第38話 ヒロイモノ

「るららー、るらー♪」

「きゅきゅー♪きゅっきゅきゅー♫」


ここは森の中なので、雪花も天花たちもかげから出し、さやかぎも外している。

魔力のしつとか種類も、訓練してると調節ちょうせつできるようになった。

今はおおかみが嫌う魔力を出しているので、狼森ウルフフォレストでもラクラクだ。

どうやら天使狼エンジェル・ウルフ神狼フェンリルは、同じ光属性でも、なんか根本的こんぽんてきに違うらしくって、天使狼エンジェル・ウルフ的にダメな魔力も神狼フェンリル的にはオーケーらしい。

同じ森に住んでいても敵対関係だったと言っていた。


『ん?』


何かに気づいたのか、クンクン、と天花が鼻面はなづらをあげてにおいをぐ。

それに釣られたのか雪花、白華、麗も次々と匂いを嗅ぎ出す。


「みんな何やって……、ッ?」


その時、月狐としての嗅覚きゅうかくが、ひとつの匂いをとらえた。

鉄のような、ツンと鼻をつく匂い。

これは…


の匂い…!」


混血として、月狐とともに吸血鬼でもある俺は、特に“この匂い”に敏感びんかんだった。


「行くぞ!」


はじかれたように、俺たちは一斉いっせいに走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side ???  天界にて


「はっ、はぁ、はぁ、はぁ…」


なるべく音を立てないように、必死に走る。

後ろからは“魔族”どもがボクを追ってくる。


「クソッ…!、ッ、あっ!!」


うっかり足を踏み外し、天界の“地”を突き抜け、ボクは人界じんかいに落ちてしまった────。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハッと目覚める。

近くに魔族の気配は無い。

でも、この気配は…、天使狼エンジェル・ウルフ

地上にしかいないはずじゃ…

やっぱりボクは人界に落ちたのか。

……、人型だと目立つな、動物に化けておこう。

すっかり疲労して、ピクリとも動かない足。

残りわずかな魔力を使って白猫に化ける。

まぁ、血のせいでほぼ赤色だけど。


「にゃぅ…」

「にゃっ?」


何かの鳴き声がした。

そちらを見ると、黒色の子猫がぐったりと血まみれで倒れていた。

ボクよりもひどいって、なにがあったんだろうか。

足は動かないけど、手は…、動くな。

ずりずりとうように子猫に近づき、そっとめる。


「にゃ…」


ボクのことを父親とでも勘違かんちがいしているのか、すり寄ってくる。

お腹も減ってきたし、心なしか寒い。

ボクは死ぬのかな…?

でも、心はなぜか暖かかった。

意識が遠くなる中、腕(?)の中の子猫の息も弱まっていく。

意識をつなぎとめるように必死に舐める。


「グルルルル」


ッ!最悪だ。

こんな時に天使狼エンジェル・ウルフに見つかるなんて…!

飛びかかってくる狼の姿すがたみょうに遅く、スローモーションのように見えた。

せめてこの子だけは、と子猫を抱きしめ────




「はっ!」




唐突とうとつに、天使狼エンジェル・ウルフ背後はいご人影ひとかげが現れ、回し蹴りを叩き込んだ。


「キャイン!!」


叫んだ天使狼エンジェル・ウルフは、尻尾をしまってイソイソと逃げていった。


「よかった、間に合った!大丈夫か…、って、2匹いる!!雪花、雪花ー!」


たす、かった…?

黒髪に青い瞳のに助けられた。

思わず安心して、ボクは意識を手放した────。

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