二 動揺


 どのくらい待っただろうか、アナウンスで「雪村小百合さん。六番の診察室にお入りください」と流れた。私たちは大したことがないと良いけどな、等と思いながら診察室に入った。四十代くらいの女医さんが据わっていた。貫禄が身体から滲み出ていた。


「私が生田ともうします。宜しく」

「はい、私が雪村小百合で、こちらは私の母です」と挨拶を交わした。

「症状の書類を見ますと、今朝出血があったようですね! 生理は終わっていたのですね」

「はい、生理は一週間前に終わっています」

「あと、下腹が少し痛くて固くなっているのですね。う~む、ちょっと診てみましょうかね。となりのカーテンを引いてあるところに行ってベッドがありますから、下着を脱いで横になってください」

 下半身裸になるのは恥ずかしかったが、そんなことは言ってられない。覚悟してベッドに横たわると、両足をあげるブリッジ仕様の機器があり、そこに両足をあげ、両足を大きく開く仕様となっている。その間に先生が触診やスコープ等を駆使し、診察を行った。母に後で聞いたら、ずいぶん長かったように感じたらしい。


 診察が終わり、暫く診察部屋で待っていると、先生が入ってきた。どこかへ細胞を調べる部屋などに行っていたらしい。そしてついに先生からショッキングな言葉を聞いた。提出してもらった書類を見ると、告知希望となっていますので、お話しします。

「残念ながら、即入院してください。看護師さん手配をお願いね。残念ながらとても良い状態とは言えません。入院して精密検査を受けてください」小百合と母は顔を見合わせて驚いた❗ 母は何だか涙ぐんでいる。泣きたいのは私だよ。

「先生! 何の病気でしょうか? 教えてください」先生ははっきりした声で宣告した。

です。ですから精密な検査を必要とします」小百合はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。母が私の身体を抱えあげるようにして座らせた。

「あとは、看護師さんに入院に必要なことをよく説明を聞いてください」

・・・・・”はい“消え入るような返事をして、看護師さんに違う部屋に連れていかれた。必要書類の記入方法や病院内での規則などの説明を浮け、私はそのまま病室に連れていかれた。506号室個室だった。母は、

「私は一度家に帰って、入院に必要なものを持ってくるわね。何時ものところにおいてあるんでしょ。一週間分有れば良いわね。それと家族のみんなに知らせなきゃ」そう言うと、病室を出ていった。



 一時間ほどして、母が荷物を抱えて戻ってきた。荷物をほどいて整理していると、病室に父が駆けつけてきた。

「おい、小百合! 大丈夫か? ベッドに寝て安静にしてなくちゃ」父はオロオロと室内を熊のようにうろうろするばかりだった。

「母さん、医者は何て言ってるんだ」

 母はモジモジしていたが、お父さんには本当の事を言っておかなくてはと思い、本当の病名を話し、明日精密検査をすることを告げた。父はハンカチで目頭を拭い、ヘナヘナと丸椅子に腰をおとした。私はパジャマに着替え、ベッドに横になった。少し上半身を起こして窓から外を見ていた。透き通った青い空だった。急に健一さんの顔が浮かんだ。そうすると、涙が止まらなくなって、毛布に顔を埋めて、嗚咽が止まらなかった。どうしてこんなに涙って止めどなく流れてくるのだろう。母が背中を優しく撫でてくれた。母も涙ぐんでいるようだ。そこに、妹と、東京の大学生時代からの親友の高槻たかつきまことが入室してきた。

「大丈夫? お姉ちゃん!」

「大丈夫なの、小百合❗」二人が一緒に声をかけてきた。

「何とか頑張るだけよ。有り難う! まこと」としゃくりあげながら言った。妹も私のやベッドにすがり付き、泣きじゃくっていた。

「オーバーね、あんた髪を切ったの? とても可愛くて似合ってるわよ」

 大学時代からの親友まことは大学のテニスサークルでダブルスのコンビをずっと組んでいて、結構行けてたんだけど、大学の都大会ではベスト十六まで進んだこともあった。しかもまことも美人でテニス界では、ビューティーペアと呼ばれたものだったわ。相変わらず綺麗だった。

「二人とも来てくれて有り難う! 特にまことは早く駆けつけてくれて有り難う」


 ーーそうは言ったものの、本当に早く会いたいのは健一さんだ、❗ーー


 看護師さんが病室に入ってきて、私に点滴を打った。

「あっこれは抗がん剤の一種なのよ、もし気分が悪なったり、痛みが出たら直ぐに呼んでください。明日から精密検査を行いますから、朝先生の診察の後にCTスキャンを行い。午後からは、MRI検査を行いますので、その結果どういう措置をとるかを婦人科の先生、外科の先生が集まって話し合い、最良の措置を行うことになっています」と言ってるときに、健一さんの御両親が見舞に来てくれた。

「小百合さん、大変なことになったわね」

 健一さんのお母さんが言った。するとお父さんが、

「勿論、健一が一番に駆け付けるのが本当だが、実は今健一は今野先生の東京事務所に後援会長と一緒に呼び出されて、上京してるんだ。帰ってきたら直ぐに来るから、少し待っていておくれ」


 ーーそうなんだ。今東京に行っているのね、じゃあ仕方ないわねーー


 いくらか気分がホッとした。それにしてもMRIを撮るんだ。やだな~私は少し狭所恐怖症なのよね。それにヘッドフォンを付けても五月蝿いのよね。と思った。またまた気分がへこんできた。私そんなに悪いのかな~

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