六 小百合の決意


 二人が部屋に戻ると、小百合は検査を終えてベットで寝ていた。

「先ほど帰ってきたの。後お昼からまた検査があるんですって」妹の芳子が力無く言った。健一は小百合の枕元の椅子に座ると、スヤスヤと眠っている彼女の横顔をじっと眺めた。検査で着かれたのだろう。髪の毛の解れをやさしつなでて、軽くキスをした。”小百合“と小さく呟き、もう愛らしくて堪らない顔を寄せた。そして立ち上がり、窓際によった。芳子ちゃん! 軽く肩を自分に引き寄せ、“お姉ちゃんを宜しくね”と囁いた。芳子は軽く頷いた。涙が出て止まらないようだ。外を見ると黒い雲が重く広がっていた。雷雨でも来るかもしれないな! 健一は軽くため息を付いた。昼までは重苦しい空気でおおわれ、誰も何も言わず、静かな時が流れた。


 昼になると、食事が運ばれてきた。小百合も既に起きていて、ベットを立てて背中をあづけていた。

「食事なんていらない。何も食べられないわ」

「でも昼からも検査があるんだろ。少しでも食べたら」と母親は心配そうな顔をして言った。まるで通夜のような沈黙が続き、その静寂の中を鼻を啜る音だけが何とも言えない静寂に包まれた。そして一時間も経っただろうか、再度看護師さんが車椅子を押して入室してきた。

「それでは、雪村さんMRI検査室まで行きますよ」と言って、ふ小百合を車椅子に乗せ替えて経部屋を出ていった、二階の検査棟に着くと、MRI検査室に向かった。廊下と平行して硝子の箱状の待合室に入り、2番の入り口の前で待った。”雪村さんどうぞ中に入ってください“と技師に誘われて部屋の中に入った。中に入り車椅子から看護師さんに立ち上がらせて貰い、目の前にある細長い洞窟のようなドーム型機械のベットに寝かされて、バンドで軽く身体を安定させられると、その狭い洞窟のような穴が私の身体をすっぽりと包み、

「それでは始めますから、看護師さんは外に出ていてください」看護師は言われたと折祖とに出ていった。私をすっぽりと包み込んだ機械があまりにも狭苦しくて、狭所恐怖症の方は申し出てくださいと、待合室の壁に張ってあったのが今始めて理解できた。技師が部屋の外にあるガラス張りの部屋からマイク越しに、

「それでは、始めます」と声を掛けてきた。うぃ~んと言う音がし始めた時、少し怖くなって薄目を開けると、何と目の前一センチもあっただろうか、ドームの天井が目の前にあった。あとは、ガンガンキンキンといった音が響きだしてきた。別に何の痛みも無いのだか、少し怖かった。そして検査時間は短く直ぐにすんだ。

「はい、お疲れさまでした」私の上に被さっていたドームが芦崎まで異動して、明るくなった。そして看護師さんが入ってきて、私を車椅子に乗せると部屋を出た。か

「看護士さん、私ずいぶん悪いのでしょうか?」

「サア、私には解りません」

「でも、CT検査も、MRI検査も直ぐに結果の写真が出来ますので、病院の午後の診察が終われば、直ぐに婦人科の部長をはじめ外科医などのお医者様が話し合いで一番いい治療法を話し合いますので、心配しないでください。夕方には先生から説明があると思います」

と言ってる内に小百合の病室に着いた。みんな心配そうな視線を送ってきたが、小百合はベッドを少し起こして、涙で溢れた顔をタオルで拭い、目を瞑った。そしてその時には検査結果では小百合はある決心をしていた。


 午後三時三十分頃、小百合の部屋に例の看護士が現れて、

「今から検査結果と、どのような方法で治療を行うか生田先生よりお伝えしたいので、本人と御家族の方だけ私に着いてきてください」

と何時ものように小百合を車椅子に乗せ、両親と妹だけを連れて、部屋を出ていった。みんなは三回にある会議室のようなところに招き入れられた。そかには生田先生他何人かの先生がいた。静かに生田先生は立ち上がると、レントゲン写真を何枚か挟み込んだ照明ボードのところにみんなを招いた。

「はっきり申し上げます。小百合さんは精密検査の結果、子宮頚癌第Ⅲ期Bまで病状が進行していると言う結果と判明しました。勿論私一人の見解ではなく、婦人科の部長をはじめみんなの先生の意見の集約です。そして外科の先生たちによる今後の治療の方法が決まりました」そこで一息着くと“何か質問はありますか”と言うようにみんなをみわたした。

「あの~、第Ⅲ期Bの状態と言いますと、病状はかなり悪いと言うことでしょうか?」と小百合の父親が聞いた。

「勿論、かなり悪いです。第Ⅳ期Aになる手前と言っていいでしょう。ですから手術を早く行わなくてはいけないですね。遅れれば遅れるほどリンパ腺や血液を介してがん細胞が転移し、それこそ手を付けらくなるでしょう。出来れば明後日にでも手術を行いたいと思うのですが。勿論うちの病院の経験豊富な外科医の先生が行いますので、手術は心配いりません」先生はきっぱりと言った。

「どのような手術になるのでしょうか?」母親が聞いた。

「そうですね、子宮自体と卵巣まで全部摘出することになります。あとは術後の経過を見ながら退院していただいて、通院をしながら抗癌剤などを使用しながらの治療を行うこととなります」

「子宮全摘出しかも卵巣まで摘出ですか」母親と小百合は目を見開いて涙が溢れた。小百合は

「じゃあ私はもう子供の生めない身体となるのですね」と顔をハンカチに埋め涙声で言った。

「一応解りました。御願いするより仕方ありません。宜しくお願いいたします」両親が小声になり言った。そして説明を浮けた家族はみんな小百合の部屋へと戻った。ベットを背に寄りかかった小百合は。この時ある決意を固めた。

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