三 心の揺れ
その頃東京にある今野代議士の事務所では。更に悪いことに、良からぬ風評が立っているところであった。
朝、永田町にある、事務所の自分の机の電話機を取り上げると、
「おい、
チョイチョイと、二人を手招きすると、
「おい! 変な噂を聴いたが、大丈夫なんだろうな」二人を机のそばまで引き寄せて、囁くように呟いた。
公職選挙法違反(政治資金規正法)。選挙資金の収支報告報告書の虚偽記載に目をつけられているらしい。勿論相手は東京地検特捜部で収賄容疑の調査が秘密裏に行われていると言う。まぁ、健一さんに言わせると反対勢力の無責任な噂に過ぎないといっていたが。先生は与党の大きな派閥に属する有力者でもあるから、それをやっかむ者の妨害も多いらしい。健一さんには関係のないことだけど、東京の先生の事務所では緊張が漂っているらしい。第二秘書や会計責任者等議員に関する金の動きには色々と議員の回りの関係者などに対策を考えているらしい。
「先生、私が色々情報収集をしたところ、どうもデマばかりですね。安心してください」
「そうか、上田がそこまでいうのなら間違いないだろう。お前はそっちの方のプロだからな」と今野代議士は、ホッとした顔で言った。
「それにしても、そろそろ着いても言い頃だがな」
「誰の事ですか?」岩井が言った。
「うん、先程話しに出た健一君と鷲の地元の後援会長だ。昨日考えがあって呼びつけたんだ」
正午過ぎ、お待ちかねの二人が着いたと、女性事務員から知らせを浮けた。
「おう、そうか直ぐに通してくれ。悪いが君たちは席を外してくれるか」
「はい、解りました」と言って二人は部屋から出ていった。そこへ入れ替わるように健一達が入ってきた。
「うん、わざわざ呼んですまなかったな。ま、そこに掛けてくれ」とソファーを指差した。二人は不安な気持ちで腰掛けた。
「実はね、わざわざ来てもらったのは、大事な相談があるからなんだ」今野代議士は、ますます声を殺して語った。
「実は、健一君! 君、今度たしか後二年後だったな市議会議員選挙に出馬してみないか。なぁ、作野後援会長、君はどう思うかね」
「そうですね。良いですね。健一君も市会議員に立候補しても良い頃でしょう。彼は地元では絶大なる人気を得ていますからな。議員なら楽勝ですよ。先生」
「ワッハッハッ、作野会長私の気持ちはそんなものじゃないよ。何期か勤めた後は、今度は県会議員になるんじゃよ」今野代議士は出っ張った腹を揺らして笑った。
「何ですって、まさか先生がそこまで考えていらっしゃるとは」会長も吃驚した顔で言った。
「そうなってもらえると、ワシも安心できるというものだ」
「は、どういうことでしょう」健一も会長も口をあんぐりと開けたまま代議士を見た。
「先の事まで考えた結果なのだ! つまりワシもいつまでも代議士を遣っていくことは難しい。当然引退するときが来るだろ。その時には長男の第一秘書をやっている
「成る程、そこまで考えていらっしゃるとは私も考えもしませんでした」後援会長は膝を叩いた。
「ちょっと待てよ、じゃあ俺に孝義の後押しのためだけに県会議員を目指せと言っているのか」
口には出さなかったが、健一は唇を摘まみながら、沈思黙考を始めた。“そんなことで良いのか? それじゃあ俺は今野家の草履持ちになれということか”健一は唇を噛み締めた。その時健一は自分の携帯電話にmailが届いているのに気がついた。バイブにしていたから気がつかなかったのだ。”お袋からだ❗ 急いでmailを開いてみると、内容を読んでビックリした。
“何だって❗ 本当かよ”健一は突然立ち上がった。
「どうした? 健一君!」今野代議士が聞いた。
「大変だ❗ 後援会長。小百合が緊急入院をしたらしい。直ぐに帰らなくちゃ」
「何だって! 緊急入院だって? 一体どうしたんだ」
「詳細はよく解らない。早く帰らなくちゃ。先生これで失礼します。早く小百合に会いたい」
「わかった、わかった実は君の後釜の青年を紹介しようと思っていたんだが。ワシの遠縁の青年だ。それは後にしよう。君のところを訪ねるように言っておくから、早く帰ってあげなさい」先生は二人のなかを知っているから、直ぐに言った。そこで、
「それでは、先生失礼します」と言って、事務所を飛び出した。
その経緯を廊下で立ち聞きしていた男がいた。第二秘書の
「何だって、健一を県会議員にするだと。冗談じゃねえよ。俺に危ない橋ばかりわたらせやがって。チッ」
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