四 健一の実家


 健一と会長の二人は慌てて東京駅まで急いだ。A県までの切符を買うと。電車の出発が長く感じた。A県の駅に着くと、もう夜の十時を過ぎていた。

「健一君、小百合さんは県立病院に入院していると言ってたね。この時間じゃもう病院も閉まってるよ。見舞は明日の朝にしようよ」

「そうですね、他にも患者さんがいるのだから迷惑をかけちゃ行けませんね」

「そうですよ。先生の話しにもあったように、これからは、健一さん自身の行動にも十分気を遣わなくては。直ぐにでも小百合さんに会いたいでしょうが。ここは・・・一旦家に帰りましょう」と明日の朝行くことにして、一旦後援会長とも解れ、それぞれ自宅に向かった。


 自宅に着くと両親が心配そうな顔をしていた。健一が部屋に入ると、

「おぉ、健一! 帰ってきたか。大変なことになった」母親は涙を拭っている。そんなに悪いのだろうか? 健一は取り敢えず、先生の東京事務所での事柄を二人に話した。当然二人は吃驚したような顔をして、信じられないっと言った顔をした。

「とにかく、明日は見舞に行くんだろ。今の話しはまだしない方がいいぞ」

「あぁ、解ってるよ。何の病気で緊急入院したんだ」と父親に訪ねると、

「どうも、子宮に関する病気らしいな。明日精密検査をするそうだ」力無く言った。

「子宮関係? まさか子宮頚癌じゃないだろうな」父親は力無く頷いた。

「お前検査結果では、結婚の事も考えなくちゃ行けないぞ」

「何言ってんだよ、俺はどんな結果が待っていようと、小百合との結婚は必ずするよ」

「しかし、健一! もしもの事があったら、それでも気持ちは変わらないのかい」母親も力無く言った。健一は深く頷いた。

「健一、お前ご飯は食べたの」

「いやまだ食べてないよ」

「じゃあ、用意をするわね。その間お風呂にでも入ったら」そこで健一は風呂に入った。


 健一は暖かい湯船に浸かりながら、代議士の話を考えていた。俺を息子のための台座にでもしようと言うのか! 俺を何処まで利用すればいいんだ。しかし、県会議員か・・・勿論政治の世界に飛び込みたくて、代議士の私設秘書を承諾したのだ。しかし、健一の気持ちには。そこまでなれるのなら、やっぱり最後は国会議員だよな。秘書を遣ってるは人間はみんなが持っている野望だ。しかし、それはまだ先の話だ。今は小百合が心配だ。小百合・・・小百合・・・健一の目頭が熱くなってきた。それをお湯で顔を洗い流し、風呂から上がった。食事の用意はもう出来ていて、食事を終えると、自分の部屋に入りベッドで眠りに付こうとしたが、なかなか寝付かれなかった。寝返りを繰り返し、小百合の笑顔が浮かんでは消えた。どんな状態なんだろう? 二年後には市会議員に立候補するというのに。それに、俺の後を継ぐ先生の遠縁の男というのも気になる。どんな男だろうか? まぁ、二年も俺と一緒に行動すればどうすれば良いかも解るだろう。その事はあまり心配するのは止めよう。


 小百合と初めてあったのは、常設の地元今野修一郎代議士の選挙事務所だったな。夕暮れに窓辺に立っているところに夕日が眩しいほど当たっていて、そこに佇む、愛おしいと思ったのが初めだった。自然と言葉を交わすうちにだんだんと君に引かれていった。そんな君が今病魔に襲われて苦しんでいる。何て事だ、人生一歩先は、何が起こるか解らないものだな。悶々としてそんなことを考えているうちに、窓のそとが明るくなってきた。あぁ、もう朝なのか! どんな顔をして小百合に会ったら良いのだろう。確かに父が言っていたように検査結果によっては、結婚を考え直さなくてはいけないのだろうか。俺には今、野心がある。夢がある。長く辛い戦いだ。小百合に耐えられるだろうか? 精密検査の結果を聞いてからでも考え直さなくてはいけないのだろうか。後援会長の作野会長にも相談してみようか?


 ーーそんなことを考えて、お前はもう逃げているんじゃないのか?ーー


 自分が解らなくなってきた。俺はひどい男なのだろうか? こんなことで小百合は幸せになれるのか?


 朝日が高くなり、健一はベッドから起きて、洗面所で顔を洗った。キッチンに行くと、既に両親は起きていて、

「おはよう」とお互い朝の挨拶をした。

食事を終えると、父は仕事に出掛けた、仕事帰りに病院によって見るよ雪村さんの両親にもよろしく行っておいてくれ。と言って家を出ていった。母は、

「今日は後援会長さんも来てくれるんだろ。私達も用意をして病院に出掛けようよ」

 健一はわかったと言って、着替えるために自分の部屋に戻っていった。母が用意が出来たら俺が運転して、病院まで行こう。寝不足もあり身体が重かった。

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