔。何か、いい考えが、あるんだね?」
「ない」
「ないんだ……」
がっくりと肩を落とすあぶみ。
「でも、大丈夫」
「え?」
私は力強く、うなずいてみせる。
みんなが私に注目した。
「全部、鈴木に、任せる」
あまり大きくない胸をちょっとだけ、張ってみた。
みんな、そこは無反応だ。残念。
「……鈴木さんには申し訳ありませんが、確かにそれしかないですね。少なくともわたしは、その他大勢から何を言われようとも鈴木さんから離れるつもりはありませんし。残念ながら、それによって生まれる周囲からの悪意を鈴木さんに代わって跳ね除ける強さもありませんが……」
「う……今さら鈴木先生から離れてやってくのは無理だね。うん」
「そう。ここはニコニコ友の会」
「矢崎さん、そこはせめて『被害者の会』にして……」
そう言う高千穂が一番、被害者とは思ってないのは、ここにいるみんなが実は知ってる。
「結局、終わってみれば、鈴木さんが、特に気にすることもなく、相手がしてきたことの、3倍も4倍も、ひょっとすると10倍くらいの仕返しをしてしまうのではないでしょうか……自分で口に出してしまうと、そうなるような気がしてきました……ギルドのあの方のように……」
口から出た言葉とは裏腹に、本当に鈴木が好きだという表情で目元を柔らかくする岡山。きっと、そういう鈴木も好きなのだろう。ギルドのあの方とは何だろうか?
……正直な気持ちで言うのなら、実は、私も、期待してる。
私にはできない、最高の仕返しを。鈴木がやってくれることを。鈴木が私に見せてくれることを。
これは、クラスが違うみんなは直接味わうことができない、1組の、私だけの楽しみ。
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