十 二人の結末
その日から二週間経った。久し振りに小百合のところへ行った。部屋に入るとボーッとした目で俺を見る小百合がいた。小百合のお母さんと芳子ちゃんが俺を見た。健一は小百合のベッドに近づき椅子に座って小百合をジット見つめて、
「小百合大丈夫か? ごめんな、暫く仕事で来れなくて、何処か痛むところはないか?」と健一が声をかけると、何故か小百合は変な顔をして、わざと健一を無視するように首を捻り外の方を見た。外は桜の花びらが強い風が吹いているようで沢山舞っていた。もう葉桜になっている。健一は小百合のお母さんに近づき、小声で、
「お母さんのいってた通り、小百合は何か変ですね」お母さんは頷いた。
「術後は順調ということなので、もうすぐ退院できるようですが。やはりその前に生田先生の言った通り精神科を受診して帰宅する様にしました」寂しそうで、ハンカチで目頭を押さえながら言った。小百合は外を見たままだった。
退院を明日に控え、健一は雪村のお母さんに聞いた。
「どうでしたか? 精神科の結果は」と聞くと
「どうやら抗うつ病だと言われました。だから一緒に抗うつ病の薬と精神安定剤を処方してもらって帰ることにしました。後は家からの通院となります。だんだんうつが進んでいるみたいです。先生からは、あまりにも酷い状態が続くようでしたら、サナトリウムで静養することも勧められました」
そして次の日、小百合は自宅に帰っていった。勿論、定期的に通院しなければならないが…健一には一抹の不安がわいていた。
~ ~ ~ ~ ~
翌日! 健一は衝撃的な一報を浮けた。妹の芳子ちゃんからスマートフォンに電話があり。
『大変です‼️ 健一さん! お姉ちゃんが、お姉ちゃんが、・・・自殺したの❗ 健一さん❗ お姉ちゃんが・・・どうしたら……』芳子ちゃんは泣き声で叫びながら、健一に訴えた。
「なんだって❗ 解った、直ぐに行くからね。おちついて」直ちに健一は雪村さんの家に飛んでいった。雪村さんの家に着くとパトカーが一台止まっていた。家を訪ねると、小百合のお父さんが、教えてくれた。
「健一君! 小百合は、退院したその夜、貰ってきた病案の薬、抗うつ剤、精神安定剤。睡眠薬を寝る前に大量に飲んで自殺を図ったらしい。朝小百合を呼びに行ったら、もう冷たくなっていた。遺書も何もなくてね」泣き崩れながら健一にすがり付いた。それで警察が来ているのか。健一は納得した。
通夜が厳かに行われ、翌日の葬儀には、お父さんの会社の人、小百合の会社の同僚、学生時代の親友、芳子ちゃんの友達等たくさんの人が参列した。みんな若くして亡くなった小百合を思ってかハンカチで目頭を押さえ焼香をした。斎場で骨になった小百合のなんと軽いことよ。情けなくなり涙が止まらなかった。夜になり、各々が引き上げていくなか、健一もそとに出た。
「父さんも母さんも先に家に帰っていてよ。俺は少し考え事があるから一人にしておくれ遅くならないように帰るよ」と言って両親を先に返した。健一はそのまま家に帰る気にならなくて、何時もの場所へ車を走らせた。
何時もの場所。健一が何かに悩んだとき、困ったとき人生を決めてきた海辺の崖の上である。何時もの岩に一人腰掛け漆黒の日本海を見ていた。崖下に打ち寄せる荒々しい波の音しか聞こえない。しかし、空は満天の星空だった。綺麗な星空が輝いていた。しかもなんとも美しい満月が
--健一さん--
と小百合が呼び掛けてきたような気がした。確かに小百合の声だった。ふと、ノートから顔を上げ声の聞こえた満月を見た。健一はノートを鞄にしまうと、立ち上がった。満月を見ると小百合が健一を呼んでいる。初めて健一が選挙事務所で初めて小百合を見たときが甦ってきた。そうだ❗ 夕日に染まった小百合の顔、そうだ『何気ない君の微笑を見たくて』健一は二、三歩助走をすると、崖から月に向かって大地を思い切り蹴った❗
(了)
何気ない君の微笑みを見たくて 淡雪 隆 @AWAYUKI-TAKASHI
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